「地上波テレビやDVDもFlashで」--コンテンツ不況を救うビジネスモデルになるか

山岸広太郎(CNET Japan編集部)2003年06月20日 20時36分

 アニメーションが軽快に動くマクロメディアのFlash。NTTドコモの505iへの搭載で話題を集めたが、その応用範囲は携帯電話にとどまらない。

 「Flashアニメーションは地上波放送やDVDにも耐えられるレベルになってきた。今後のコンテンツビジネスの鍵は多メディア展開を前提にしたビジネスモデルを作れるかどうかだ」--6月20日、都内で開かれたMacromedia Flash Conferenceでマクロメディアの平沢真一上席研究員がFlashアニメーションビジネスの現状と今後の展望について語った。

 デジタル放送やブロードバンド、DVDなど新しいメディアの登場で、コンテンツに対するニーズは増大している。しかし、「これからはコンテンツ制作者が儲かると言われたが、実際に儲かっているのはごく一部だけだ」と平沢は業界の現状を分析する。

 この状況を打開する鍵として平沢が期待を寄せているのがFlashアニメーションをウェブやDVD、地上波テレビ放送、そしてマーチャンダイジングへと多メディア、多商品に展開する動きだ。

コスト削減と緻密なビジネスモデルを可能にするFlashアニメ

 平沢が昨年プロデュースし、ウェブ配信とDVDで販売されたアニメーション “OH!スーパーミルクチャン 「ミルクのIT革命」”は全編Flashを使って制作された。Flashアニメーションの魅力は「制作工程を効率化し、従来のアニメ制作手法と比べて大幅にコスト削減が図れる点だ」と平沢は言う。

マクロメディア 平沢真一 上席研究員

 スーパーミルクチャンの場合、制作期間は約5カ月、Flashムービーの制作は基本的に1人で行い、アフレコにも1日しかかけないなど、徹底的な低コスト化を行い、プロジェクトの損益分岐点を引き下げた。「先にFlashのアニメーションファイルとマスターの音源ファイルを作り、それをウェブ用、DVD用と加工していくことで、同じ作業を2度と行わない本当のワンソース・マルチユースを実現した」と平沢は言う。

 スーパーミルクチャンがこだわったのは制作手法だけではない。資金調達に委員会方式を採用。北米最大の日本アニメ販売会社エーディービジョンとアニメ制作とグッズ販売を行うスープレックス、そしてマクロメディアからスピンオフしたウェブ配信会社のアトムショックウェーブの3社が出資する形で制作委員会を設立した。「映画では当たり前だが、Flashアニメーションとしては初めての試みだった」と平沢は言う。

 委員会方式をとった目的は、アニメーションの制作コストを確実に回収し、利益を生み出すためだ。まず、アトムショックウェーブがウェブ上でコンテンツを配信。この際、コンテンツに広告スポンサーをつけることで、広告収入を得ることができた。次に、スープレックスがスーパーミルクチャンのDVDを販売。「ウェブの広告収入とDVD販売で制作コストの部分は回収した」(平沢)。そして、エーディービジョンがスーパーミルクチャンの放映権やDVDなどを北米で販売。「初期コストが回収できているので北米での収入は全て利益になる」と平沢は言う。

地上波テレビの制作会社もFlashに参入

 Flashアニメーションを使い収入源を多様化しようとする動きは他にもある。3DCG映像や造型技術で有名なテレビ制作会社ビルドアップはフジテレビ系列で放送した「宇宙大作戦チョコベーダー」というアニメを全編Flashで制作した。ビルドアップは当初より複数の収入源を想定した自社キャラクターの権利ビジネスを計画。まず、森永製菓とトミーと組んでチョコベーダーのフィギュアがおまけについたお菓子を販売、同時に漫画雑誌のコロコロコミックでの連載とウェブを使ったプロモーションでファンを増やした。その実績をもとにゲームなどにキャラクターをサブライセンスし、地上波テレビ放送、DVD、Flashによるウェブ配信と展開していった。

 平沢によれば「Flashで作ったアニメーションは多メディア展開に向いており、大手の制作会社がFlashの制作ラインを作る動きが出ている」という。ビルドアップのほかにも「踊る大走査線」などで知られる制作会社のロボットと映像技術サービスのIMAGICAが合弁で設立したバディーズもFlashアニメーションを標榜している。「Flash制作者にとってはウェブ以外に仕事を広げるチャンスだ」と平沢は言う。

ウェブを使ったマーケティングで選択と集中を

 平沢が考えるコンテンツビジネスの今後の課題はヒットの歩留まりを上げることだ。「映画や出版、音楽などにも共通して言えることだが、コンテンツはヒットするかどうかが読めない。1本のヒットで稼いだ利益も10本の赤字コンテンツが食いつぶしてしまう」と平沢は言う。「まずはFlashでアニメを制作し、それをウェブ上で配信してユーザーの反応を見て、いいものだけをDVDにして販売する。販促やプロモーションなど大きな投資の前に選択と集中を行えば歩留まりはよくなる」

 果たして、平沢の描くビジョンはFlashアニメと同じように軽快に動き回ることができるだろうか。

(文中敬称略)

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