サーバ型放送に対する放送事業者の取り組みとは

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 放送通信領域のニューズレターを発行している「日経ニューメディア」が7月20日、「家電・通信のあり方を一変するサーバー型放送の全容」と題したセミナーを主催した。放送事業者を中心にした事業者有志が2003年9月に設立した「サーバー型放送運用規定作成プロジェクト(通称「サーバーP」)」におけるキープレーヤーをスピーカーに迎え、これまで公にされてこなかった同プロジェクトの詳細や主要プレーヤーの動向などをうかがい知る機会となった。

 ほぼ1日を使った同セミナーは、日経ニューメディア編集長の渡辺博則氏によるオープニングスピーチに始まった。渡辺氏によると、番組情報などを記述したメタデータとHDDなど大容量蓄積装置内蔵の専用端末を駆使したサーバ型放送は、単に放送と通信をセット販売しているだけの放送と通信の「統合」ではなく、コンテンツやサービスレベルでの「融合」が実現する最初のサービスであるという。そのため幅広く業界を横断した規格策定プロセスが必要となるほか、既存のビジネスモデルと相反するサービスの導入工程をいかに調整するかなど課題も多い。

 だが、現在、サーバーPではこれまでの放送規格策定以上に放送事業者が主導した体制で議論が進められているため、ブロードバンドなどとは異なり著作権者にとって親和性の高いサービスが実現される可能性がある。その結果、ブロードバンドやストレージメディアなどを含めたコンテンツ流通の可能性が広がるという指摘がなされた。

幅広い領域の事業者が参加するサーバーP

 その後、放送業界における新技術導入では常に主導的な立場にある公共放送のNHK 総合企画室(デジタル放送推進)の元橋圭哉氏、サーバ型放送に積極的な有料放送事業者WOWOWの経営企画局 経営企画部 参事である柳川良文氏、民放の代表でありサーバーPの中核分科会のリーダーである日本テレビ放送網 技術統括局 技術開発部の浦野丈治氏、そしてサーバ型放送におけるビジネスモデルを模索する立場から、広告代理店である電通 メディアコンテンツ計画局 アド・システム開発部 主幹の飯島章夫氏の4名が登場した。それぞれ1時間の持ち時間でサーバ型放送の概要と規格策定の現状、そしてそれぞれの立場から見た同サービスの課題と動向について述べ、最後に「公共・有料放送」と「民放・広告ビジネス」の2セッションに分かれての質疑応答という、内容的に濃いものだった。

 それぞれのスピーカーの共通要素として、サーバーPに関する説明があった。それによると、サーバーPは総務省やその外郭団体である電波産業会(ARIB)、放送事業者および機器メーカーによる通常の規格策定プロセスとは異なり、幅広い領域の事業者が参加するものとなっている。これは放送・通信・家電の各業界を緊密かつ横断的に包含する可能性が高いサーバ型放送特性を考慮したからだという。

 しかしながら、同プロジェクトには80数社の参加しかなく、オープンとはいえ広く放送関連事業者が集合したものとはいえない状態になっている。その背景には、放送事業者や家電業界の多くが現在進行中の地上デジタル放送の導入と普及に注力しており、通信放送融合型サービスとして注目されるサーバ型放送にはとても資源を割くことができないという実情があるという。

全体的には前向き、しかしベクトルは異なる

 壇上に上がった4人のスピーカーは、サーバ型放送の実現を推進するという点では共通するものの、所属する事業者の立場という点では大きく異なった発言が目立つ。公共放送として多様なコンテンツ流通を実現する立場にあるNHKや、有料放送事業の裾野を少しでも広げたいWOWOWは、2005年度以降の早い時期にサービスの提供をするという。

 一方、既存の広告ビジネスモデルとのトレードオフを嫌う地上波放送事業者は、サーバ型放送サービスの提供の可能性は白紙状態にあるとする。ただし、PVR(パーソナルビデオレコーダー)機器により視聴行動が変化していることに対応するためにも、何らかの手段をとる必要性は認識していると発言。広告代理店はサーバ型放送が放送メディアという基盤的性格を有する以上は、広告ビジネスの可能性を探ることで新サービスの確立促進に貢献できるとした。

 全体的には前向きであることは確かだが、そのベクトルはそれぞれに異なるという印象が残った。特に、高度サービスを実現する高機能認証システムであるS-CAS(現行B-CASの進化形)などの実装の是非やブロードバンドとの融合サービスの描き方などは、意見の相違も大きいようだ。

 今回のセミナーでは放送事業者から見たサーバ型放送のあり方について概要を知ることができたが、登壇しなかったメーカーや通信事業者、そして番組やメタデータの制作や編集を行うコンテンツ制作会社やアグリゲータがどのような戦略を練っているのだろうか。すでに、参加者たちの興味はそこに向かっているようだ。

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