ハイテク大国ロシアの復活

 冷戦を振り返ってみると、なぜ終結までにあれほど時間がかかったのか、不思議に思うこともある。

 何年も前にソ連でコンピュータ研究に携わっていたVadim Temkinによると、ソ連国家保安委員会(KGB)はソ連全盛時代にIBMなどの企業の超機密文書を頻繁に持ち出していたようだ。Temkinは現在、Sun MicrosystemsでJava CardおよびWireless Java Technologyのソフトウェア品質エンジニアリング責任者を務めている。

 こうした文書のなかには、ほんの数週間前に出たばかりの新しいものも含まれていた。「刷りあがりのほやほやだった」。Temkinは、数週間前にスタンフォード大学で開催された「U.S.-Russia Technology Symposium」会場で私にそう語った。

 研究者たちはこうした文書を利用してスーパーコンピュータを構築し、その性能はしばしば西側諸国のものに匹敵するレベルだったが、スパイシステムは完全に機能していたわけではない。スパイを監督していた外部のKGBスパイは、研究所内で複写を監督していた内部KGBスパイとは別組織だった。ときには、IBMが文書に押した「極秘」印を、内部スパイが自分の上司による印と勘違いすることもあった。スパイたちは、そうした文書は研究者に手渡さずに机の引き出しに入れて厳重に管理してしまった。

 あるときには、外部スパイが米国の企業から5インチの磁気フロッピーディスクをくすねてきた。しかし残念なことに、別のスパイがホチキスでこのフロッピーに紙を留めてしまい、ディスクからデータを読み取れなくしてしまった。「おそらく誰かが命がけで取ってきたディスクだったろうに」とTemkinは回想している。

 もっと大変な失敗もあった。元米空軍長官Thomas C. Reedは著書At the Abyss: An Insider's History of the Cold War(地獄の中で:関係者が見た冷戦の歴史)で、米中央情報局(CIA)がバグの入ったソフトウェアをわざとKGBの二重スパイに手渡したことを記している。このソフトウェアはその後、ソ連と西欧を結ぶ天然ガスパイプラインの制御システムに導入された。このレーガン時代の陰謀は、パイプラインの爆発事故を引き起こし、その後のソ連経済の悪循環に寄与したとも考えられる。

 しかしそれでも、ロシアはかなりの機密情報を盗み出すのに成功していた。米国にも間抜けで動きの鈍い官僚がいたに違いない。

 ただ、こうした数々のスパイ活動はもう昔の話だというのも重要なポイントだ。ロシアの科学者らは現在米国やヨーロッパの企業で働いており、その結果、数年後には旧ソ連の国々が世界のハイテク経済の重要なプレーヤーとなる可能性が出てきた。

 例えば、請負で研究やプログラミングを行うモスクワのハイテク会社IBS Groupは、現在DellやIBMなどからプログラミングを請け負っている。

 米国、ノルウェー、ウクライナ、ロシアの企業によるジョイントベンチャーSea Launchは、世界初かつ唯一の商用ロケット打ち上げサービスを提供していると同プログラムの開発技術ディレクターValery Alievは述べている。同社は1999年以来、EchoStarやXM Satelliteなど12の衛星を打ち上げた。

 西側のベンチャーキャピタリストたちは、9月に開催されるロシア版Tech Tourで、新技術をより詳しく知ることになるだろう。Tech Tourは要するに、地元企業が米国のベンチャー投資家らに自らを売り込むための3日間のカンファレンスだ。科学者らが国立研究所で行った発明の権利を自分のものにできるようになったことは、ロシアの企業にとって大きな変化だ。

 Tech Tourのようなカンファレンスは成功するだろうか? 答えはおそらくyesだ。イタリアの精密ミラーメーカーMedia Larioは、同国で開催されたTech Tourの後でIntelから資金を得ている。同社の製品は、2009年より大量生産に入る予定の、極紫外線用ミラーの開発に役立つ可能性がある。

 欧米企業との提携に関して、ロシアが中国やインドに追いつくにはまだ相当な道のりがある。また、ロシアには中国やインドほどの人口もない。

 一方、数学や科学の分野では、ロシアには比較的長い歴史がある(例えば、マジックテープはスイスの研究者による発明と思っている人は多いが、ロシア産業科学技術省トップのAndrey Fursenkoによると、実際はロシアの科学者が宇宙プログラムの一環で発明したものだという)。

 長期的には、ロシアは現在米国から流出しているホワイトカラー職にとってより強力な競争相手となるかもしれない。もうホチキスを振り回す人間を心配する必要はないだろう。

筆者略歴
Michael Kanellos
CNET News.comのシニアデパートメントエディター。ハードウェアに関する情報や科学関連情報などを担当する。

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