9月末に米国で開催されたMicrosoft Media Centerの発売イベントは、次世代コンピューティングの始まりを宣言する格好の機会となったようだ。
このWindows XP特別版であるMedia Centerは、コンピュータと家電を統合し、夢のようなデジタルエンターテインメントを現実のものにするというのが売りだ。
しかし、財布を持ってショッピングセンターに走る前に、これが業界お得意のはったりではないかを確かめた方がよさそうだ。
PCがテレビやステレオといった家電と合体し、リビングルームの一部になるという考え方は新しいものではない。実際、簡単で使いやすい統合デジタルエンターテインメントは、IT業界が長年追い求めてきた目標でもある。
Bill Gatesは80年代からデジタルコンバージェンス(融合)を唱えてきた。しかし、異なる機器の統合は予想以上に困難で、シナリオ通りに融合が実現されたことはない。それでも各企業ではせきたてられたように開発が続けられ、良くてぎりぎり合格ライン、悪ければ目も当てられないような失敗作を生みだしてきた。
コンピュータを使ってラジオ放送の一時停止や巻き戻しをしたり、写真を編集・プリントしたり、CDをハードドライブに転送・編集したりするのは、もはや革新的な新技術とはいえない。リモコンを使ってPCでゲームをするのも同じことだ。とはいえ、Media Centerがデジタルエンターテインメント用に最適化された初めてのWindowsであることは間違いない。
Microsoftは今回、購買層の見直しも行った。1年前にMedia Centerの初期バージョンを発売した際、同社ではこの新技術が大学生や20代の若者に受け入れられるものだと考えていた。ところがいざ蓋を開けてみると、購買層の中心は40代だった。Dellやその他のメーカーが参入することで、Media Center搭載機の価格も手頃な範囲に下がってくるだろう。しかし、こうした変化はあくまでも進化の副産物であり、各社が唱えてきた革命的変化とは全く異なるものだ。
さらに深刻なのは、真打となるソリューションがなかなか登場しないことだ。AppleはSteve Jobsのデジタルハブ戦略である程度の成功を収めたものの、PC業界は概して腰が重く、コンバージェンスに積極的に取り組んできたとは言いがたい。
状況は家電業界も同じだ。いずれはSonyのような企業から、音楽データの編集、転送、保存を気軽に楽しめる大容量ハードドライブを内蔵した、使い勝手のよいCD機器が出てくるだろう。しかしSonicblueとHewlett-Packardが過去に似たような製品を発売した際も、高価で使いづらかったために市場で受け入れられることはなかった。
時代がコンバージェンスに向かっていることは間違いない。しかし、こうした予測が机上の空論で終わらないという保証もない。質の高い製品を低コストで生産できるようになった今、PCの技術が他の機器に組み込まれるのは時間の問題だ。家電業界では次世代テレビの開発が進んでおり、モバイルワイヤレス技術は新しい可能性の扉を次々と開いている。パソコンも家電も、デジタル指向であるという点は変わらない。
問題は、このすべてを統合する方法を見つけることだ。2年を越える低迷期を経て、コンピュータ業界は次の大ヒットを待ち望んでおり、第4四半期の数字をバラ色に変えてくれる何かに期待している。すでに闘いのゴングは鳴り、40以上のPCメーカーがWindows XP Media Center搭載のPCを出荷するとしている。これから年末にかけて、町はMedia Center PCを売り込む広告であふれかえることになるだろう。
各社の健闘を祈る。遅かれ早かれ、企業は消費者がそれほど愚かではないことに気づくはずだ。既存の技術を手当たり次第にひとつの筐体に詰め込んでも、最新のコンバージェンス製品と呼ぶことはできない。どんなに華やかな広告を打っても、その現実を変えることはできないのだ。
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