日本IBMが、新たな「ソフトウェア・エバンジェリスト制度」をスタートして、まもなく半年が経過しようとしている。
IT企業における「エバンジェリスト」とは、「伝道師」の意味通り、新たな製品やサービス、技術などを、多くの人たちに広く伝えることが、その役割となる。この業界ではアップルが古くからこの言葉を使っており、ステータスのある役職のひとつになっていた。現在では、特に外資系IT企業の多くに、この肩書きを持つ人々がいる。
日本IBMでは、ソフトウェア・エバンジェリストの役割を、「IBMソフトウェアの各テクノロジ分野における公式スポークスパーソン」と定義している。講演や記事執筆、インタビュー対応、コミュニティ活動などを行うことで、市場に対して、IBMのソフトウェア技術を伝道していくことを狙いとしている。
同社では2004年から、ソフトウェア事業においてソフトウェア・エバンジェリスト制度を開始し、2010年3月までに24人のエバンジェリストを擁していた。だが、2010年4月に、従来の製品ごとに分かれていたエバンジェリストを、「分野」の切り口から6つに絞り込み、各分野に1人のエバンジェリストという体制にしたのだ。
日本IBM理事、ソフトウェア事業クライアント・テクニカル・プロフェッショナルズ技術統括本部長の四分一瑞紀氏は、「従来の製品ごとのエバンジェリスト制度では、製品のマーケティングマネージャーとの差がわかりにくくなっていたこと、エバンジェリストでありながらそのための活動ができていなかったという反省があった。そこで、従来の制度を一度解消し、新たに募集を行った」と、新制度発足の経緯を語る。
ソフトウェア・エバンジェリストを統括するクライアント・テクニカル・プロフェッショナルズでは、顧客が抱える問題に対するソフトウェアの提案、技術研修の実施、顧客の要望を反映したソフトウェア開発といった業務を行っている。ソフトウェア・エバンジェリストは、同組織の活動の一環として設置されるものになる。
新たなエバンジェリストの応募対象となった分野は、「ソーシャルウェア」「クラウド・コンピューティング」「BAO(ビジネスアナリティクス・アンド・オプティマイゼーション)」「セキュリティ」「BPM」「ソフトウェアライフサイクル」の6つ。「この6つの分野は、日本IBMが優先的にお客様に対して伝えていきたいと考えているもの」といい、見方を変えれば、日本IBMのソフトウェア事業の注力分野と捉えることができる。
IBMには、本社をはじめとする海外法人でもエバンジェリスト制度はあるが、それとは別の日本独自のエバンジェリスト制度としたのも特徴だ。新エバンジェリストは、ソフトウェア事業部門に限らず、広く社内から募り、1分野について5〜6人の応募があったという。
応募者は約1分間の自己PRビデオを制作。さらに、エバンジェリストとして10分間講演するという実技審査などから選考を行った。かなり厳正な審査となったようで、6分野のエバンジェリストがすべてそろったのは、つい最近のことだという。
今後、エバンジェリストの対象分野は、追加されたり、削除されたりといったことが行われる。IBMのソフトウェア事業の方向性に合わせて、エバンジェリストが存在する分野も変わるというわけだ。この制度の動向を追えば、日本IBMのソフトウェア事業の進む方向も理解しやすくなるとも言える。
日本IBM専務執行役員の川原均氏は、実は、エバンジェリストの募集にあたって、ひとつの条件をつけていたという。
その条件とは「人生に伝説を持つ人」。
これを聞いて、応募を戸惑う人もいたようだ。川原氏は、エバンジェリストに対して異例の条件を設定した狙いを次のように話す。
「エバンジェリストとは、人が人に伝える仕事。自分のなかに『これだ』といえるものを持っていないと、人に伝えようとしても、伝わらない。なにかを成し遂げたこと、祝福されたこと、感動したことなどを経験した人こそ、自分の言葉で相手に感動を伝えることができる」
今回、エバンジェリストの条件となった「伝説」の定義は、実は幅広い。野球で甲子園出場した経験がある、感謝状をもらったことがある、一芸に秀でているということでもいい。自らの人生のなかで強く印象に残っている大きな経験はみな「伝説」となる。
「伝説という言葉に過剰に反応して、その分、応募者が減ったかもしれない」と川原氏は苦笑するが、結果として、自らの人生に自信を持つ人々が集まったともいえる。自薦に加え、厳しい審査を経て、他者からも「伝える力」があることを認められた人々が、今後のIBMの道行きを広く示していくことになる。なお、2010年におけるソフトウェア・エバンジェリストの陣容は、以下の6名となっている(敬称略、カッコ内は担当分野)。
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