SEO/SEMの地平と彼岸 - (page 2)

SEO/SEMは新たなウェブの世界をもたらすか

 さて、SEO/SEMという行為を、ビジネスの側面からではなくちょっと違った視点から眺めてみよう。

 インターネット、より厳密に言えばワールドワイドウェブ(WWW)は、周知の通り、ハイパーテキスト型のデータベースを分散環境下で実現するためにCERN(欧州合同素粒子原子核研究機構)で開発された。自己組織化という概念の実践よりも、現実的な運用性を重視したつくりになっている。すなわち、情報の提供者が任意に既存の情報にリンクを付加できる仕組みだ。ここで生じるのは、リンクは古いものから新しいものにはつけられるが、その逆はできないという当然の理だ。が、これは複雑怪奇な規模にまで膨張したウェブ世界の混沌の源となり、同時に検索エンジンの台頭、そしてSEO/SEMといったマーケティング手法の出現に至った。

 全体的な構造としては一方向のベクトルしか持ち得ない情報の集積体であるウェブを、何らかの手段を講じることで「知性」を与えようという試みもいくつかある。自己組織化への挑戦というわけだ。しかし、それは現状、成功しているとはいえない。技術的な実現手法としては、現在の単純なウェブの仕組みをかなり根本から変更すれば可能性はあるらしい。しかし、リプレイスというのは往々にして困難なことが多いし、そもそもウェブに「知性」を与えるといっても、「2001年宇宙の旅」に出てくるHAL9000よろしく、いきなりウェブが人格を得てIEがしゃべりだしたりするわけではないわけで、そのメリットは不明だ。

 そもそも知性を与えるという大層な試みをするまでもなく、ウェブを構成する各ノード間でフィードバックを相互に返せるようにするだけで、SEO/SEMと同様の機能が自動的に実現される可能性がある。単純な機能を付加することで自己組織化させようというアプローチだ。ウェブをリプレイスをすることなく、SEO/SEMの他にも多様な可能性を与えることできるといわれている。

 具体的には、htmlで記述されたファイルに組み込まれたスクリプトや、サーバスクリプトのようにノードで実行可能な環境を活用してウェブ全体に分散したフィードバック機能を取り込み、人為的にリンクを張ることなくウェブを構成するノード同士が連携することで、利用者が検索などに費やす手間を省くことができるかもしれない。現在のSEO/SEMというITサービスは手動でサイトのコンテンツを変更したりしているが、それを自動化するわけだ。それもウェブという複雑系の動きをリアルタイムに反映したダイナミックな関係が常時更新され続けるようになる。

 そんなフィードバックの仕組みの例としては、例えばBlogのtrackback機能のように利用者が読者/作者として相互に役割を入れ替えながら、自らをフィードバックループに取り込んだシステムがあるだろう。これまでは利用者を取り込むことが一番大変なタスクで、その継続を動機つけることにマーケッターは腐心してきた。しかし、利用者が自らの意思でより大きなシステムへと自らを没入するよう要求するメディアの普及は、この発想を根源から壊しつつある。

 そのとき必要となるのは、もっと簡単にフィードバックを返すこと=人間の行動をごく自然に取り込むウェブと人間からなるフィードバックシステムによって、ウェブ、あるいは特定のサービスが自己組織化することではないかと思う。ユビキタスなどのテクノロジーの議論も、道具的に「対人」ではなく、「人も取り込んだ系」として議論をすることで、もっと違った展開があるように感じることも多い。

 脱線が過ぎたようだ。

 検索エンジンはウェブという世界をもっと使いやすくするために、編集という機能を提供するものではないかという期待があった。が、それはべき乗則の発現に見られたとおり、単機能なハブであるという厳然たる事実がある。そしてそれを暗黙のうちに受け止め、それをむしろ活用しようとするSEO/SEMという発想につながっている。しかし、時代は止まらない。小手先だけのSEO/SEMは、だれもが当然のごとく利用するようになった時点でコモディティ化するだろう。また、検索機能がいかに高度化しても、検索エンジンが単機能ハブでしかないなら、SEO/SEMのコモディティ化を中和し、そのエントロピー増大を抑えることはできないだろう。

 しかし、もしSEO/SEMを自動的に実現するようになるなど、ノード同士が特定の目的のために相互の状況に関する情報をダイナミックにフィードバックしあい、協調するようになれば、複雑系としての振る舞いが生じ、検索エンジンのあり方も変わっていくに違いない。結果として、利用者にとってウェブの世界が編集可能になり、今までとはまったく異なった経験価値が生じるだろう。

 SEO/SEMそれそのものよりも、SEO/SEMを熱く語る人々の向こうにそんな世界を夢見るのは僕だけなのだろうか。

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