「ITを実際の社会に落としていく」内閣官房・岸博幸氏 - (page 5)

  • 一覧
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

CNET読者へのメッセージ:e-Japanをどう見るか

--最後に、CNETの読者に、e-Japanの見方といいますか、どのような点に注目していくべきか、についてアドバイスをお願いしたいのですが。

岸: e-Japanは、単なるIT振興政策ではなく、政府の規制改革の一環であり、他の規制改革の取り組みとの合わせ技であることをまずご理解して頂きたいと思います。単なる技術面だけではない、社会政策的な視点を常に意識すべきであると思います。

 次に、行政もそれなりに資料は出しているので、それをしっかり読んで頂きたいと思います。IT戦略本部のHPでは、各回の議事録なども含めてほとんどの資料を公開しています。それをくまなく読めば、IT戦略本部でどのような議論が行われているのか、各々の政策課題についてどのような考えを持っているのか、がある程度分かってくると思います。

 ただし、政府の言っていることが全て正しいわけではありません。ここも分かって欲しいです。ある程度の政策は示しているが、政府は神様ではないのです。ですから、ここはおかしいと思ったら、パブリック・コメントなどを通して、きちんとフィードバックを返すというのも、重要なのだと思います。

--ありがとうございました。

e-Japanを知る豆知識(2):
「IT基本法、読んだことありますか?」

 インタビューの中でも出てきたように高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)は「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(平成12年法律第144号)」(いわゆるIT基本法)に拠って設置が根拠づけられている行政組織である。いわゆる個別の法律とは異なり、包括的な規定である基本法は、豆知識1で取り上げた各種ドキュメントと異なり、意外ときちんと読まれていないのではないだろうか。ここでは、特にIT戦略本部の持つ機能、権限に焦点を当てて、注目すべき条文を紹介していくことにしたい。

■国と地方公共団体の関係

 第十条から第十二条では、e-Japanに関わる国の役目と地方との関係が規定されている。第十条については、要するに国が責任をもって政策を運営しなさい、ということなので、当たり前のことなのだが、第十一条に興味深い記述がある。

 (国及び地方公共団体の責務)
第十条 国は、第三条から前条までに定める高度情報通信ネットワーク社会の形成についての基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、高度情報通信ネットワーク社会の形成に関する施策を策定し、及び実施する責務を有する。
第十一条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、高度情報通信ネットワーク社会の形成に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、その地方公共団体の区域の特性を生かした自主的な施策を策定し、及び実施する責務を有する。
第十二条 国及び地方公共団体は、高度情報通信ネットワーク社会の形成に関する施策が迅速かつ重点的に実施されるよう、相互に連携を図らなければならない。

 第十一条では、基本理念(これは、「e-Japan戦略」よりもさらに基本的な国としての目指すIT社会の理念を表している)に則るとはいえ、「国との適切な役割分担」を踏まえて「自主的な施策を策定し、及び実施する」と記述されている。これは、地方自治という大原則があるために、e-Japanを含めた情報化政策についても、地方独自の施策の立案・推進という方針を取らざるを得ないことを示している。

 次の第十二条ではe-Japan関連政策が遅滞なく有効に実施されるように相互に連携すべし、という付帯項目は付いているものの、この十一条の壁は、例えば政府が地方自治体に対してe-Japanで策定された政策方針なのだから、これをやれ、あれをやれ、とあまり口を強くして言えないというウィークポイントに繋がってきてしまう。この部分は、地方公共団体とe-Japanに関わる重要な問題であり、今後のインタビューシリーズでも取り上げていくことになるテーマであろう。

■政府の義務と情報公開

 第十三条と第十四条は、政府がe-Japanの推進に当たってどのような措置を講ずるべきかが規定されている。第十三条では、e-Japanの各施策を実施するのに必要な法律上の施策、及び財政上の措置などを講じよ、と述べられており、内閣官房はe-Japanの推進のために、各省庁や財務省と連携して、必要な法律・政省令、あるいは予算措置についての策定、あるいは改善を実施することになる。また、この条文の意味は、e-Japanの推進にあたり、既存法制や政省令が阻害要因となっているので有れば、必要な改善を行うということ、すなわちe-Japanの推進が(調整を経るにせよ)ある程度既存制度に対して優越するということを示している点にある。これは、ITを通じた規制改革という意味を持つe-Japanにとって重要な意味を持っていると言えるだろう。

 (法制上の措置等)
第十三条 政府は、高度情報通信ネットワーク社会の形成に関する施策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない。
 (統計等の作成及び公表)
第十四条 政府は、高度情報通信ネットワーク社会に関する統計その他の高度情報通信ネットワーク社会の形成に資する資料を作成し、インターネットの利用その他適切な方法により随時公表しなければならない。

 一方、第十四条の規定も極めて重要である。電子政府の進展に伴い、各省庁での政策資料のインターネット上での提供は、IT分野はもちろん、(例:経済産業省情報政策HP総務省情報通信政策HP)それ以外の分野に置いても、電子政府の総合窓口等、活発になってきているところだが、IT戦略本部については、インタビューにもあったように、各回の議事録、提出された資料を含めてすべて公開されている。これは、第十四条の規定によるものである。政策過程の透明化の第一歩は資料の公開であり、この点で第十四条の規定も重要であろう。

■内閣官房の権限と霞が関との微妙な関係

 さて、ここで注意しなければならないのは、e-Japan戦略は官邸に戦略や重点計画の策定イニシアチブがあるのだが、実際の政策を実施するのは各省庁であるという点である。先ほどのコラム(1)で取り上げたe-Japanを巡る各組織の位置関係を示す図であるが、それを見ると一見して「IT戦略本部、事務局の内閣官房のIT推進室は強大な権限を持っているのではないか」という錯覚にとらわれてしまうかもしれない。しかしながら、実際にはIT戦略本部が持っている権限は、第二十六条にあるような、極めて曖昧なものになっている。

 (所掌事務)
第二十六条 本部は、次に掲げる事務をつかさどる。
 一 高度情報通信ネットワーク社会の形成に関する重点計画(以下「重点計画」という。)を作成し、及びその実施を推進すること。
 二 前号に掲げるもののほか、高度情報通信ネットワーク社会の形成に関する施策で重要なものの企画に関して審議し、及びその施策の実施を推進すること。
 (資料の提出その他の協力)
第三十一条 本部は、その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは、関係行政機関、地方公共団体及び独立行政法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人をいう。)の長並びに特殊法人(法律により直接に設立された法人又は特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人であって、総務省設置法(平成十一年法律第九十一号)第四条第十五号の規定の適用を受けるものをいう。)の代表者に対して、資料の提出、意見の開陳、説明その他必要な協力を求めることができる。
 
2 本部は、その所掌事務を遂行するため特に必要があると認めるときは、前項に規定する者以外の者に対しても、必要な協力を依頼することができる。

 具体的には何かと言えば、第三十一条にあるように、「資料の提出、意見の開陳、説明その他必要な協力」を関係省庁や独立行政法人等に求めることが出来る、というだけである。基本的に、内閣官房は内閣法(昭和二十二年一月十六日法律第五号)に規定されているような、省庁にまたがる政策の企画立案、及び行政各部の総合調整、という権限が付与されているが、それはあくまで「調整」であり、何らかの強制力を伴った強力なリーダーシップはそもそも、付与されていない。

第十二条  内閣に、内閣官房を置く。
○2  内閣官房は、次に掲げる事務をつかさどる。
一  閣議事項の整理その他内閣の庶務
二  内閣の重要政策に関する基本的な方針に関する企画及び立案並びに総合調整に関する事務
三  閣議に係る重要事項に関する企画及び立案並びに総合調整に関する事務
四  行政各部の施策の統一を図るために必要となる企画及び立案並びに総合調整に関する事務
五  前三号に掲げるもののほか、行政各部の施策に関するその統一保持上必要な企画及び立案並びに総合調整に関する事務
六  内閣の重要政策に関する情報の収集調査に関する事務

 この内閣官房の権限の限界、という弱点は、インタビューの中でも岸氏は問題点として挙げていたが、e-Japan戦略が表面上はIT基本法の第十三条で規定されているように、従来の霞が関の政策パッケージとしては類を見ない大きな優先順位を与えられている反面、その実施に当たってはIT戦略本部が乗り越えなければならない霞が関との調整という壁があること、そしてしばしば内閣官房の調整にも限界があるという、e-Japanが抱える宿命的な問題、すなわち霞が関との力関係という微妙なバランスの上に立たされているという側面をも示している。

 この内閣のイニシアチブと霞が関の関係という問題は、e-Japanが今後も強力な政策パッケージとして我が国の情報化を推進していくことができるかという点で、極めて重大な問題であり、今後、このインタビューシリーズを通じて問うていくテーマになるだろう。

※注1: IT戦略本部。後に現在の「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部」へと改称

※注2: 官庁用語で、既存の資料をかき集めて一つの資料を作り上げることを「ガッチャンコする」という。ホッチキスの動作音から出来た言葉

※注3: 2001年1月に公表された「e-Japan戦略」は番号が付与されていなかったが、識別上、本稿では「e-Japan戦略I」と呼称する

※注4: 具体的には2000年12月に、公正取引委員会がNTTに対して行った新規参入阻害についての警告が代表的

※注5: 1980年代に霞ヶ関で開発された、他省庁との権限争議(ある省庁が提出した法案に対しての質問と回答、数次に渡る協議を通じてその法案による行政権限の範囲を決めるための争い。権限を拡大した方が勝者となる)において、ある日の18時頃に法案を出した省庁に質問を数百個投げ、その回答期限を翌朝10時に設定し、回答が行われない場合は「誠意が見られない」等のいちゃもんを付けて交渉を有利にする戦術。以上の記述は前田充浩「政策官庁の「情報史観」:ヴァーチャル・ガバナンスによる霞ヶ関の改革試案」「GLOCOM REVIEW」2000年6月号(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター)による。

筆者プロフィール
澁川 修一
1976年生。1999年慶應義塾大学総合政策学部卒業。同年、国際大学GLOCOM Research Associates。2001年より独立行政法人経済産業研究所(RIETI)に所属し、情報通信関連政策を担当。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]