「無敵」ではなかったマイクロソフト - (page 2)

Mike Ricciuti, Alorie Gilbert and Joe Wilcox (Staff Writers, CNET News.com)2003年01月06日 11時30分

DAY1  オープンソース:迫り来る反乱者
DAY2  エンタープライズ:巨人たちとの衝突
DAY3  サービス:MSNの危険な賭け
DAY4  戦略:マイクロソフトVSマイクロソフト
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 ビル・ゲイツや米マイクロソフトの他の幹部たちは、ここ何年間もオープンソース・ソフトウェアの経済哲学を声高に非難してきた。彼らにしてみれば、オープンソースのライセンス方法は、技術革新を妨げる「害毒」だと、言ってきたのだ。

 しかし、現在ではマイクロソフトは、オープンソースの概念を「愛している」と公言するようになった。オープンソースは外部のプログラマーによって改良が加えられるように、ソフトウェアのソースコードを公開する。このオープンソースの精神にのっとって、ゲイツ自身が、マイクロソフトは喜んでWindows OSのソースコードを一部の顧客に公開すると述べているのだ。

 マイクロソフトのウィンドウズ・サーバー・グループの副社長ビル・ベクティは「オープンソース方式を取ることもありえる。我が社はソースを共有するという考えに大賛成だ。これはコードアクセスという点で、私たちにとって大変重要な移行を意味している」と述べている。

マイクロソフトの全戦力
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 マイクロソフトは突如としてオープンソース主義に転向したのだろうか。その可能性はほとんどない。マイクロソフトのオープンソース宣言は、Linuxなどのオープンソース・ソフトウェアを利用する顧客が声高に要求して、ようやく実現したものだ。Linuxでは、誰でもコード内部の仕組みを見て修正することができる。

 その範囲が小さいとは言うものの、マイクロソフトが基本的なオープンソース主義を採用したことは、記念碑的な意味合いを持つ(記念すべきことだ)。同社がこの数年間でオープンソース・テクノロジーを最も手ごわい競争相手と認識し、Windowsの領土をその攻撃から守ろうと方策を講じてきたことが明らかだからだ。

 オープンソースの活動は、マイクロソフトにとって、いかなる特定の技術や企業をも超越するほどの大きな脅威を意味している。ハイテク業界は精神的な変化を遂げ、マイクロソフトに挑む傾向が高まっている。これは何年も前から技術的に可能ではあったが、実際には考えられないことだった。

 景気の低迷やマイクロソフトの事業戦略の失敗など、さまざまな理由が重なったことで、大企業の多くはここに来て(恐らくこの10年で初めてのことだろうが)、なぜマイクロソフトに対して巨額のライセンス料を支払わなければならないのか、またどうしたら支払いを少なくできるのかを考えるようになってきている。

 米ディレクションズ・オン・マイクロソフトのアナリスト、マイケル・チェリーは「マイクロソフトは、自社ソフトのアーキテクチャーの構築方法や、商品化の方法、マーケティングの方法などを見直さざるを得なくなるだろう。これは良いことだと思う」と述べている。

 オープンソースの力が強力になった一因は、マイクロソフトの自業自得にある。同社の新しいソフトウェアライセンスの方法は物議をかもした。一部の顧客にとっては支払額が増え、将来のリリースより前にライセンス料を支払わなければならなくなったのだ。この結果、マイクロソフトの多数の顧客が、Linuxなどのより安価なOSに目を向けることとなった。

 オープンソースを活用しようとする企業の動きがマイクロソフトの収益にすぐに影響を与えるとは誰も予測していない。同社は依然として記録的な売上高を上げており、約400億ドルの現金を所有している。しかし、オープンソース人気の高まりがマイクロソフトに何らかの措置を講じさせたのは明らかだ。

 米イルミネータのアナリスト、ジョナサン・ユーニスは、「マイクロソフトはいかなる意味においても、Linuxによってまだ痛手を負ってはいない。しかし、顧客はオープンソースによって選択肢を持てるようになった。つまり、マイクロソフトは対抗策を取るために時間とエネルギーを費やさなくてはならないのだ。マクロソフトにとって、Linuxとオープンソースは、2002年の売り上げを減少させる原因ではなく、戦略的に取り組まなくてはならない課題なのだ」と指摘している。

 マイクロソフトの顧客は、同社がすっかり変わったと述べている。たとえば、ソースコードを多数の顧客に公開したり、ソフトウェアの厄介なセキュリティーホールを修復するために「trustworthy computing」の取り組みを始めたことなどだ。

 同社の最高経営責任者(CEO)のスティーブ・バルマーは、CNET News.comの取材で「われわれは言うなれば、Linux業界から学んでいるのだ」と語っている。

 マイクロソフトは次期Windowsサーバーバージョンで、サポートやアドバイスが得られるオンラインニュースグループに登録するよう顧客に勧める方針だ。オープンソース哲学のコミュニティベースの伝統に従っているわけだ。

 ユタ州の最高情報責任者(CIO)で長年マイクロソフトの顧客であるフィリップ・ウィンドレーは次のように述べている。「オープンソースなら、自分のシステムが動くようにできるが、ソースが公開されていないソフトウェアでは不可能だ。ソフトウェアメーカーが自分の考え方に合うようになるのをいつも待っていられるわけではない」

遅すぎたマイクロソフトの対応?

 問題は、マイクロソフトの行動が遅すぎたかということだ。オープンソースのソフトウェアの洗練度が高まり、Windowsの代替としてサーバーシステムやWebサイト運用に使えるレベルまで至ったことに、多くの企業が気づいたのはちょうど1年前のことだ。米アマゾン・ドット・コムや米ベライゾン・コミュニケーションズ、ニュージーランド航空はコスト削減のため、この1年間でこぞってLinuxに切り替えた。

Linux購入計画

 当初、LinuxはサーバーOS用Windowsの競合製品としてしか認識されていなかった。ハイテク業界調査会社の米IDCによると、企業サーバーの約27%とWebサーバーの半数以上がLinuxを採用している。しかし最近の動きにより、デスクトップ機でLinuxの魅力が高まってきた。米サン・マイクロシステムズの『StarOffice』(スターオフィス)など、マイクロソフトの『Office』に代わるオープンソース・ソフトウェアとの組み合わせが注目を集めている。

 これは長年マイクロソフトの製品を利用している顧客の一部に、次の一歩を踏み出させることとなった。かつてなら思いもよらなかったことだが、顧客はWindowsやOfficeの代わりに、Linuxなどのオープンソースのソフトウェアをデスクトップシステムに搭載することを真剣に検討し始めたのだ。

  アメリカ自動車協会CIOのサティシュ・マハジャンは現在、サーバーシステム向けのOSとしてLinuxを評価している段階であり、最近ではデスクトップ機にも利用しようと、オープンソース・ソフトウェアに目を向け始めている。「同業者と話していると、ビジネスの比重が徐々にLinuxへ移行してきているという話しを耳にする。自分としてはまだ長所と短所を検討している段階だが、オープンソースに傾いてきている」と話している。

 マハジャンらは、Linuxを検討しようと決めた唯一の理由をコストだと述べている。最近では、企業の情報システム責任者や、一部の国の政府ですら、マイクロソフト製品は柔軟性がなく高価で大き過ぎると考える人が増えている。マイクロソフトの得意客である大企業や公的機関は、業務を合理化するために、Linuxやオープンソースの導入を検討している。コンピューター業界で長い間一般的になっているアップデートと買い替えの繰り返しを逃れるためでもある。

 マイクロソフトの幹部らは高まる脅威に気づいているが、自社の顧客の間でLinuxやオープンソースが人気を得ていることを気にして、批判的な口調を和らげている。

 CEOのスティーブ・バルマーから「Linuxに対抗する戦略を打ち立てよ」という任務を受けているベクティは、「われわれは慎重な姿勢で臨むべきだ」と語る。「Linuxは強敵であり、消え去ることはないだろう」と言う。

 しかし、歯に衣を着せない物言いで知られるバルマーは、Linuxの弱点をこう指摘している。「Linuxクライアントで稼動するソフトウェアは、あまりすぐれていない多数のシェアウェアくらいだ。Linuxプラットフォームには、改善すべき点と追加しなければならない機能がまだまだある。」

 「彼らはまずUNIXを模倣した。そして、今度はわれわれの製品の一部を模倣している。しかし、これではただの模倣OSだ。この世界から何か革新的なものが生まれることは期待できない」とバルマー。

 この競争で最も難しい部分は、顧客が単純に経済的な理由からオープンソースを選択しているということだ。Linuxをはじめとするオープンソースのテクノロジーは、ラインセンス料がかからない。これがマイクロソフトには太刀打ちできないところであり、バルマーもこの点は認めている。バルマーは最近、ロンドンで開かれた会議でこう述べている。「われわれは、ゼロという値段をつけることはできない。だから、われわれの姿勢と価格を顧客に納得させなければならない。」

 バルマーは、企業がLinux導入を検討している唯一の理由は価格だと考えている。「わが社の製品が5ドル、50ドル、または100ドルだとしても、人々はLinuxに注目するだろう。そのため、われわれは毎日、この価値命題に取り組まなければならないのだ」とバルマーは言う。

数字が懸念を呼ぶ

 企業のCIO 225人を対象とした最近の調査によると、回答者の29%がLinuxサーバーを所有しており、8%がLinuxサーバーの購入を公式に検討している段階だという。マイクロソフトにとってさらに厄介なのは、新しいLinuxサーバーを最近購入したという回答者の31%が、Windows搭載サーバーと置き換えて利用すると答えていることだ。

 多くのCIOたちが、マイクロソフトの新しいライセンスプランをLinuxを選択した理由に挙げている。

 「LinuxをWindowsとOfficeのより安価な代替品として考えている」と、米リッチモンド・ホールセールのシステム・アプリケーション・マネジャーのアラン・フリントは言う。同社はカリフォルニア州リッチモンドの食料品卸売業者だ。「自分のシステム環境を簡素化する製品を探している。マイクロソフトのライセンスプログラムには失望したからね」と、フリントは説明する。

システムの乗り換え

 マハジャンは、彼自身もマイクロソフトのライセンスプランがきっかけとなり、Linuxをより綿密に見つめるようになったと述べている。「マイクロソフトのソフトウェアのコストは上がり続けており、昔とは違うのだ。以前はWindows 98を購入して3年間は使えたが、もうそんなことはできない。お金を払わなければならないのだ。」

 ユタ州のウィンドレーもこれと同意見だ。新しいライセンスプランは「人々をマイクロソフトに対してさらに用心深くさせただけ」だと言っている。「マイクロソフトのライセンス問題にうんざりしているIT関係者はこの州にたくさんいる。彼らはただ頭痛の種をなくしたいがために、『OpenOffice』(サンのStarOfficeのオープンソース版)を求めている」とウィンドレー。

 フリントは、大企業にマイクロソフト離れを起こさせる別の要素があると指摘する。マイクロソフトはアップグレードや製品の新バージョンを頻繁にリリースする。バージョンアップを望んでいる顧客が誰もいないのに、新バージョンを発売することが多い。「マイクロソフトは顧客を会員制度に縛りつけることで売上高を確保したいのだ。ユーザーが強く求めるような機能があまりないので、単にライセンスプランを変えているだけなのだと思う。」

 ディレクションズ・オン・マイクロソフトのチェリーは、これらの意見が業界全体の意見を反映していると述べている。技術製品の購入者は、80年代や90年代よりもさらに価格に敏感になっている。「Linuxの脅威は増している。というのも、昔は顧客が今ほど敏感ではなかったからだ。お金があったためか、またはWindowsの各バージョンに魅力的な機能がたくさんあったからだろうか。もっとハードウェアが必要になるとしても、顧客は喜んでアップグレードをしていた」とチェリーは振り返る。

 「現在ではWindows XPのような製品を見てこう言う。『OK、これは安定感が向上しているけど、新しいコンピューターを買わなければならないな。マイクロソフトは従来バージョンより少ないリソースで済む新バージョンを今までに作ったことがない』または、『Windows 2000 Serverは本当によさそうだけど、今必要なのはWebサイトだけだ。この古い486を使ってRed Hat LinuxとApacheを搭載できる。そうすればすぐにWebサーバーを立ちあげられる』と言うかもしれない」と、チェリーは分析する。

大手企業のサポート

 さらに技術製品の購買者は、Linuxの質が向上し、利用範囲も広がっていると指摘する。主な要因は、マイクロソフトのライバル企業の後押しだ。「IBMやサンといった大手がLinuxへのサポートを提供し始め、Linuxのセキュリティーホールをふさぎ、サポート体制を改善したことが、質の向上につながったのだ」とマハジャンは説明する。

 偶然にもこれは1980年代、マイクロソフトがWindowsでチャンスをつかんだ際のやり方とそっくり同じだ。「マイクロソフトは分割統治のマーケティング戦略を使った。情報システム部門ではなく、現場の事業部門部門を直接攻めたのだ。そして突如として、情報システム管理者が周りを見回してこう言う。『おや、マイクロソフト製品をたくさん使っているんだな』。Linuxについてもそのようになるだろう」とチェリーは言う。

 しかし、Linuxやオープンソースが大きな課題を提起したにもかかわらず、マイクロソフトはさほど窮地に追い詰められていない。Linuxはサーバー市場で真の意味でのライバルとなったが、マイクロソフトはまだデスクトップ市場を支配しているからだ。

 多数のマイクロソフトの顧客を含む業界のベテランは、大企業で現在利用されている技術を入れ替えることは、とても困難で費用のかかることだと主張している。最もコストがかかることの1つに、ユーザーの再教育がある。

 ユタ州全体で2万2000台のデスクトップ機をサポートしているウィンドレーは、「ユタ州政府の主流ユーザーに、Linuxがデスクトップ機に適したOSだということを納得させるのはとても難しいだろう。その理由の大部分は機能的なことではなく、Linuxを使いこなすための教育だ」と述べている。ウィンドレーは、大規模な変化を考えているCIOの一人として、次のように忠告する。「進んで自刃する覚悟が必要だ。まったくの失敗に終わってしまう可能性が高いからだ。」

 また、マイクロソフトの新しいライセンスプログラムに同意した企業は、3年間の製品使用料を前もって支払っており、競合製品に乗り変える可能性は低い。

 しかし、Linuxの存在自体が長期的にマイクロソフトの顧客に利益をもたらす可能性は高い。実際、業界経験の長いアナリストの多くは、テクノロジー産業の落ち込みと主要ライバルの勢力が衰えつつあることから、Linuxの存在は欠かせないと分析している。

 ディレクションズ・オン・マイクロソフトのアナリスト、ロブ・ホーウィッツは、「Linuxに関して滑稽なのは、マイクロソフトにとって完全な脅威とはなっても、それ以上にはなりえないということだ。Linuxはマイクロソフトを滅亡させるものではなく、マイクロソフトに『敵は誰か』『自分たちは何をすべきか』を真剣に考える助けになる」と読んでいる。

 「マイクロソフトがすべきことは、製品の安全性を高めて安定させるとともに、ライセンスプランをよりシンプルなものに変えることだ」と顧客は言う。さもなければ、マイクロソフトはコンピューター業界の伝統の犠牲になってしまうだろう。つまり、旧式化してしまうということだ。

 「Linuxは‘十分に優れた’コンピューティングの最終章だ」とイルミネータのユーニスは言う。「すばらしいOSで費用は少し、またはまったくかからない。そして十分に業務をこなせる。何年も前に、WindowsがUNIXメーカーを、UNIXメーカーがミニコンピューターのメーカーを、ミニコンピューターのメーカーがメインフレームのメーカーを脅かしたのと同じように、今、オープンソースはマイクロソフトとWindowsを脅かしている。」

DAY1 オープンソース:迫り来る反乱者
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