IBMのPowerチップをとりまく生態系づくり - (page 2)

John G. Spooner(CNET News.com)2004年06月17日 10時00分

--その共通の標準がPowerアーキテクチャだと。

 その通りです。共通のアーキテクチャに従っていれば、豊富なパーツとツールを利用できる。しかし、そのためにはオープンであることが不可欠です。

--となると、大量の技術情報を公開しなければなりませんね。IBMの技術情報を誰もが手軽に利用できるようになるのですか。

 プロセスを自動化するつもりです。ウェブ上で設計キットをダウンロードできるようになります。これまでとは桁違いのデータを、事実上無料で公開し、オープンなプロセスを構築するつもりです。ウェブにアクセスするだけで、すべてをタダで入手できるようになるのです。

 チップ設計の点からいえば、効率的な通信チップの開発に多くの年月と人員を割かなくても、ウェブにアクセスすれば、エコシステムの誰かが作った通信チップをダウンロードできるようになるでしょう。エコシステムではほかにもあらゆる種類の知的財産を入手できます。

--その結果、チップの設計はオープンになるのでしょうか。IBMと協力しやすくなるのは分かりますが、プロセッサのアーキテクチャを管理するのは依然としてIBMです。

 エコシステムの崩壊を回避するためには、その点は維持する必要があります。多くの人が参加するためには、エコシステムは安定した場所でなければなりません。もっといい言葉があるかもしれませんが、いわゆるインターフェースを明確にする必要があるということです。合意されたデータ交換方法がない限り、第三者が開発した部品との互換性を確保することはできません。データをやり取りする術がないからです。

 そういう意味で、データ交換の基盤となるアーキテクチャは保護しなければなりません。アーキテクチャを固定し、なりゆきまかせで変更できないようにする必要があります。そうしなければ、誰かがやってきて、コアのアーキテクチャと命令セットを変えてしまうかもしれない。そうなれば、それまでの知的財産は無効になり、エコシステムは崩壊してしまいます。

 われわれは今、類のない状況に直面しています。もちろん、何らかの管理モデルを検討していないわけではありません。しかし、形成過程にあるこのパートナーシップを保護することは非常に重要です。人々が参加するこのパートナーシップを確実に保護する唯一の方法は、設計の基盤となる命令セットの完全性を保つことです。これは制約ではありますが、何かを隠すための制約ではありません。安定性を確保することは、エコシステムを構築するための必要条件なのです。

--フィードバックを取り入れる予定はありますか。システムがオープンになれば、必然的に、さまざまな要望が寄せられることになります。特に多い要望については、それが理にかなったものである限り、Powerアーキテクチャに反映されるのでしょうか。

 まさに、それが先ほど申し上げたことです。現在、こうした問題に対処する管理組織の設立を検討しています。最初の一歩として、活動を開始するために必要なツールをダウンロードしたり、必要なハードウェアにアクセスしたりすることのできるウェブサイトを立ち上げました。

 先日のカンファレンスでは「マーケットプレイス」が誕生する可能性について話をし、管理モデルにも言及しました。しかし、IBM自身がこうしたマーケットプレイスを構築するつもりはありません。これを管理しようとしているという印象を持たれるのも不本意です。そんなつもりはないのですから。IBMの狙いはその反対--つまり、このマーケットプレイスを完全にオープンで、自己組織的な場所にすることなのです。

--IBMにとって、このマーケットプレイスの魅力とは。

 前に進むための、とてつもなく強力な武器といえるでしょう。ご存じの通り、IBMはいくつかの分野では世界のトップに位置しています。システム設計とソフトウェア設計にかけては、世界でも指折りの革新的な技術者がそろっていると自負しています。しかし、万事において一番というわけではない。そんな考えはばかげています。オープンなエコシステムを構築することによって初めて、世界の最良のものを集め、取り入れることができる。そこに莫大な利益が生じるのです。

 仮に、ほとんどの市場分野で競争優位を確保している企業があるとしましょう。そうした企業に足りないのは、人々が価値を持ち寄ることのできる場所です。人々が価値を持ち寄ることによって、誰もが利益を享受できるようになるのです。

--このエコシステムによって、チップの売上やファウンドリ・サービスの需要が拡大する見込みは。

 IBMのすべての事業にプラスの影響が出ると考えています。当然、ハードウェア部門の利益は大きい。しかし、たとえばサービス部門に目を転じても、やはり同様の利益があるはずです。

--エコシステムは低価格PCが求められているような市場でも有効なのでしょうか。

 基本的に、このシステムの利点は完全なカスタムソリューション、つまり高度に最適化されたソリューションを構築できるところにあります。ですから、今日の標準的なチップでは対応できない市場があるなら、エコシステムの活躍が期待できます。

--というと、このプロセスは未来のチップにしか当てはまらないのですか。

 いいえ、それは違います。実際、Power5 ではこうした機能の多くが実現されています。動的に再構成を行うことができますし、ほかにも多彩な機能を備えています。しかし、自律的に変形するチップなどは将来の話です。その実現にはあと2、3年はかかるでしょう。

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