ICANN対ベリサイン、ドメイン名管理をめぐる戦い - (page 2)

ICANNとVeriSignの長年の確執

 このような恨みつらみはつきないが、ICANNはインターネットの中核的機能を監視する国際的組織を作り上げようという新しい試みを象徴するものだ。役員の選出をインターネットで広域的に行うといったICANNの取り組みは本当に斬新なものだった。だが、組織自体がまだ新しいこともあり、米国商務省の後ろ盾により反トラスト法をうまく免れたのではないかという重要な疑念に対する答えはいまだ闇の中だ。

 この問題に関してはさまざまな議論がなされている。マイアミ大学の法学部教授Michael Froomkinとカリフォルニア大学バークレー校のMark Lemleyは、ICANNが反トラスト法の違反で有罪になる可能性があるとの論文を発表している。また両氏は、敵対しているVeriSignも同様に「力のある民間企業に対し、同社が市場を支配できるよう求めたとして、反トラスト法の法規に抵触する恐れがある」と述べている。

 VeriSignに関する議論が巻き起こる20年前、ウィスコンシン大学の研究者や技術者が、数字を羅列したIPアドレスを一般用語に置き換える最初のネームサーバの開発とともにインターネットのドメイン名システムの基礎を作り出した。このシステムによって、ユーザーはウェブページ間の移動が容易になり、見たいページがどこにあるのか覚えやすくなったが、同時に米国政府が80年代後半にインターネットの商業利用を公式に認めたことで、論争を引き起こす原因となる火種も蒔いたのである。

 問題をより掘り下げると、VeriSign側の提訴によって鮮明になったのは、事あるごとに火花を散らし、これからもさらに激しく衝突するであろう、商業主義と非営利共同体主義が立脚する哲学の違いである。VeriSignにとって、.comと.netのデータベースは米国政府とICANNとの契約上、有効活用してもよいとされる企業資産である。だが、世間では多くの人が、世界で最も人気のあるドメイン名のマスターデータベースは公共財であり、いかなる営利団体の特定資産ではあってはならないと考えている。

 1998年にICANNが誕生して以来、VeriSignとの関係は冷淡と信頼との狭間で揺れ動いていた。2001年にICANNは、VeriSignの.comと.netに対する独占期間の延長を認め、ミシガン州民主党下院議員John Dingellとマサチューセッツ州民主党下院議員Edward Markeyからの反論を擁護した。両議員は、.orgドメインの管理をVeriSignからPublic Interest Registryに移す際にも協力していた。

 しかし、VeriSignはドメイン名のデータベースを使った新ビジネスプランの推進に ICANNが協力的でないとわかると苛立ちを見せた。不満が公の議論に発展したのが昨秋、VeriSignがSite Finderと呼ばれる新サービスを打ち出した際だ。このサービスは、まだ割り当てられていないすべての.comと .netのドメイン名を管理するもので、URLの打ち間違いなどで存在しないページにアクセスしようとすると同社の提供するページへリダイレクトする仕組みになっている。VeriSignは、他の小さなドメイン管理事業者では同様のことをICANNのお咎めなしで行なうことが許されていると主張している。

 しかし、この動きがウェブ技術者の猛烈な反発を招いた。Site Finderは、ソフトウェア設計者がある一定の規則に従って動くと想定しているインターネットの一部分の配線を変更したため、多くのメール機能やアンチスパムフィルタに大混乱をもたらしたのである。ICANNは異例の措置として、Site Finderに関する公聴会をワシントンで2度実施し、その後VeriSignに同サービスの停止を求めている。

 Site Finderは今回の訴訟でも論点となり、VeriSignは同サービスの復活に対し、ICANNが横槍を入れるのをやめさせてほしいと裁判の場で訴える場面もあった。訴訟では、VeriSignが.comおよび.netのマスターデータベースを使って利益を上げようとする行為を、ICANNが繰り返し妨害したとの疑惑のある点について、43ページにまとめられたリストが提出されている。

 マイアミ大学のFroomkinは、ICANNがSite Finderを停止させたのは正しいかもしれないが、一方でICANN自身の権限が小さくなる可能性もあると述べている。

 「短期的には、Site Finderはないほうがいい」とFroomkin。しかし、「ICANNがこれからもずっと登録業務に関するビジネスモデルについて口を挟む権利があるという理由はどこにもない。VeriSignは、信用できる契約書に基づき、反トラスト法の訴訟を行っている」

 しかしながら、.comおよび.net、.de、.jpなどの40以上のドメイン名の販売を手がけるRegister.comからは、ICANNに同意する意見があがっている。「VeriSignのやり方は行き過ぎたと思う」とRegister.comの政策ディレクターElana Broitmenは述べる。「我々は、ICANNのリーダーシップに大きな信頼を置いている。改善に向けた取り組みを実にしっかりやっているし、我々も力を合わせていく」

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