Apple ComputerがVivendi Universalの音楽部門を60億ドルを上限に買収する交渉を行っているという報道を受けて、4月11日の同社の株価は下落した。
Los Angeles Times(L.A. Times)の報道によると、AppleはVivendiから同社の音楽部門であるUniversal Music Groupを買収する方向で数カ月に渡って交渉を行っているという。Universal Music Groupは世界の5大レコード会社の中で最も大きく、年間60億ドルの売上は全世界のレコード市場の約4分の1を占める。
事情に詳しい関係者がCNET News.comに明らかにしたところによると2社の間で交渉が行われている事実はあるものの、交渉は「まだ始まったばかり」の段階だという。「(買収に)関心があることが表明され、交渉が行われている」と関係者は語っている。
レコード会社の買収がAppleを単なるコンピュータメーカーから、ハードウェア事業と同規模の音楽事業を持つ企業に変えるかもしれない。一方、投資家は、この買収によって同社が40億ドル以上の現金を使う可能性があることに警戒を強めている。4月11日の株式相場でのApple株の終値は1ドル17セント(8パーセント)下げて、13ドル20セントであった。
AppleとUniversal Music Groupの両社はコメントを拒否している。L.A. Timesは「交渉はまだ決裂する可能性があるものの、4月29日に行われるVivendiの経営会議までにAppleが50億ドルから60億ドルの買収金額を提示する可能性がある」と報道している。
Vivendi Universalは、音楽部門に限らず映画スタジオやテーマパークなどを含む同社のエンタテインメント事業に対して多くの第三者が興味を示しているが、特定の交渉について話すことはできないとしている。
アナリストからは「タレントの発掘やプロモーション、流通などのレコード会社の重要機能がメディアやインターネットによって変化している時代に、レコード会社を買収することがAppleにとって意味があるのだろうか」と疑問の声があがっている。
Marketsnap Research GroupのメディアアナリストSteve Harmonは「'American Idol' のようなテレビ番組によってアーティストの発掘方法が変化している時代にAppleがUniversal Music groupを買収するという噂は致命傷になるかもしれない。どんなに有名で安定したアーティストを大勢持っていたとしても、タレントを見つけて育て上げるファンのネットワークにはかなわない。さらに、音楽配信のデジタル化がますます進んでいる状況を考えると、伝統的なレコード会社を買う理由は見当たらない」と語った。
一方で、Raymond James & AssociatesのアナリストPhil Leighのように「AppleとUniversal Musicの組み合わせは奇妙に聞こえるかもしれないが、実は驚くことではないかもしれない」と言うものもいる。
4月11日の報告書の中でLeighは「いずれにしてもApple Computerはデジタルメディア企業へと発展していくと我々は信じている。同社のコンピュータ製品はデジタルメディアの利用に特化している」と述べている。また、関係者によるとAppleは独自のデジタル音楽サービスを開発中だという。このサービスは今月の終わりに開始されるという噂があるとLeighは語った。
もしこの買収が成立すれば、Appleは今まで築いてきたパソコン事業から大きく飛躍することになる。「Appleは明らかに単なるパソコンメーカーからの脱皮を図ろうとしている。AppleはPC市場を支配する経済的な動きに他の普通のパソコンメーカーと同じように巻き込まれたくはないと思っている。」とLeighは指摘している。
同時にAppleに買収された後の音楽事業部門はコンテンツのオンライン化という観点では最も積極的な存在になるだろう。「オンラインセールスは、ここ5年間全く成長がない音楽業界にとって、不況から回復する鍵だ。音楽市場における構造変化は明らかで、CD売上の減少を補うには、インターネット配信に対応するしかない」とLeighは述べた。
Universal Music GroupのアーティストにはElton JohnやLimp Bizkit、Shania Twainなどがいる。
デジタル化に苦しむ音楽業界AppleとUniversal Music Groupの買収交渉は音楽産業全体の売上不振と負債の膨らんだメディアコングロマリットが不採算事業の売却の検討を進めてきたことが背景にある。
国際レコードビデオ製作者連盟(IFPI)が4月9日に発表した2002年の音楽産業に関する調査によれば、音楽CDとレコードとカセットの全世界での売上は昨年で3年連続の減少となった。全世界での音楽売上は7パーセントの減少、米国市場では10パーセントも減少している(関連記事)。
音楽産業の売上減少の原因については激しい論争が起きている。レコード会社はインターネットを使った不正コピーが最も大きな原因だと一貫して主張してきた。一方で、CDの高い価格設定や、大ヒットを作り出すために莫大な費用をかけたプロモーション(その費用は結局消費者が負担することになる)を原因にあげるものもいる。
いずれにしても、音楽産業にとって最も重要なのはデジタル技術の活用とインターネット配信の問題をどう解決するかということである。オンラインの会員制サービスは消費者に月額課金で幅広い商品を提供し、自宅でCDに焼き付けることを可能にしている。しかし、有料のサービスはKaZaAのような無料のファイル交換ネットワークに苦しめられている。不法なファイル交換を止めさせようとする法的な取り組みにも関わらず、これらのファイル交換ネットワークでは数百万の楽曲が流通している。
音楽事業に対する短期的な見込みの悪化はレコード事業をメディア企業における問題児にしている。 Vivendi Universalに加えて、メディア業界のリーダーであるAOL Time WarnerやBertelsmann、EMI Groupなどはみな音楽事業部門の売却を検討している。
AppleによるUniversal Music Group買収の可能性は悩ましい疑問を投げかける:音楽産業が抱えている問題の根本的原因と見られていたテクノロジー産業が最終的な救済者なのかと。
Appleはデジタル音楽のブームから利益を享受してきた。Appleが提供するiTunesソフトウェアは消費者が自分のCDを「吸出し、編曲し、焼き付ける(rip, mix and burn)」ことを可能にし、同名のキャンペーンは音楽産業の怒りを買っている。また同社のデジタル音楽プレイヤーiPodは大ヒット商品になっている。どちらの場合も、Appleは音楽産業に新たなビジネスチャンスを生むことなく利益を得ている。
けれども、今後登場する音楽サービスでは、Appleはハードウェアメーカとしてのみならずコンテンツホルダーとしてもデジタル音楽から利益を得る方法を探している。
Appleにとって、ソニーの苦い経験は用心すべき教訓となるかもしれない。コンシューマーエレクトロニクス分野の巨人であるソニーは1988年にCBSレコードを20億ドルで買収した。しかし、現在に至っても、ソニーの音楽部門とガジェット(ハードウェア)部門の間には、ほとんど相乗効果が見られない。
ソニーのメディア部門とエレクトロニクス部門それぞれの経営陣の間では不正コピーに対する見解の相違が大きな問題になっている。レコードを担当するメディア部門側は不正コピー防止の方策を支持し、消費者がデジタル機器で音楽を再生することを困難にしようとしている。例えば、昨年、ソニーの音楽部門に所属するアーティストCeline Dionが「A New Day Has Come」というシングルを発売した際、そのCDにはソニー製を含むほとんどのパソコンで読み取れないような処理が行われていた。
ソニーの内紛の構造は産業全体でも同様に見受けられる。デジタル不正コピー問題はエンタテインメント企業とエレクトロニクス企業をワシントンにおける政治的なロビー活動で互いに対立させている。もしエレクトロニクス業界が自主的にコンシューマーエレクトロニクス製品におけるコピー防止の規格を策定できない場合、政府がコピー防止技術を決められるという法律が提案されており、パソコンメーカーは激しく反発している。
ソニーが混乱のサインを示す中で、1月に米Sony Musicは15年に渡って同部門を率いてきたTommy Mottolaの後任として音楽業界での経験を全く持たない人物を起用した。
新リーダーのAndrew LackはNBCの前社長で長いことテレビネットワークのニュースオペレーションを統括してきた。彼は昨年1億4200万ドルの損失を出したSony Musicの改革という困難な課題に直面している。Lackは最近、複数の事業部門の統合とそれに伴う1000名の従業員の削減を含むリストラプランを発表している。
この記事は海外CNET Networks発のニュースをCNET Japanが日本向けに編集したものです。
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