米IBMが、画期的な電子顕微鏡使用方法を考案した。科学者たちはこの新手法により、原子の秘められた様相を観察できるようになる。
IBMの研究者が、液体の化学反応が起こる様子を透過型電子顕微鏡で観察する方法を考案した。既にこの技術を使って、銅原子が他の銅原子や電極と結びつく様子を示す画像がキャプチャーされている。
チップ設計者はこの情報により、分子が結合した際に何が生じるかを正確に把握できるようになる。そのためこの情報が、より小型の回路の開発や、より効率的なチップ製造工程につながる可能性がある。
「(チップ設計者は)銅層生成に最適な条件を知っているが、その基本にある物理は理解していない」とIBMのナノスケール素材分析責任者Frances Rossは話す。Rossは5日(米国時間)に、「Microscopy Society of America学会」が毎年40歳未満の研究者1名に授与しているBurton Medalを受賞した。
この技術は、さびの現象、とくに海中での腐食の研究にも利用できそうだ。
「基本的なアイディアは分かっているし、空気中でのさびについてはかなりのことが判明している。しかし、海中での腐食の研究は非常に難しい」(Frances)
IBMの編み出した方法は、本質的には、さまざまな科学的顕微鏡手法の特質を組み合わせたものだ。この方法の詳細は、まもなく発行される雑誌Nature Material8月号に掲載される。
液体中での原子レベルの反応の観察には、原子間力顕微鏡が利用できる。しかし残念ながら、原子間力顕微鏡では約30秒毎に1枚程度しか画像をキャプチャーできない。したがって、原子間力顕微鏡で得られるのは、正確だがやや静的な情報と言える。
これと対照的に透過型電子顕微鏡では、1秒間に30枚の画像をキャプチャーできる。これは標準的ビデオカメラと同じスピードだ。
透過型顕微鏡では、1ミクロンほどの厚さの標本に電子を放射し、電子が動いた軌跡データから画像を生成するため、標本をできるだけ真空な状態に置くことが重要となる。これは固体と気体の反応を観察する場合には問題ないが、液体との反応や、液体内での反応を観察したい場合にはうまくいかない。
「普通の状況では、液体は沸騰してなくなってしまう」(Ross)
透過型電子顕微鏡で生物標本を観察するには、最初に脱水しなければならず、それによって標本が変形する恐れがある。
IBMはこの問題を回避するため、液体層と観察したい成分を取り込むセルチャンバーを、2つの窒化ケイ素膜で挟む方法を考案した。
「セルは、非常に精巧な(顕微鏡用)スライドと捉えることができる」(Ross)
この記事は海外CNET Networks発のニュースをCNET Japanが日本向けに編集したものです。
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