W3Cは、将来的に特許権をめぐる問題が浮上する可能性があるにも関わらず、懸案となっている音声対応コンピュータコマンドの業界標準化を推進しているが、この件で特許クレーム対策に従事する同団体の調査員たちは大きな打撃を被っている。
ウェブ標準化団体のWorld Wide Web Consortium(W3C)が今月提出予定の、音声を使ってウェブにアクセスするための技術仕様「VoiceXML 2.0」の勧告が、米ラトガーズ大学の保有する特許権に抵触する可能性があると、複数のソフト開発会社が懸念を表明した。W3Cは、各ブラウザのウェブページの表示方法といった、大半のウェブ用ソフトに関する仕様の承認を担当しており、最近では同団体の仕様から多くの特許取得済み技術を除外するという方針を採用し、論議を巻き起こしていた。
今回浮上した問題で、予想される最悪のシナリオは、VoiceXML仕様をめぐるラトガーズ大との特許問題が行き詰まり、従来のネットサーフィンに代わる画期的なウェブアクセスの提供を約束するVoiceXML仕様に、予想外の高額な特許権使用料が課されることだ。VoiceXML技術は、音声コマンドやブッシュ式電話を使って、ウェブサーバに保存されているデータを呼び出すことを可能にし、さらにテキストから音声への変換も可能であるため、ウェブユーザーは株価やメールといった情報に電話でアクセスできる。
W3Cを批判するある人物は、Unixに関する著作権を行使してLinuxベンダーに特許権使用料の支払いを求めたSCO Groupを例に挙げ、VoiceXMLについても同様の問題が起こる可能性があると指摘した。
サンフランシスコにある市場調査会社Zelos Groupのアナリスト、Dan Millerは「VoiceXMLについては、開発者が完全にノーリスクということはありえない」と述べ、さらに「(VoiceXML仕様に含まれる技術の)発案者が、SCOと同様の行動に及ぶ可能性は常に存在する」と語った。
すでに幅広く利用されている技術に対して、それが普及した後になって(権利保有者が)特許権使用料を請求するケースが相次いでいることもあり、複数の標準における特許権の役割については、現在広範な議論が行われているところだ。今回、ソフト開発者の間でVoiceXMLについての懸念が高まったのも、背景にはそのような事情がある。しばしば引き合いに出される例としては、特許を受けたGIFやMP3ファイルフォーマットの特許権が、かなり後になって行使された事例が挙げられる。
一部のソフト開発会社は怒りの声を上げており、標準化団体は可能であればいつでも各仕様から特許取得済み技術を除外し、将来、特許権をめぐる不測の事態が生じないよう、全ての提案について念入りに調査を行うべきだと主張している。しかし一方では、全ての特許クレームを避けて通るのは事実上不可能であり、標準化団体が入手可能な最高の技術を支持したい場合はなおさらだ、との声もある。
特許権使用料の支払いはご容赦を
W3Cは、この問題について1年以上白熱した議論を展開した末、仕様勧告に「必要不可欠」と判断された特許取得済み技術は、全てロイヤリティフリーで供与されたものとする特許ポリシーを8カ月ほど前にまとめた。
このポリシーを実行するに当たり、W3Cはその時々に特許諮問委員会(Patent Advisory Group:PAG)に対し、各特許クレームの調査を行い、特定の技術について勧告を行うよう命じる。
W3Cは、これまでに2つのPAGにVoiceXML 2.0関連特許をめぐる問題の解決を命じ、少なくとも2社の特許権保有者から大幅な譲歩を勝ち取っている。
W3C は、Avaya Communicationsから、同社の特許権がVoiceXML 2.0仕様にとって必須なものではないとする確約を取りつけた。これはすなわち、Avayaは同技術の特許権使用料を徴収する権利は失わないが、誰かがAvayaの技術と関係なく、完全に相互運用可能なVoiceXMLアプリケーションを実装できることを意味する。
またオランダの大手電子メーカーのPhilipsは、同社が保有していたVoiceXML関連特許をScanSoftに譲渡したが、ScanSoftはそれらの技術について、W3Cに無償でライセンス供与を行った。
しかし、2001年10月にW3CのVoiceXMLについての作業グループに明らかにされた、ある潜在的問題は未解決のままだ。それは、ラトガーズ大が保有する米国特許番号6240448番「広域コンピュータネットワーク内の情報への音声を使ったアクセスの方法およびシステム」という特許だ。
この特許は、VoiceXMLについてのW3Cの勧告に待ったをかけた。というのもラトガーズ大はこの技術をロイヤリティフリーではなく、RAND(妥当かつ非差別的なライセンシング)条件の下で提供しており、勧告に必要不可欠と判断される技術はロイヤリティフリーで提供されることを条件とするW3Cの特許ポリシーと食い違っているからだ。
W3Cがロイヤリティフリーのライセンス取得に失敗したことを受け、同団体の調査員が次に取った行動は、同技術がVoiceXML仕様にとって本当に必要不可欠であるか否かを見極めることだった。
昨年5月にVoiceXMLが勧告候補として挙がった後、VoiceXML担当のPAGはラトガーズ大の特許エージェントであるFairfield Resources Internationalに、この問題についての意見を求めた。
Fairfieldは問い合わせを受けたことは認めたが、PAGが設定した2週間の期限までに返答しなかった。そしてPAGは、W3Cに対して、ラトガーズ大は質問に答えず、よって同特許がVoiceXMLにとって不可欠なものとの主張もなかったと報告した。PAGは、VoiceXML担当の作業グループへの報告の中で、PAGの仕事は完了したと語った。
このPAGの調査に対し、特許権について批判的な一部の人々からは、調査不十分との怒りの声が上がっている。
この記事は海外CNET Networks発のニュースをCNET Japanが日本向けに編集したものです。
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