ソフトバンクが通信業界にまた大きな衝撃を与えた。同社は5月27日、米投資会社リップルウッド・ホールディングス傘下の固定通信事業者日本テレコムを買収すると発表した。買収価格は約3400億円で、ソフトバンクが日本テレコムの株式100%を1433億円で買い取る。同社は、純有利子負債1640億円(6月4日見込み)、優先株325億円を引き継ぐ。株式取得日は2004年11月16日を予定している。ソフトバンクの株価は、週明け5月31日に前週末比470円高の4700円(終値)と急騰をみせるなど、早くも株高シナリオがスタートしている。その背景を探った。
ソフトバンクはこれまで、同社の子会社で通信事業会社のソフトバンクBBを通じて、主に個人向けにADSL(非対称デジタル加入者線)サービスやIP電話サービスを提供していた。今回の買収により、ソフトバンクは同グループにとって初となる固定通信事業を手がけるとともに、法人向けビジネスに本格参入することになる。
ソフトバンクの孫正義社長は、「個人向けのサービスは個人が納得すれば導入に結びつくが、法人向けのサービスは、取引先の問題や社内での調整など難しい場合が多い。ソフトバンクでは、法人向けサービスを行うためのテクノロジーは十分にそろっていたが、実績と顧客が欠けていた。日本テレコムの実績とブランド力を生かして、法人向けの売上高を約5割にする。個人・法人向けサービスを相互補完し、顧客基盤は1000万回線に達する。これに1万2000キロメートルの光ネットワークインフラを統合することでコスト削減効果も出る。日本テレコムの実質キャッシュフローも合わせると買収額は2年半で回収可能。(買収後の相乗効果)は年間500億円の収益が見込める」と強気の姿勢を示している。
外国証券のアナリストは「NTT、KDDIなどの大手通信事業会社の幹部の多くは、毎年数百億円の赤字を続けながらも、巨額な販売促進費を背景に加入者数獲得を優先するソフトバンクに対し、違和感を覚えながらも漠然とした脅威を感じていた。それが今回の日本テレコムの買収で、本丸ともいえる法人向け事業に攻め込まれることになったわけだ。これまでの日本テレコムブランドがソフトバンクの傘下に入ることで、法人から見てどう評価されるかが焦点になってくる」としている。
さらに、今回の買収を成功させるための大きな要素として「ソフトバンク自体の株価の上昇があるのでは」(準大手証券)との指摘もある。買収総額3400億円は、有利子負債の引き受けやリップルウッドへの第三者割当方式による新株予約権発行などを含むため、実質的なキャッシュの流出額は1000億円強にとどまる。そして、ソフトバンクの株価と需給に与える影響が最も大きいとみられるのが、リップルウッドが投資として引き受けるソフトバンクの普通株800万株(発行済み株式総数の2.3%)に相当するこの新株予約権(6月22日払い込み)の問題だ。7月27日以降の請求期間における行使価格は4700円となっており、リップルウッドからソフトバンクへ総額392億円が払い込まれる。
市場関係者からは「昨年12月に発行したCB(ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債)1500億円も、SPC(特定目的会社)経由で新株予約権部分がヘッジファンドに販売され、結果的に昨年末からの高株価を演出したとされる経緯もあることから、今後の株価上昇も期待できるのでは」との声も聞かれる。いずれにしても、ソフトバンクのビジネスモデルのなかで、株価の重要性はさらに増すことになりそうだ。
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