サムスンと日本の微妙な関係

森祐治
構成/文:永井美智子(CNET Japan編集部)
2004年06月04日 10時00分

  サムスン電子の話題がよく出る。ソニーや松下電器産業が目標とする営業利益率10%を軽々と超える高収益体質、半導体や液晶、携帯電話端末などデジタル家電領域での急速な成長による世界的な高いシェアの達成ぶりに注目が集まっている。そのサムスンが日本でのマーケティングコミュニケーションを活発化させてきたこともあり、日本市場への本格参入を予期させるとして特集を組むメディアも多く、日本家電業界の警戒感をあおっている。

  しかし、日本市場における存在感が小さいために、サムスンの競争力に懐疑的な見方をする人もいるようだ。そういった人は日本市場における存在感が薄いとその実力を過小評価するきらいがあるが、重要な点を見落としている。それは、サムスンにとって日本市場は十分魅力的なのか、という点だ。

サムスンの強さの秘密とは

  まずはサムスンの強さの源泉について確認しておこう。サムスンの競争力はプロダクトイノベーションよりも、プロセスイノベーションにあるといっていい。まさに「モノつくり」そのものだ。しかし、サムスンの得意とするプロセスイノベーションとは、職人仕事のような精緻な少量生産を実現するための細かな仕組み云々ではなく、単純明快なものだ。すなわち、生産量が多いほど1個当たりの生産コストが低くなるという製造業の本質である「規模の経済」を生かすことだ。

  サムスンはAV機器や家電がいかに現時点でのハイテク技術を投入したところで、基本的にコモディティ化するものだということをよく認識しているに違いない。製造業の運命である、「大量生産すればコストは安くなって儲かるが、その分競争も激しくなって、やがては販売価格が下がる。また、他社にまねをされる可能性も高い」ということを素直に受け止めている。

  そこでサムスンでは、他社に先行した最先端の製品を大量に作り、そこで得た利潤を次の投資に振り向けるという、一見当たり前だがなかなかできないモデルを実直に実践している。一般的に日本の企業は最先端の技術を導入する際、少しずつ様子を見ながら進めていく。工場ならば1ラインずつ新技術に対応していくという方法だ。しかしサムスンは、最初から大規模に投入してしまう。たとえば1つの工場をすべて新技術対応にする、といった具合だ。

  技術が安定して量産効果が見え始めるのは初期見本出荷から2、3周回後のものだが、そこに至るまでに価格競争は激しく利潤が低くなってしまっている。サムスンは歩留まりの低い初期製品であっても、ある程度の量を生産し投資を回収してしまうので、価格競争の影響を受けにくい体質を築き上げたといわれている。

(松下+ソニー)÷2=サムスン

  大規模な設備と工程改善によって大量に製品を製造するという点で、サムスンは松下電器やトヨタ自動車が得意とする「生産力」を持つといっていい。さらにサムスンは、ソニーや本田技研工業のような製品力も兼ね備えようとしている。

  サムスングループ会長の李健熙(イ・ゴンヒ)氏は1996年に「21世紀は文化の時代であり、各社製品間の技術的格差もなくなっていく中で、厳しい目をもつ顧客にインパクトを与え、ブランド価値を築いていく手立てとなるのはデザインである」と宣言。経営主導で製品デザインの向上を図っている。そして、その延長でブランド戦略にも注力し、その成果は確実に世界市場では現実化している。

  BusinessWeekがイギリスのブランド調査専門機関であるインターブランドと共同で行った「2003年度世界100大ブランド評価」によれば、サムスン電子のブランド価値は世界第25位の108億ドルに達したという。これは家電業界ではトップとなる第20位のソニーには届かないものの、松下電器(Panasonic、79位)よりはるかに上だ。そのほかにトップ100に入る国内家電企業は、39位のキヤノンぐらいである。

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