プロセッサの性能はクロック速度で決まると考えているなら、考えを改める必要がありそうだ。
IBM半導体部門の研究開発を指揮するBernie Meyersonは、プロセッサの動作速度はもはや最重要項目ではないという。同氏は現在、IBMのリソースを別分野の研究開発に割り当てている。例えば、その時々の必要に応じて(チップの)設定を変え、さまざまなタスクにチップを適応させるテクノロジーはその1つだ。また同氏は、顧客との関係においても、これまでにないオープンなアプローチを導入しようとしている。
IBMにとって、このオープン化のアプローチはチップの技術情報を開示するとともに、サードパーティのハードウェアやソフトウェア開発スキルへの依存度を高めることを意味する。しかし、このアプローチが成功すれば、IBMはPowerプロセッサをとりまく巨大なエコシステムをつくり出し、そして、チップ事業の見通しも改善されるかもしれない。CNET News.comはMeyersonにインタビューを行った。
--IBMはPowerプロセッサのアーキテクチャをよりオープンなものにしようとしています。その意図は何でしょうか。
IBMは、技術の世界で起きている抜本的な変化に対応しようとしています。Powerに変更を加えたことも、戦略を見直したこともその一環です。基礎技術の世界では1、2年ほど前から、大きな変化が起きています。私はそれを「基礎技術の悲劇」と呼んでいます。ベーシック技術が以前ほど性能の向上に貢献しなくなったのです。
--性能が頭打ちになったということですか。
性能が向上する速度が変わったということです。トランジスタの小型化が進んだ結果、多少の技術革新では性能が改善されなくなりました。これまでは年30%で技術革新が進んでいたとすると、それが突然半分になり、結果として顧客のシステムが改善される速度もこれまでの半分になってしまったのです。先日、IBMが発表した次世代(Power)の戦略は、業界の一般的な戦略とはまったく異なるものでした。われわれはソリューションの分野で培った手法を、システムやその基盤となるハードウェア、ソフトウェアの分野にも適用したのです。
--念のために、「ソリューション」の意味するところを教えてください。
ユーザーが問題にする最終結果のことです。システムを購入したユーザーは、トランザクションの処理能力に注目します--これが最終結果です。ユーザーはマイクロプロセッサのクロック周波数が8%以上改善されたかどうかを見ているわけではありません。チップメーカーはこれまで、クロック周波数がどれだけ改善されたかを発表してきました。しかし率直なところ、それだけでは性能は向上しません。IBMが発表した戦略は、「システムのすべての側面を同時に最適化する」というものでした。私はこれをホリスティック・デザイン(全体的設計)と呼んでいます。
--IT業界ではよく聞く言葉ですが、IBMの定義を教えてください。
ホリスティック・デザインとは、トランジスタの細部にのみ気を取られるのではなく、そうした細部が回路にどう書き込まれ、その回路がチップのアーキテクチャにどう組み込まれるのか、という点にも気を配るということです。さらにはパッケージの方法、システムとの適合性、そしてより重要なシステムソフトウェアとの連携にも配慮する必要があります。
消費電力の問題はプロセッサの性能を制限する大きな要因になりつつあります。この問題に積極的かつ包括的に対処するためには、システム自体がチップに変更を指示し、電力消費量を最適化できるようにしなければなりません。これは抜本的な変化です。この転換の意義を十分に理解してもらえるとよいのですが。
--具体的にはどんな策がありますか。
われわれはチップを必要に応じて、物理的に変形させる技術にも取り組んでいます。たとえば、メモリ内で大量のエラーが発生しているとします--IBMにはこうしたエラーを検出するソフトウェアがあります。しかし、もしチップの特定のセグメントが何らかの理由で大量のエラー訂正を行っているなら、システムはそのセグメントを切り離す命令を自律的に発してしかるべきです。思い切った思考の転換が必要です。これは「このチップの機能はかくかくしかじかである、以上」という従来の硬直したアプローチとは一線を画するものです。
--ところで、あなたはスーパーコンピュータから携帯端末に至るまで、あらゆる電子機器の開発により双方向的なアプローチを導入しようとしていますね。
これは「世界には信じられないほど頭のいい人間が大勢いる」という私の持論に基づいています。こうした人々にPowerのアーキテクチャやコアを公開し、その組み立て方や利用方法を教え、必要なツールを提供したらどうなるでしょうか。
たとえば、ある設計者がいるとします。非常に優秀な人物だけれども、IBMのシステムが閉鎖的だったために、これまではその能力を十分に活用することができなかった--しかし、IBMのシステムがオープンになり、誰でも自由に使えるようになれば、この人物はこういうでしょう。「これなら、IBMのチップと互換性のあるコアを設計できる。これが完成したら、Powerアーキテクチャと完全互換のコアとしてライブラリに登録しよう。そうすれば、多少の金と引き換えに、(この知的財産の)ライセンスをほかの設計者に提供できるようになる」と。
一方、(システムオンチップ・プロセッサの)設計に取り組む企業は、IBM製のコアやサードパーティ製(の入出力システム)、サードパーティ製のメモリ・コントローラを組み合わせてチップを開発できるようになります。なぜなら、どれも共通の標準に基づいて設計されているからです。
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