Steve Mannはウェアラブルコンピュータの先駆者であり、電気工学教授であり、また「Cyberman(人工頭脳人間)」というドキュメンタリー番組に出演するスターでもある。だが、それだけではない。
Mannは、世界初のサイボーグの権利擁護運動の活動家でもあるのだ。
カナダで生まれ、現在トロント大学で教鞭を取るMannが有名になったのは、彼がまだマサチューセッツ工科大学(MIT)の大学院生だった1990年代のことだ。当時Mannは、視力を増強するための分厚い眼鏡を掛け、記憶力増強のための大きなヒップマウント型のPCを腰に装着し、さらに彼が見たものをそのままインターネットに配信するためのアンテナを立てた格好で、キャンパス内を歩き回っていた。その後、Mannは愛用の「アイタップ(eyetap)」を小型化してより扱いやすくし、またトロントにある元ナイトクラブの建物を購入して、自宅兼デザインラボ、および一種のハイテクアート用ギャラリーとして使用している。
2001年に出版された自伝的声明文「Cyborg」の中で、Mannは、常にウェアラブルコンピュータを通して世界を眺め、ショッピングモールやデパートに入ると必ず冷たい視線を浴びる、人間版Netcasterになる時の心境について記している。Mannは2002年初めに起きた、カナダのニューファンドランド州にある空港のセキュリティチェックで発生した事件をきっかけに活動家としての意識を強めた。そこで彼は殴られ、流血した状態で放置され、さらに皮膚から電極を剥ぎ取られて、アイタップを没収された結果、方向感覚を失ったという。
CNET News.comはMannに、トロントにある彼の自宅兼ラボでインタビューを行った。MannはそこでDECONismという名のイベントの計画を練っていた。そのイベントの最大の売りは脳波が部分的にコントロールを行う音楽だ。これは参加者の頭蓋底部に取り付けられた電極が電気的信号を読み取り、パソコンがそれを使ってボリュームやテンポといった音の特徴を変えるというものだ。
---空港のセキュリティチェックで起こった事件を巡ってカナダ航空に対し訴訟を起こされたそうですが、その後どうなりましたか。
私の知る限り、カナダ航空は破産寸前の状態に陥っています。私はまず同社に、破損した機器の最低限の修理費用を支払うよう要求する書簡を送付し、その後裁判所に要求書を提出しました。カナダ航空が破産寸前であると宣言したため、現在訴訟手続きは中断された状態です。
---今後、民間の航空会社を利用した旅行はしないつもりですか。
今や旅行の必要がある場合は、チャーター機を利用するか、車を運転して行くか、あるいは別の形で遠隔地から介入する方法を取らざるを得ません。この点、私にはVisual Vicarious Soliloquy(遠隔地からインターネットを使って講義を配信する技術の一種)があります。人々がますます病的なヒステリーにかかっている現代において、バーチャル旅行の重要性は今後さらに高まっていくでしょう。
---以前、ウェアラブルコンピュータが簡単に外れないように、コンピュータの構造組織の中を通る形で髪を伸ばしておられましたが、当時の周囲の反応は?
様々な反応がありましたね。好意的な人もいれば、かなり否定的な見方をする人もいました。
---スーパーマーケットやショッピングセンター、さらにはMITでもサイボーグに対する敵意を感じたと著書の中で書かれていますが、これについてはどう説明されますか。
この点については、Simon Davies(ロンドンの人権擁護団体、Privacy Internationalの活動家)が非常にうまい説明をしています。全体主義政権は全国民に関してあらゆる情報を把握しようとするが、政権自体についての情報は何ひとつ公表しない、と。私は体制と国民の均衡を保つ方法を「Sousveillance(市民による下からの監視)」と呼んでいます。「Surveillance(上からの監視)」はバランスを欠いています。
---世の中を見るのにゴーグルを使っていると、Eメールを読んだり最新のニュースをチェックするなど、何か別の行動をしていて失礼な奴だと世間の人は思うのでしょうか。
様々な理由があると思います。最初に衣服を身につけた人々は、偽の皮膚をまとっているという理由で周りから奇異の目で見られました。そのような態度は、新しい発明が広く普及し、利用されるようになるまで続いたのです。かつては電話もそうでした。人々は当初、機械が話しかけてくることに恐怖を感じたのです。「人と話すのと機械と話すのとではどちらがいいか」と言う人もいたに違いありません。
---ゲイや人種的マイノリティの権利に対する社会的認容を、サイボーグの権利の認容に例えているのはなぜですか。
一般的に、肉体との関連付けを避ける傾向が過去には多々見受けられました。私はこの傾向こそポストモダン時代、あるいはサイボーグ時代だと考えています。しかし今は、そのような傾向が再び減少しているのです。
---それをポストサイボーグ時代と呼ぶのですか。
私の話は、サイボーグ時代より前の、肉体との関係についてです。サイボーグ時代は肉体を超越しています。我々は皆、靴や宝石などの身の回りの品々に順応してきました。それが正常であり、それらがないことの方が異常です。ポストサイボーグ時代とは、再びこのような肉体との関連付けを行う時代といえます。例えば、我々は炭疽菌の恐怖に怯えると、我々の肉体とサイボーグの人工器官を切り離して考えます。今我々は、人種差別問題や性別の問題といった肉体的な問題に立ち戻っているのです。
---個人の自由を実現したいとおっしゃっていますが、あなたの発明によって仮想の悪夢が現実となる可能性はありませんか。つまり、高性能な手錠や追跡機能付きの足枷といった、弾圧や監視の道具に利用される可能性はありませんか。
全ての新しい発明と同じように、私の発明にも様々な使い道があります。発明家としての私の役割は、時代が向かうと思われる新たな方向に注目する気運を作ることです。
---以前、キヤノンやニコンなどが提供しているプロプライエタリソフトではやりたいことができず、PCを使っていくつかのデジタルカメラを制御するのに苦心しているという話をされていましたね。こうした状態をウイルスに例えるのはなぜですか。
科学とは物事の働きを探求し、理解する場です。ウイルスの中には科学を回避しようとするものがいくつか存在します。
---ソースコードが非公開のプロプライエタリソフトは全てウイルスということですか。
私は、機能性を曖昧にしようとするものはすべて非科学的と見なしています。昔は、子どもたちは時計を分解して時計がどのように動くのかを知ろうとしました。しかし今では、動く仕組みを知られないようにするため、時計が開けた途端に爆発するように作られている、そんな社会を想像してしまうかもしれません。
---アイタップコンピュータの商品化の予定は?
製造してくれるメーカーさえ見つかれば、すぐにでも製造を開始できます。年内の発売もありうるでしょう。あとは関心を持ってくれる企業を見つけられるかどうかの問題です。
---Xybernautはウェアラブルコンピュータを製造していますが、PDAや最近の携帯電話のような「ポケットサイズ」のコンピュータほどの人気はないようです。
Xybernautはアイタップの基準を完全に満たしている、あるいは基準に到達しているとは言えません。基準には共直線性、即時性、調性の3種類があります。共直線性とは、入ってきた光線が同じ軌道を保ちながら通過し、直進し続けること。即時性とは、妥当な時間内に入力の結果が現れること。調性とは、入ってくる光の量が増えれば、出て行く光の量も増えるということです。
---ウェアラブルコンピュータに関するいくつか特許を保有しておられますが、独占権を保有することと、自由な科学の発展を促進することとの折り合いをどのようにつけるのですか。
私としては、ハードウェアデバイスそのものは大企業が製造するもの、というある種の考えを信じています。しかしデバイス上で実行されるプログラムやコンセプトは、人々が発展に自由に貢献できる科学的分野に属するものです。この論理は科学一般とは矛盾しないと思います。私は企業を否定するつもりはありません。科学のためにガラス器具やビーカーなどを販売するのは結構なことです。しかし私が反対しているのは、私の本の中でも言及しているソフトサイエンスと呼ばれる類の問題です。
----アイタップコンピュータは、看板などの広告の写真を撮影し、2度とそれらを表示しないよう設定することも可能という話ですね。しかし、広告もデジタル化しています。今後はスパム並の早さで変化を遂げるのではないですか。
次の話に例えられると思います。人間の思考の源を盗むということは、人の頭脳のCPUサイクルを盗みたいと考えている者が、さらに高度な知識を身につけることによってそれを実現するようなものだと。そこでは、盗難防止のメカニズムもさらに高度化する必要があります。スパムは思考の源を盗むのと同じことです。
---1歳の娘さんをお持ちですが、彼女をサイボーグにして、アイタップコンピュータのみを通して世界を見せるおつもりはありますか。
アイタップが大量生産されて誰でも入手可能になり、靴や衣服のようなごく一般的な商品になるまで待つでしょうね。
---それはコスト的な理由で?
日常生活で靴を履くことに慣れようと思えば、同時に靴を簡単に入手したいと思うでしょう。
---ご自身が主催する討論会やコンサートといったイベントではどのようなことをされるつもりですか。
今回は、パネリストに浴槽に入ってもらいます。前回のイベントでは出席者に入ってもらいました(この浴槽は化学薬品の調合に使用される、プラスチック製の大型の桶で、長さは8フィートある。MITの同窓生から寄贈された)。また脳波コンサートも開催します。参加者に電極を取り付け、彼らの脳波で音楽を作り出してもらうのです。さらに、パーキンソン病患者の方々にもイベントに遠隔参加してもらう予定です。
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