業務アプリケーションへのオープンソース利用は増加の一途をたどり、すでに約30カ国の政府機関でそれに関する使用の規定または推奨法案が提案・可決されている。日本においても「LAMP(Linux、Apache、MySQL、PHP)」/「LAPP(Linux、Apache、PostgreSQL、PHP)」は、Webアプリケーション構築環境として定着しつつあり、適用範囲も小規模なものから大規模アプリケーションにまで広がりつつある。
LAMP/LAPP導入状況
LAMP、LAPPは、ともにフルオープンソース・ソフトウェアによるWebアプリケーション構築環境である。以下で簡単に、それぞれの業務アプリケーションへの導入状況について見ていこう。
1)Linux
まずLinuxだが、3、4年前までは業務アプリケーションへの導入は躊躇されがちだったものの、フロントエンドではWebサーバなどを中心に導入が進んでいた。2002年8月に株式会社インプレスおよびアクセス メディア インターナショナル株式会社が行った調査によると、64.3%の企業がサーバOSとしてLinuxを採用との結果が出ており、その普及率の高さがうかがえる。用途としては75.9%がWebサーバ、48.4%がデータベースサーバ、29.4%がアプリケーションサーバ、そして20.7%が業務アプリケーションサーバとなっている。この数字からも、Linuxがフロントエンドのみならずeビジネス全般における企業基幹システムOSとして使われるようになってきていることがわかる。
2)Apache 次のApacheは、日本でもまた世界規模で見ても圧倒的なシェアを誇るWebサーバである。株式会社バガボンドの調査によれば、2002年3月時点で、企業(co.jp)ドメインサーバの82%がApacheを利用している。また2002年7月に同社が行った自治体ドメイン(go.jp等)調査では、自治体ドメインの63.4%がApacheを利用していると報告されている。この数字を見る限り、ApacheはもはやWebサーバのデファクトスタンダードとなっている、といっても過言ではないだろう。
3)MySQL、PostgreSQL
MySQL、PosgresSQLについてだが、欧米では「オープンソースのDBMS」といえばMySQLが優勢であるいっぽう、日本ではPostgreSQLの方がシェアが高い。日本における業務系DBMS市場は、これまでOracleが圧倒的なシェアを占めており、MySQLやPostgreSQLは簡易なアプリケーションのみに使われる傾向があった。しかし、ここ1、2年はオープンソースDBMSの躍進が目覚ましく、またLinuxのサーバ導入が増加するにつれて、オープンソースDBMSのシェアも増加の傾向にある。すでに、MySQLは証券会社の顧客情報管理システム、財団法人の情報検索システムなどに、またPostgreSQLは学校のサイバー図書館システム、証券会社のオンライントレーディングシステムなどに使用されている。さらに、各種パッケージ・ソフトについても、OracleやSQLServerなどに加えて、MySQL、PosgreSQLもサポートするソフトが増えてきている。
4)PHP
最後のPHPは、外食産業の座席予約システム、各種ポータルサイト、企業サイトなどで幅広く使用されている。2002年には米国Yahoo!がPHPを採用、また全世界の3760万ウェブサイトのうち900万サイト以上でPHPが稼働しているとの報告もあり、これらのことからもPHPの浸透度がうかがえる。
LAMP/LAPPが普及した理由
このようにLAMP/LAPPは Webアプリケーション構築環境として定着しつつあるが、その理由は、オープンソース・ソフトウェア全般の場合と同じであろう。フリーであるということからコストを抑えられ、またソースコードが公開されているためソフトウェアの幅が広がり、質も向上していく。つまり、低価格・高安定性・高柔軟性のソフトウェアであるということだ。しかし、このように低価格・高安定性・高柔軟性の環境でありながら、2、3年前までは業務アプリケーションへのLAMP/LAPPの利用は躊躇されがちであった。その原因は、主に(1)サポート(2)ツールの不足(3)技術者確保の困難、の3点にあった。しかし最近では、サポートについては有償サポートを受ければよくなり、また開発/管理ツールもある程度提供され、さらに技術者についても確保が比較的容易になってきており、全体として導入への難易度は低下してきている。
業務アプリケーションへの導入時に注意することは・・・
ここまでで述べてきたように、LAMP/LAPPは導入事例も増え、開発/管理面を考慮しても現実性のある選択肢となった。そのため、業務アプリケーションへの導入も比較的検討しやすくなってきているが、ただし企業が業務アプリケーションへLAMP/LAPPを適用する場合には、いまだに上記三点--(1)サポート(2)ツールの不足(3)技術者確保の困難と、そして各プログラムのバージョン選定について注意が必要でもある。以下で、各事項についての注意点を説明する。
1)サポート
まずサポートについては、価格、対応範囲、対応速度などを詳しく調査し、それらに関して有償サポートベンダと合意する必要がある。ここで注意すべき点は、表面的なサポート料金だけでなく、対応範囲および速度の面を含めた「全体としての価格」を考慮しなければならないことだろう。
前述のように、全般的な状況は改善してきているものの、LAMP/LAPP環境に精通した技術者は、市販ソフトを使った環境に比べると、やはり多いとはいえない。社内にそれを熟知した技術者が少なければ、社外のサポートに問い合わせるまでもないような問題などでも、すぐには解決できない可能性がある。また、対応範囲が狭い場合、本来はサポート側が負担すべき責任を、企業側で負わなければいけなくなってしまう。さらに、有償サポートベンダ側の技術者不足で、対応速度が遅い場合も考えられる。こうした点を考慮に入れて、サポートの範囲・速度に関する合意をしっかり取り決めておくことが必要である。
2)ツールの不足
LAMP/LAPP環境では、GUIベースの開発/管理ツールはあまり提供されていないため、コマンドラインベースで開発/管理を行える技術者をアサインする必要がある。
3)技術者確保
次に、技術者確保の問題。LAMP/LAPP環境に通じた技術者は、ここ2、3年で増加の一途をたどっており、その結果大規模なSI企業をはじめ、小規模なWebサイト製作会社でも、この環境での構築事例が多く出てきている。また、派遣技術スタッフでもLAMP/LAPP技術者が増えており、確保自体はそれほど問題ではない。
だが、市販ソフト環境と比べて、出回っている関連情報の量が多くはないため、市販ソフト環境の場合なら、それほど経験を積んだ技術者でなくても対応できることが、LAMP/LAPPの場合には難しいという問題がある。特にエラー時や、障害時に情報量が少ないと、解決するのに時間がかかる。この点を考慮すれば、LAMP/LAPP環境を経験したことのある技術者をアサインするのが一番だが、実際には全てのスタッフを経験者で固めることは厳しいだろう。そこで、未経験者をアサインする場合は、他の環境でのWeb-DB連携アプリケーションの構築/管理経験を豊富に持つスタッフを選ぶべきである。
4)バージョン選定
最後にバージョン選定について。LAMP/LAPPのようにいまも発展途中の環境の場合、どのバージョンを選ぶかが大変重要なポイントとなる。どのソフトウェアでも、バージョンの違いによって、たとえばマシンとの相性の良し悪しや、バグの多寡による安定性が変わってくる。また、古いバージョンでは実現できない機能がある場合もある。LAMP/LAPP環境を構築する際には、特にこうした点を十分調査し、安定した高機能バージョンを選定する必要がある。
最後に
先日ある市販DBMSベンダの営業担当者が、我が社の技術者を訪ねてきた時のこと。「DBMSは何をご検討されていますか?」という営業担当者の質問に、この技術者は「すでに社内で導入実績のあるPostgreSQLを候補に考えています」と答えた。すると、この営業担当者は、帰社後すぐ技術者に宛ててメールを送ってよこした。「○○(同社の販売する商用DBMS)が持つ、PostgreSQLへの優位性」というボリュームのある資料が、そのメールに添付されていた。しかもその内容は、営業担当者が作成したとは思えないほど充実したものだった・・・。
この逸話が物語っている事柄、つまりその種の資料がすぐに送付できるよう予め準備されているというのは、営業先で「PostgreSQLを導入予定」と答えられることが度々あることを反映しており、しかもそのベンダではオープンソースDBMSへの対抗策を全社的に講じていることを意味していると考えられる。
他の3つと比べると、実は企業への導入がそれほど進んでいないPostgreSQL(ならびにMySQL)でさえ、市販DBMSベンダが危機感を持つほどの将来性・発展性を見込まれている。それを考慮に入れれば、このLAMP/LAPPというオープンソフトウェアの組み合わせが持つ大きな潜在力をご理解いただけると思う。Webアプリケーション構築を考える際に、この魅力的な組み合わせを選択肢に含めない手はないはずだ。
富士総合研究所 システムコンサルタント 水町 雅子(みずまちまさこ)
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