ContextWebの社長、Anand Subramanianは、サーチエンジンを使ってウェブサーフィンするなんてとんでもなく非効率だと考えている。次々に見たいページに飛んでいきたいというのに、わざわざ検索結果のページに戻らないと次のページを見ることができないのだから。
ContextWeb社は設立3年のソフトウェア会社だ。同社では、検索中に見つけたページに自動的に関連リンクを貼りつけるという技術の特許を申請中である。このような技術を使えば、論理的にはユーザーはクリックするたびに検索結果を絞り込むことができ、次から次へと関連ページに飛んで最終的には一番ほしかった情報が手に入るという。
Subramanianは、「これでネットサーフィンも変わっていくだろう」と話す。「検索ボックスにキーワードを入力するのではなく、関連コンテンツの中から情報をみつけ出せるようになる。今の状況では情報にあふれてしまっているだけだが、今後は焦点を絞って次々とページに飛んでいけるようになるのだ」(Subramanian)
衰退気味のインターネット業界において、現在有料検索サービスに新たな注目が集まっている。大小を問わず数多くの企業がこのサービスに取り組み、激しい競争が展開されているのだ。この動きはウェブ広告業界にも影響を与えており、サービスを拡張させようとしている企業も数多い。なかでも、従来の広告の原理を覆すとして注目されているのがコンテンツターゲット広告である。
コンテンツターゲット広告は、キーワード広告の先駆者であるOvertureのサービスが元となっている。キーワード広告はその後Googleや他社にも広がったが、広告主が入札によってキーワードに対する広告料を決め、クリックされた場合のみ課金が発生するというシステムだ。
現在広告主は、サーチエンジンのページ上に貼られたバナーやリンクに対して広告料を支払っている。コンテンツターゲット広告では、サーチエンジン上のみならず、検索結果でたどりついたサイト上にも直接広告を貼りつけることができるのだ。
この新しい広告技術に対する業界の関心はかなりのもので、Googleは今年4月にコンテンツターゲット技術の開発を手がけるApplied Semanticsを買収している。今回の買収により、Googleを通じて契約した広告は、検索エンジン以外の契約サイト上でも掲載されることになる。
コンテンツターゲット技術はまだ開発途上にあるが、仕組みはこうである。まずこのサービスに参加を決めたサイトが、そのコンテンツに合ったキーワードごとにグループ分けされる。そしてそのキーワードが広告として販売される。たとえば、Ford Motorが自社の車種名である「Explorer」というキーワードを購入したとする。すると、「Explorer」というキーワードに対する検索結果として出たサイトがFordの広告を出すのにふさわしいサイトかどうか、コンテンツターゲット技術で判断するというわけだ。
このシステムは、別業種の広告主が同じキーワードを購入した場合でも、関連性の高いページにのみ広告が掲載されるよう保証するものである。「Explorer」というキーワードの場合、MicrosoftのブラウザInternet Explorerの広告と、Fordの車種であるExplorerの広告が同じページに掲載されることはない。理想としては、コンテンツターゲットソフトがこの違いを判断し、正しい広告が表示されるといった形になる。
このコンセプトは、プライバシーやセキュリティ面で批判を浴びているCookieなどのトラッキング技術を使わずに、ターゲットとなる顧客に向けて広告が配信できるというものだ。だが、独立した情報と広告の線引きがあいまいだという点で、議論を呼びつつもある。この線引きについては、有料検索サービスがはじまって以来ずっと課題となっていたことだ。しかしサーチエンジンではすでに、ニュースサイトや情報サイトなどのヘッドライン用にコンテンツターゲット広告を販売しており、この広告によるトラフィックはウェブ全体で5番目に大きいのだという。
OvertureとGoogleの後を追って商用検索ビジネスを開始した業界準大手企業、FindWhat.comの最高執行責任者(COO)兼最高財務責任者(CFO)を務めるPhillip Thumeはコンテンツターゲット広告について、「どんなサイトでも広告配信のパートナーとなる可能性があることを考えると、かなりの成長が見込める分野だ」と語る。だがThumeは、「広告のリーチ率があまりにも高くなると、そのトラフィックの質が果たして価値のあるものかどうか疑問視される恐れもある」とも述べている。
しかしサーチエンジンやウェブディレクトリーサービス企業は賭けに出る覚悟だ。今年度の有料検索サービスの総売上高は世界全体で20億ドルに達すると見られており、この数字は広告販売の約25%を占めることになる。また5年以内には売上高が70億ドルになるとも言われている。
先行きの明るいサーチエンジンビジネス
金融アナリストらは、サーチエンジン大手企業におけるマーケティング費用がここ数年で3倍に膨れ上がると見込んでおり、最終的にはマーケティング費用が広告売上の半分を占めるようになるだろうとしている。調査会社の予測によると、今年はYahooやMSNなどの大手ポータルサイトが、検索マーケティングとその技術に対するコストをそれぞれ2億ドルまで引き上げるとのことだ。これらのポータルサイトもOvertureのようにパフォーマンスベースの広告市場に乗り出そうということだろう。
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一部の企業では、激しい競争のプレッシャーを強く感じているようだ。Overtureは経費増大を主な要因として、2003年の業績予測を50%近く下げている。Overtureにとってもうひとつの打撃は、同社の広告配信パートナーであるApplied SemanticsがライバルのGoogleに買収されてしまったことだ。この発表を受け、投資家らは同社の株を33%近く手放している。Overtureが今年10億以上の売上を見込んでいるにもかかわらずだ。
さらに、OvertureのパートナーであるYahooとMSNは同社に対し、検索における売上の大半を両社に渡すよう契約を更新した。トラフィックを誘導しているというのがその理由だ。Kaufman Bros.の株式アナリスト、Richard Fetykoによると、2社が受け取る金額はこれまでクリック数に対して50〜60%だったのが、この新契約により70%にまで上昇するだろうとのことだ。
「Overtureにとって問題なのは、パートナーのほうが優位であるために、売上のシェアに対して強い態度に出られないことだ」とFetykoはいう。このような契約の更新があったことで、同社は資金面でプレッシャーを感じているのである。海外拠点の拡大やライバル会社との戦いでもコストがかさんでいるのだからなおさらだ。
ただ、こういった状況は別に珍しいことではない。5月6日、LookSmartがオペレーションコストの増大を理由に2003年度の業績を下方修正した際、同社の株価は43%下落した。LookSmartも他社検索プロバイダと同じように、有料検索サービスを提供しようと投資を始めたのだ。同社の大手顧客はMSNで、MSNはOvertureやYahooの子会社であるInktomiの検索サービスと提携関係にある。
資金面の問題に加え、検索広告を提供する企業では技術面においても行きづまりを見せている。検索技術はいまだ完全とはいえず、Apple Computerの検索をしていて果樹園のサイトに行きついたり、飛行機墜落事故のニュースが報道されているページに旅行会社の広告が出てしまうこともありえるのだ。
ウェブコンテンツ広告市場において、目立ってはいないが老舗企業であるPrimedia社傘下のSprinksは、このようなターゲット広告での問題点を解決する方法を実践している。同社は広告主にキーワードを販売するのではなく、カテゴリーに合ったページのテキストリンクを販売しているのだ。その結果、カリフォルニア州の不動産業者へのリンクは、その地域をターゲットとした不動産のページのみに現れるというわけだ。
一方、資金面と技術面の両面において順調な企業もいる。Googleは、同社が買収したPyra LabsのBlogサイトであるBloggerやApplied Semanticsのパートナーサイトなどで、コンテンツターゲット広告を2月に開始している。GoogleとApplied Semanticsの両社共に、ウェブコンテンツを分析して正しい広告を表示させる技術を持っているのだ。
Overtureは第2四半期後半にも、パートナーらと同様のサービスを開始する予定である。ページ分析の技術と自社の編集スタッフによる専門知識で関連性を判断するとのことだ。ContextWebは、ターゲット広告におけるウェブ分析技術において、OvertureとFindWhatの両社と交渉中とのことだ。
Overtureは広告主のためにも、業界トップをキープするためにも、かなりの投資を行っている。同社は最近、検索技術企業のFast Search & TransferとAltaVistaの買収を完了したばかりである。
検索ビジネスが加熱する一方で、市場はもう飽和状態に近づいていると指摘する評論家もいる。しかし業界アナリストらは、インターネット業界で他に成長を見込める分野がそう多くないことも手伝って、今後この市場が大きく成長することを信じてやまない。
Salomon Smith Barneyの金融アナリスト、Lanny Bakerは、次のように指摘している。「この市場はかなり大きく、成長スピードもすさまじい。ここから生まれてくる金額も莫大なものだ。サーチエンジン大手企業はみな、ここで事業拡大や広告ビジネスへの投資をやめてしまうなんてとんでもないと感じているのだ」
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