現実的な過激派、デル

 コンピュータメーカーのDellの会長兼CEOで、社名の元でもあるMichael Dellは、自分のイメージをどうやって会社にフィットさせるか良く分っているようだ。

 コンピュータメーカーのDellといえば、安値の流通チャネルを競争優位性の源に変えた驚くべき企業として知られている。そして人間のほうのDellは、迅速に、注意深く要点を絞ってビジョンを語る人物だ。

 だが、人間であれ、企業であれ、Dellは(Appleの)Steve Jobs流に過激な新しいアイデアを導入して、業界に一目置かれるといった高尚な目標を持つタイプではない。むしろ顧客が望む変更を加え、これまで以上にコスト効率の良いコンピュータやシステムを製造することで満足している。

 1984年の創業以来同社を導いてきた38歳のMichael Dellは、CNET News.comの編集部との会談の中で、手本とする経営者や企業の名前となると口が重くなった。それよりも、新しい市場への戦略的移行や、ライバル各社が掲げているユーティリティコンピューティングのような仰々しいビジョンへの批判について話すほうが楽なようだ。

---Dellは一般消費者向けの家電分野にも参入しようとしていると聞きます。これは、PC事業におけるコアコンピテンシーの拡大ということでしょうか。

 Dellのビジネスの約85%は、われわれからコンピュータを購入する企業や機関、政府を対象としており、一般消費者向けは15%です。ですから、一般消費者向けの家電となると、われわれのビジネスの15%の部分について話をすることになります。Dellは、LCD(液晶ディスプレイ)モニター販売では世界トップで、その量は2位の1.7倍です。顧客はTVチューナーのようなマルチメディア機能を利用し始めています。日本では、消費者の50%がPCをテレビのように使っていると聞いています。これは最先端のニーズです。そこで、われわれはチューナー付きのLCDモニターの開発に着手したわけです。市場が立ち上がったというより、当然の流れだと見ています。われわれの戦略は全てコンピューティングから出発しています。MP3プレイヤーだろうが、数百万人のユーザーを持つDell Musicmatchだろうが同じです。

---コンシューマー向けの製品をより独創的にするために、研究開発費を増強する計画ですか。それとも、Dellの流通チャネルを利用する戦略でしょうか。

 Dellの研究開発部門には3600人のスタッフがおり、年間5億ドルを投資しています。この額は、Appleと同じレベルです。利益を元に研究開発の成功度合いを測ることが良い方法だとは思っていません。それよりも、成すべきことを達成するためには何に費やすべきか、という風に考えています。

---ですが、DellはMicrosoftとIntelの研究開発から支援を受けていますよね。

 開発におけるDellの戦略は、MicrosoftやIntelの戦略とは異なります。MicrosoftやIntelは、材料を提供する企業です。Dellはコンピュータシステムの会社です。研究開発費における投資回収という点では、われわれは他のコンピュータシステムベンダーより高く、研究開発費1ドルに対して5倍の収益を上げています。多くの企業が、「自分たちはDellより多くの額を研究開発に費やしているから、自分たちの方が優れている」と口にしていますが、具体的には何が優れているのでしょう。実際、こういったベンダーでは、研究開発の投資は顧客の利便にならないプロプライエタリなものを保護するのにほとんど費やされています。しかしDellは顧客の利益につながることにのみ投資します。Dellは、他の企業が発明したものを再発明するようなことはしません。

---研究開発サイドで特に満足していることは何ですか。

 使いやすく、サービスを提供しやすい製品を作ったことです。市場に合わせて革新を行ってきました。カラー画面のついた充電型ノートPCを最初に提供したのは誰でしょうか。Dellです。どういうわけか研究開発に多くを費やす企業が優れていて、成功するという誤った考え方があるようですが、それを実証するデータはそう多く存在しません。

 イノベーションは研究所だけで起こるわけではありません。COMDEXは、どうやって使うのか誰にも分からないような最新製品を展示する場所です。このような製品には、まだ市場がないからです。Dellは、どうやって使うのか誰にも分からないような製品は開発しません。人々が買いたい、しかも大量に、と思うような製品を開発します。イノベーションはサプライチェーンや物流、製造、流通、販売、サービス、あらゆるところで起こり得るものです。Dellはコンピュータ製品を手ごろなものにしました。20年前と現在のコンピュータ製品の価格を比較してみて下さい。業界全体に効率性向上をもたらしたのはDellだといっても過言ではないでしょう。

---デザインという観点で、Dellの役割は何でしょう。Appleのような企業にリードを取らせるという戦略ですか。

 研究開発では、DellはAppleと同じ規模の額を投資しています。われわれの方が販売台数が多いからといって、われわれが悪いというわけではないでしょう。

---PCメーカーと家電メーカーの戦いをどのように見ていますか。

 この2つのカテゴリのプレイヤーは重なってきています。デジタル家電の分野では、ユーザーは製品同士をつなぎたいと考えているようです。例を挙げましょう。2年前のデジタルカメラを思い出してください。多くのデジタルカメラは、PCに接続するのに、固有のケーブルやインターフェースなど、プロプライエタリな方法を取っていました。これに対し、ユーザーが「そんなものよりUSBが欲しい」と言ったのです。ここでの勝者はPCです。音楽であれ写真であれ、家庭で情報を利用する際に、PCは主要な影響力を持ち続けることでしょう。私の予想では、同じことがビデオでも起こると見ています。家電メーカーがいなくなると言っているのではありません。デジタル家電メーカーは全て、消費者が接続したいと思うフレームワークに合わせざるを得なくなると言っているのです。

 確かに、Dellにとって、この市場は巨大なチャンスといえます。消費者向けの事業に進出したのは1997年で、その後5、6年の間にシェアを30%まで伸ばしました。多くの人が「無理だ」「小売店が必要だ」と言いました。Dellが別の市場で成功するということを信じない懐疑主義者がいるということです。しかし数字を見てください。

---基本的なPCはそんなに変化していないようです。PCは今後、どのように進化するのでしょうか。

 ユーザーと話をすると、関心はメモリやプロセッサから、ビデオやメディア、ネットワークなど他のものに移っていることが分かります。業界として、われわれは自社製品をさらに信頼性があり、安全で、生産性があり、エンターテイメント性があるものにしていかなくてはなりません。われわれがそれを実現しなければ、顧客は購入しません。今年販売されたコンピュータの台数は1億6000万台です。明らかに、コンピュータが好きな人は存在するといえます。

---現在、何か革新的なことは起きていますか。

 人間とマシンの間のインターフェースで改善すべきことがたくさんあります。コンピュータの能力と人間の脳の能力を考えたとき、この2つの間の帯域はとても狭いといえます。ですが、このような問題はすぐに解決できるものではありません。創造性という点で停滞期に入ったという意見は、まったくナンセンスです。まだまだ進化は続きます。われわれの役割は、消費者の要求を理解し、最も効果的で効率の良い方法でソリューションを地球上にもたらすということです。

---革命的というより現実的ですね。

 もちろんです。

---HP、Sun、IBMはユーティリティコンピューティングに乗り出しています。Dellにとって、ユーティリティコンピューティングは何を意味するのでしょうか。

 Dellの使命はまず、消費者の資金節約に貢献することにあります。ユーティリティコンピューティングにより顧客が節約できると判断すれば、すぐに着手します。ですが、Dellはそうはならないと見ています。企業は、顧客をプロプライエタリなメカニズムに囲い込むために数多くの計画を用意しています。ユーティリティコンピューティングもその1つです。顧客が「かなりの節約につながった」と言うかどうかを興味深く見守っていますが、いまのところ、そんな声は出てきていないようです。

---Dellも、HPの「アダプティブエンタープライズ」、IBMの「オンデマンド」、Sunの「N1」のようなブランド戦略を取る必要が出てくると思いますか。

 ユーティリティコンピューティングは複雑で、彼らも理解しきれないくなっています。Dellは顧客と話をしていますが、顧客が求めているのは現実的なソリューションです。市場シェアのデータを見てください。私は、顧客が求めているのはDellだと思います。顧客は流行語を買うのではありません。コスト節約と価値を買うのです。最も皮肉なことに、ユーティリティコンピューティングの中には資金調達が実に難しそうなものがあるということです。1億5000万ドルの資金を、利息28%の7年契約で借りるとなれば、顧客は節約した資金までもアウトソースすることになるのです。パートナーとの協業が理にかなっている場合もありますが、何を購入しているのかを把握しておく必要があります。アーキテクチャに関する決断や、その他の長期的成功に不可欠なものをアウトソースしたくはないはずです。

---ハードウェアの最適化という方法は、良いアイデアといえるのでしょうか。

 リソースの活用方法を改善し、ピーク時に備えてキャパシティを保持しておくことと、ユーティリティコンピューティングの大きなビジョンが同じではありません。Dellはサーバの最適化という考えを採用しています。仮想化は顧客がサーバを効果的に利用するための素晴らしい方法で、Dellはこの技術分野でVMWareと協業しています。

---業界において、サービス対ハードという問題は重要なものとなっています。Dellの立場はどのようなものですか。

 Dellはサービス事業を幅広く展開しています。製品には必要となるサービスを組み込んでいます。それから、任意サービス、プロフェッショナルコンサルティング、SAN(Storage Area Network)の設計・実装、アプリケーション開発、管理サービスなども提供しています。これは、規模にすると26億ドルのビジネスで、製品事業の2倍の成長率で拡大しています。

---サービス分野でも競争が激化したと言われていますが、そう思いますか。買収によって新たな能力を手に入れることは理にかなった方法なのでしょうか。

 Dellはこれまで、特に買収に熱心だったことはありません。われわれが望むのは有機的な成長で、今後もこの路線を維持するでしょう。だからといって、買収のチャンスを減らすというわけではありません。ですが、驚かせるようなことはしないでしょう。Dellは、自分たちの成長速度に満足しています。われわれには、売上高620億ドルを目指して成長するという目標があります。目標達成に向けて、予定通りに進んでいます。

---その目標に時間枠は設けているのですか。

 それは、議論すべきテーマです。特定の時期は設定していません。われわれの成長率でいけば、数年先となるでしょう。

---2005年というのは、悪くない予測でしょうか。

 アナリストの多くは2006年と言っています。過去2年を見ると、業界の成長は基本的にゼロで、Dellは市場シェアを40%増加させました。そして、利益も増加させています。

 Dellの成長はかなり急ピッチで、比較的連続したものです。8年連続して成長率80%を維持しました。その後6年間は60%増で成長し、現在は減速しています。ですが、金額ベースで見ると、いまだに圧倒的と言えます。市場シェアゼロからスタートして、現在は70%程度になりました。米国市場におけるDellのシェアは、2位から4位までの企業のシェアを足した値を上回っています。

---IT業界にとって、急成長の時代は終わったのでしょうか。

 収益という面から見て、業界が直面している問題の1つに(コンピュータ製品の)コモディティ化があります。これは、プロプライエタリベースの企業には悪い知らせで、顧客にとっては良い知らせです。得られる価値が増えるからです。そして、Dellにとっても良い知らせです。われわれのビジネスモデルは、コモディティのようなものをベースとしているからです。

---米国以外の市場はどうでしょう。

 中国はすでに、世界第2位の市場になっています。中国では、DellはLegendの次につけており、海外企業としては最大です。

---それは、(Sun Microsystems CEOの)Scott McNealyがSunの中国事業について発表をした後でも、変わりはないですか。

 Dellがどうするかはわかりません。Scottが現れたから、閉店しましょうか(笑) Scottは驚かせたいだけなのです。

---McNealyを信じないのですか。

 もちろん、信じません。あなたは信じますか。

---Linuxブームに対しては、何か計画はありますか。

 DellのLinuxビジネスは順調です。米国ではNo,1です。中国のRed Flag、ドイツのSuSE、米国のRed Hatと良好な関係を維持しています。つまり、DellはLinuxという機会に完全に乗じているのです。

---クライアント市場はどうでしょう。

 もし需要があるのなら、喜んでLinuxを搭載したクライアントを販売します。ただ、まだ充分な需要があるようには見えません。

---Linuxは、Microsoftにとって大きな脅威となるのでしょうか。

 コンピュータが進化すると、どのOSを搭載しているかということは重要ではなくなります。これは、われわれにとっても同じことです。顧客が望むのであればそれで十分です。

---DellがLinuxでトップベンダーだとすれば、それはMicrosoftとの関係にどのような影響を与えるのでしょう?

 もしMicrosoftがより多くの製品を販売したいのなら、Dellと協業することは可能です。われわれはMicrosoftの競争優位性の向上に貢献できるでしょう。

---タブレットPCのような製品に関しては、どのようにして、どの時点で市場に参入しようと判断するのですか。

 いくつかの要因を組み合わせて判断します。まず、自分たちの能力、妥当な予測はどのくらいかを考えます。追加的なビジネスに着手する体制ではないかもしれません。そして、周辺の市場を見ます。リソース配分と戦略的優先事項を考えるためです。Dellが参入しない市場はたくさんあります。タブレットPCではいくつかのパートナー企業と協業しますが、この市場は数百万のうちの数千台に過ぎません。しばらくは計画段階でしょう。

---現在取り組んでいることは。

 このようなビジネスを実行することは、容易なことではありません。Dellは、組織の成長、リーダーシップ能力に注力しています。アライアンスを構築し、われわれのシステム管理機能を強化し、中国とアジア市場において地理的存在を確立し、供給が継続されているかを確認し、新規にプリンタ事業を立ち上げています。やるべきことはたくさんあります。

---見本としているような企業はありますか。

 General Electric(GE)、Wal-Mart、eBayなどの企業とよく話をします。われわれは良いアイデアの全てから学ぼうとしています。Dellには独自のビジネスモデルがありますが、自社チームを多くのアイデアに触れさせ、市場にある最善のものから学んでもらうようにしています。

---経営という観点で、経営幹部をどのようにつなぎ止めていくつもりですか。

 Dellには測定基準と合意したゴールや目標があります。顧客経験と効率性、製品が市場に出るまでの時間とサービスレベルに、多大な注意を払っています。Dellには「BPI(Business Process Improvement)」というプロセスがあります。これはあらゆる従業員が利用できるもので、もし生産ラインにいる5人の社員が、何かが機能していないと気付いたら、不満を述べる代わりにBPIを利用します。チームを結成して問題を解決すれば、それはBPIプロジェクトとして世界規模のDellのデータベースに格納されます。このようなプロセスにより、18億ドルを削減しています。

---経営者という点で、ご自身はどのように変わりましたか。

 私は、そのようなことを考えるのには多くの時間を費やしません。話すよりも、質問したり教えたりすることに多くの時間を割いており、運営よりも戦略に多くを費やしていると言えるでしょう。

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