WEBにおけるコミュニケーションには、何よりもストーリーが必要です。この場合のストーリーとは、相手の感情を動かすエピソードや仕組みを指します。円谷プロのエイプリルフール企画「円谷ッター(ツブッター)」には、人間の感情を刺激するストーリーがありました。
これは毎年、エイプリルフールに合わせて凝った企画を実施する円谷プロが、2010年の4月1日に公開したサイトです。「ウルトラマンたちがいる光の国で話題のミニブログを地球からでも閲覧できるようにした、円谷プロならではの画期的なサービス」という位置づけで、今話題のTwitter風に作られています。
そして、トップページには、Twitterの「いまどうしてる?」の代わりに「ジュワジュワワワ(現状を報告せよ)」というフレーズ。「元々は宇宙警備隊がウルトラサインの代用としてパトロール時の連絡に使用していたサービスですが、カスタマイズし宇宙警備隊以外のヒーローや怪獣・星人向けに一般公開したところ大人気となりました。」という解説や、「現在はベータ版になります」という細かい注釈もあります。
さらに、ウルトラマンメビウスのタイムラインを覗いているという設定で、ウルトラ兄弟や怪獣・星人たちのつぶやきを見ることができるのです。
例えば、隊長ゾフィーが「いよいよ今日から円谷ッタースタートか…。我ら宇宙警備隊からはじまったコンテンツが、こうして大きくなっていくのは、新しい時代の幕開けを見ているようで胸が熱くなるな…」とつぶやいたかと思えば、ウラトラマン80が「任務で地球にいたあの頃から、もう30年か…感慨深いな…」と感傷にふけったりします。
他にも初代ウルトラマンが、「今使っているカラータイマーは少し古くなってきたから、新型のカラータイマーが欲しいですね。ゼロが使っているCT036AXはなかなか良さそうだな」とつぶやけば、初心者らしいマグマ星人「なうってなんなの?」、「返信するときはどうしたらいいんだ?」などと質問します。
うまくつぶやけない、ウルトラの父に対してメビウスがつぶやき方を教えるなど、それぞれのキャラが立っているので、思わず笑ってしまうつぶやきもたくさんあります。やがて、冥王星に侵略しにいくマグマ星人たちとゾフィーが遭遇するという事件が起ったり、色々な時事ネタが入ったりしながら、このタイムラインは4月2日の0時になるまでリアルタイムで更新されていきました。
さらにエイプリルフールが終わった時点で、画面は「オーバーキャパシティー(翻訳する中の人の体力的な意味で)」という表示に切り替わり(Twitterのオーバーキャパシティーのパロディ)、最後まで手を抜かず楽しませてくれたのです。
円谷ッターは本家(?)Twitter上でも盛り上がり、多くのブログでも取り上げられ話題になりました。それは、人の心を動かすストーリーがあったからです。しかもそのストーリーは、リアルタイムでどんどん更新されていくので、目が離せません。実にTwitterの特性をうまく取り入れた、優れたコミュニケーションだったと言えるでしょう。
もちろんこのサイト自体は、エイプリフールのお遊びです。しかしこのサイトを見た人たちは、ウルトラヒーローのことを思い出し、結果としてビジネスにも繋がっていく筈です。
このように、優れたコミュニケーションには必ずストーリーがあります。あなたの会社のWEBコミュニケーションには、インタラクティブなストーリーがありますか?
◇ライタプロフィール
川上徹也(かわかみ てつや) 広告代理店で営業局、クリエイティブ局を経て独立。フリーランスのコピーライターとして様々な企業の広告制作に携わる。また、広告の仕事と並行して、舞台脚本、ドラマシナリオ、ゲームソフト企画シナリオ、数多くのストーリーを創作する仕事にかかわる。近著に「あの演説はなぜ人を動かしたのか」(PHP新書)
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」