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「無敵」ではなかったマイクロソフト - (page 3)

Mike Ricciuti, Alorie Gilbert and Joe Wilcox (Staff Writers, CNET News.com)2003年01月06日 11時30分
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DAY1 オープンソース:迫り来る反乱者
DAY2 エンタープライズ:巨人たちとの衝突
DAY3 サービス:MSNの危険な賭け
DAY4 戦略:マイクロソフトVSマイクロソフト
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 米マイクロソフト本社のあるシアトル地域から遠く離れた思いがけない2つの場所が、マイクロソフトの将来にとってますます重要になっている。その2ヵ所とは、ノースダコタ州ファーゴとデンマークのベドバエク(Vedbaek)だ。

 これらの場所は、米グレート・プレインズ・ソフトウェアとデンマークのナビジョンの所在地だ。マイクロソフトは、この数年における最も重要な取り組みとして両社を買収した。両社とも会計用ソフトウエアなどを開発しており、マイクロソフトが長年にわたって計画してきた企業向けアプリケーションへの移行の中核をなしている。企業向けアプリケーションは、決算締めや発注処理、在庫や顧客、サプライヤー、従業員などの管理といった業務を手助けする複雑なプログラムだ。

ERP市場に飛び込むマイクロソフト

 世界最大のソフトウエア企業であるマイクロソフトにとってさえ、米オラクル、独SAP、米シーベル・システムズ、米ピープルソフトなどの業界大手が支配する馴染みのない分野への進出は容易ではない。

 米ギガ・インフォメーション・グループのアナリスト、ポール・ハマーマンは「(マイクロソフトの)意図は、会計分野に限らず、企業が必要とする製品を販売することで、企業向けアプリケーションの中間市場を先導し、支配することにある」と言う。

 しかし、マイクロソフトの勝算はそう低くはないだろう。マイクロソフトはデスクトップ機向けOSとビジネスアプリケーション市場の90%以上を支配しており、ハイテク業界全体に比類ない影響力を持っている。また、長期にわたって地位を確立しているライバル企業から新市場を奪いとるという行為をこれまで繰り返してきた。

 マイクロソフトは企業向けビジネスアプリケーション市場への進出で戦略を広げようとしている。主力の『Office』ビジネスソフトウェアの売上が衰えだしたため、同社は、数十億ドル規模の可能性を秘めた企業向けソフトウエア市場への進出と、ここ数年で普及が急速に進んだERPとCRMという2つの技術の開発に期待している。

 米国調査会社ディレクションズ・オン・マイクロソフトのアナリスト、マット・ロソフは、こう説明する。「デスクトップアプリケーションは、一般ユーザー市場もビジネス市場も飽和状態だ。ユーザーにOfficeを次期バージョンへアップグレードさせることは、次第に困難になってきている。そこでマイクロソフトが伸びる1つの方法として、企業向けアプリケーションというまだ手がけたことのない市場への進出がある」

 マイクロソフト最高経営責任者(CEO)のスティーブ・バルマーはCNET News.comに、ソフトウェアメーカーが中小企業を対象とした市場に注力していると明言している。バルマーは中小企業向け市場を極めて利益の高い市場と考えている。「コンピューター市場の最大部分を占めるのは、大企業でも一般ユーザーでもない。中小企業だ」とバルマーは言う。

 その上バルマーは、すでに地位を確立した企業向けソフトウエアメーカーとの競争を軽視している。「わが社とSAPやシーベルといった企業の事業は若干重なるだろう。しかしこの重複部分は、彼らの売上の90%を占めるものでもないし、わが社の売上の90%に及ぶこともない。わが社においてはCRMとERP両方の売上のほんのわずかな割合だ」と述べている。

 マイクロソフトの戦略の鍵とは、敵対する分野で昔から有効性が実証されている武器--つまり、低価格--を身につけることだ。同社がデータベース管理ソフトウエアSQL ServerをWindows市場のけん引力にしようと考えた時、マイクロソフトはデータベース大手のオラクルに競合できるよう価格を落とした。また、米ノベルが支配するローカルネットワーク事業に足掛かりを得る際に、LAN Managerソフトウエアの価格を大幅に引き下げた。ワープロソフトの王者、WordPerfectの座を奪うために、マイクロソフトはビジネスアプリケーションのバリューパックとしてOfficeを作り出した。

 このやり方は企業向けソフトウエア、特にCRM分野で受け継がれる。今年発売予定のMicrosoft CRM (MSCRM)の価格は、セットアップとインテグレーションを含んだ完全パッケージ版が2万ドルから3万ドルの間に設定される。競合製品は通常、最低でも10万ドルはする。また、インテグレーションとコンサルティング料金を含む場合は、数百万ドルかかることも珍しくない。このため、マイクロソフトは中小企業の顧客に対して優位に立っている。

 マイクロソフトはオラクルの戦略を一部真似ている。両社ともデータベースや開発ツールなどのITインフラストラクチャーを基礎に据え、それら製品をベースに動作するアプリケーションへと事業の手を広げている。アプリケーションの販売がインフラストラクチャー製品の売れ行きをさらにあおるといった仕組みだ。

 つまり、マイクロソフトが企業向けアプリケーションを販売するたびに、VisualStudio.Netのような開発ツールに加え、Windows OSやSQL Serverデータベースのような製品の売上が増えるのだ。SQL Serverデータベースは、マイクロソフトの企業向けアプリケーション全製品で利用される。購入意欲を高めるため、マイクロソフトは企業向けアプリケーションやインフラストラクチャー用ソフトウエアの購入客に対し、さらなる値引きを実行する。

 ロソフは言う。「マイクロソフトは、ビジネス・ソリューション部門が新製品の売上を増やすだけでなく、Windowsの売上を高め、電子メールサーバーソフトウェアのExchangeとOfficeの個人向け販売も促進できることを期待している。マイクロソフトはこの市場に投資するための資金をたっぷり持っている。マイクロソフトが無視されることはありえない」

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 マイクロソフトが企業向けアプリケーション市場にとりつかれているように見える理由は、数字に目を向ければわかるだろう。この市場は利益が高い。景気後退によって需要が減るまで、主要ソフトウェア企業に2ケタ台の成長をもたらした。90年代後半には2000年問題対策として、多くの企業が新しい企業向けアプリケーションのインストールを急ぎ、ドットコムブームに乗るためにもアプリケーションに投資した。

 マイクロソフトはこれらの波を逃したかもしれないが、次の波に取り残されるつもりは全くない。マイクロソフトは、市場が2年から4年のうちに回復すると予言している。マイクロソフトにとってその期間は、獲得した企業を統合し、さまざまな製品を開発し、販売力の拡充を実行するのに十分なものといえる。

 またマイクロソフトの幹部は、企業向けアプリケーション事業部門の成長がデスクトップアプリケーション市場の減速を相殺する助けになるとも期待している。Officeの売上は今年わずかに落ち込み、既存顧客にアップグレードを販売する以外ほとんど成長の余地がない。これは、マイクロソフトの売上の3分の1以上にあたるOfficeにとっては好ましくない兆候だ。

 そこでグレート・プレインズとナビジョンの登場だ。マイクロソフトが11億ドルで買収したグレート・プレインズは、昨年3億ドルの売上高を創出した。7月に14億5000万ドルで獲得したナビジョンのおかげで、マイクロソフトは短期間でヨーロッパ市場に進出し、昨年は1億8100万ドルの収入を獲得した。現在両社は一体となってマイクロソフト・ビジネス・ソリューションズを構成している。同部門は、マイクロソフトCEOのスティーブ・バルマーが同社の能力と投資の中核分野として定めた7つの事業部門の1つだ。

 年間売上高が数百万ドルの未熟なこの部門は、マイクロソフトの283億7000万ドルという総売上高の中ではわずかな部分にしか過ぎない。また企業向けアプリケーション市場の巨人企業で、昨年の売上高が72億4000万ドルだった独SAPと比べるとちっぽけに見える。しかし、マイクロソフトは急速な拡大を目指して壮大な計画を立てている。

 マイクロソフト・ビジネス・ソリューションズの総責任者、リン・ストックスタッドは「需要を引き上げて顧客をマイクロソフトのアプリケーションに乗り換えさせるには、次世代の価値命題が必要だ。そのためには今から3年ぐらいの期間がかかる」と説明する。

マイクロソフトの全戦力
オープンソース エンタープライズ
MSN
.NET

 もしマイクロソフトがOfficeやWord、Excel、PowerPointといった人気デスクトップ向けアプリケーションの大成功に近づくような領土を作り出したいなら、さらに時間がかかるかもしれない。これらのデスクトップソフトウェアは個人利用向けに設計されているが、企業向けアプリケーションは大規模で複雑な事業運営を向上させる役目を担うからだ。

 買収で獲得した6つの製品ラインに加え、マイクロソフトは今後1年以内に5つのアプリケーションを販売する方針だ。その1つであるMSCRMは、企業の販売やマーケティングの合理化を図るための製品である。これにより、マイクロソフトは、シーベル・システムズが支配するCRM市場に進出する。2つ目のアプリケーションはサービス企業向けで、プロジェクトの企画と作業手配をし、他にも小売店の在庫追跡や販売情報の収集も行なえる製品も準備している。

 しかし、マイクロソフトはこれらの分野で深刻な競争に直面する。特にSAP、シーベル、オラクル、J.D.エドワーズ、ピープルソフトなどが手強く、業界にはこうしたライバルたちがひしめいているからだ。さらにマイクロソフトは、すべての重要なアプリケーション再販業者に対し、同社がこうした競合他社よりもすぐれた金儲けの方法を提供できるのだと説得しなければならない。アプリケーション再販業者たちは、結束力のない集まりだが、総計で数十億ドル分のソフトウエアを販売している。

 ディレクションズ・オン・マイクロソフトのアナリスト、ロブ・ホーウィッツは、「マーケティング、販売、技術など、すべてを含めた取引だということを、マイクロソフトはシステムインテグレーターに納得させる必要がある」と述べている。

小規模企業に低価格製品を提供

 マイクロソフトは小規模企業に対し、ビジネスアプリケーションをひとまとめに販売し、SAPや他の企業がつまずいた市場で成功を収めようと期待している。たとえば、MSCRMはユーザー1人につき395ドルからの価格設定をしており、50〜500名の従業員を抱える企業をターゲットに絞っている。

 この価格だと、SAPやシーベルなどの企業よりも、米ベスト・ソフトウエアや米フロントレンジ・ソリューションズ、米セールスフォース・ドット・コムといった企業と競合する可能性の方が高い。シーベルの最高価格のアプリケーションは、ライセンス料とインストール、そして保守担当のIT専門家の料金が含まれ、通常数百万ドルかかる。

 しかし、マイクロソフトは目標市場をより広範囲に設定し、年間売上高が100万ドル〜10億ドルの企業としている。目標設定範囲の中間層では、当初の予測よりも勢力の強いライバルとぶつかることになるだろう。こうしたライバルは今、景気悪化に苦しんでおり、その照準をより小規模な企業に下げてくるからだ。

 そうなると、マイクロソフトとSAP、オラクル、ピープルソフトといった企業間の競争はやがて、「熾烈なものになるだろう」とピープルソフトの製品およびテクノロジー担当上級副社長のラム・グプタは予測する。

 マイクロソフトは同社の戦略的利点として、小規模企業へのソフトウエア提供に特化した4500社からなる販売パートナーネットワークの存在を挙げている。ピープルソフトやオラクルなどのソフトウエア企業は直販方式を取っており、直販営業スタッフは高いコミッションを希望することが多い。これらの企業はまた、システムインテグレーターと呼ばれる高給取りのコンサルタントに自社製品のインストールを依頼している。

 マイクロソフトの販売パートナーネットワークは長所でもあるが、同社にとって別の問題を提起している。マイクロソフトの再販業者ネットワークのうち、実際にマイクロソフト・ビジネス・ソリューションズのアプリケーションに精通している再販業者はほんのわずかだ。従来からのマイクロソフト再販業者の一部は、これらのアプリケーションの知識があまりない。

ビジネスアプリケーションは全く別物

 フェニックスにあるマイクロソフトの再販業者である米ITシナジーの社長、マイケル・コカノアは、この点をうまく説明している。同社は最大250台のパソコンを持つ企業向けのデータベース、顧客ソフトウエア、コンピューターネットワークのセットアップに特化している企業だ。

 コカノアは言う。「会計システムを誰かに販売するというのは、全てがこれまでと違う。わが社は会計分野の専門家を抱えているわけではなく、進出したい事業分野は会計ではない。しかし、会計は会社ではとても重要な部分を占めているので、へまをすると本当に大変だ」

 一部の再販業者は、マイクロソフトとビジネス・ソリューションズ部門がまだ別会社のように操業していると不平をもらしている。統一感が欠けていることから、グレート・プレインズやナビジョン、ビジネス・ソリューションズ部門と取り引きする意欲が薄れるというのだ。「マイクロソフトは販売の足がかりを与えてくれるなど、すばらしいものだしかしの評判があってもグレート・プレインズはどうにもならない」

 マイクロソフトはまた、グレート・プレインズとナビジョンの買収で獲得したアプリケーションを書き直している。全製品で同じコードベースを利用するという大仕事に取り掛かっているのだ。この作業には、プログラミング言語のVisual BasicとC++を使い、ソフトウエアを数百万行も書き直す作業が含まれている。マイクロソフト・ビジネス・ソリューションズ部門重役のジェフ・エドワーズは、作業に3年間かかり、1500名のソフトウエア開発者の協力が必要となると見積もっている。

 ひとたび書き換え作業が終われば、製品統合がなされる。マイクロソフトにとっては、自社製品の維持とさらなる製品開発がしやすくなり、異なるアプリケーション間の相互運用も容易になる。

 ビジネス・ソリューションズの新アプリケーションに関しては、すでに市販会計ソフトウエアSmall Business Managerに対する不満が沸き上がっている。同ソフトは米インテュイットのQuickBooksに競合するため、マイクロソフトが約1年前に発表した製品。一部の再販業者は、同製品があまり人気がないと述べている。

数多い課題

 米クーレンズ・コミュニケーションズ社長のエレイン・クーレンズは「人々のニーズで比較をするなら、QuickBooksの価格の方が好ましい」と述べている。同社はシカゴに所在するマイクロソフト認定パートナーだ。「QuickBooksの方が使い勝手もよく、多くのものが得られる」

 ストックスタッドによると、マイクロソフト・ビジネス・ソリューションズは、近々発表するSmall Business Managerの新バージョンをより競争力のある製品にするつもりらしい。しかしアナリストたちは、これはマイクロソフトが直面する多くの戦いの1つに過ぎないと述べている。たとえば、マイクロソフトの新しい顧客管理ソフトウエアは、より深刻な問題を提起する可能性がある。

 米ガートナーのテクノロジー・アナリスト、ジョー・アウトローは、「多くの小企業はCRMソフトウエアの価値を理解していない。すでに顧客を絞りこんでいると自負のある企業はごく少数だ。顧客について知らなければ、事業を行なえない」と指摘している。

 マイクロソフトは、ビジネス・ソリューションの全てのアプリケーションには.Net製品の提供が絡むとしている。.Net製品とは、インターネットを利用して企業の効率性を向上するOS、データベース、開発ツールの次世代バージョンだ。

 しかしながら、大掛かりな計画にはよく起こることだが、.Net製品のリリースは予定より遅くなった。クーレンズは、「マイクロソフトは長期にわたってこのコンセプトを追求してきた。しかし、リリースされた製品の数は多くない」と語っている。

 マイクロソフトは2003年第1四半期に、CRMアプリケーションとMicrosoft Business Networkという名の新たなアプリケーションの出荷を予定しており、.Netが具現化しはじめると述べている。両製品とも、通常は電話やファックス、書類で処理される発注、受領書、在庫調査といった業務処理をオンラインで処理するためのものだ。

 「.Netとは、つながっているということだ。それはつまり、企業と顧客、パートナー、従業員の間のオートメーションが進むことを意味する」とストックスタッドは説明する。

 聞こえは良いが、果たしてIT人材をさほど抱えてない小企業を納得させられるだろうか?

 ディレクションズ・オン・マイクロソフトのロソフは言う。「中小企業市場は課題の多い市場だ。この市場が分散しているのは理由があってのことで、中小企業の人々に影響を与えるのは困難なのだ」

DAY1 オープンソース:迫り来る反乱者
DAY2 エンタープライズ:巨人たちとの衝突
DAY3 サービス:MSNの危険な賭け
DAY4 戦略:マイクロソフトVSマイクロソフト
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