東京都がまもなく「東京都青少年の健全な育成に関する条例」を改正しようとしている。改正されれば、青少年の携帯電話の利用が厳格に制限される可能性が高い。
この条例は東京都が青少年の健全な育成を目指して制定したもので、青少年に対する不健全な図書類の販売規制、青少年の性に関する都や保護者の責務などを定めている。すでに「インターネット利用環境の整備」という項目の中にフィルタリングに関する規定があるが、今回この規定がより厳格に改められるとともに、「児童ポルノの根絶等への機運の醸成及び環境の整備」という規定も新たに設けられようとしている。
条例改正案の元となった答申は、知事の諮問機関である東京都青少年問題協議会が1月14日の第2回総会でとりまとめ、都に提出した。インターネット利用環境の整備と児童ポルノの根絶という2つの争点のうち、インターネット利用環境の整備に関しては「ネット・ケータイに関する青少年の健全育成について」という項目で以下の3点を打ち出している。
- ネット・ケータイでの被害・トラブルの防止
・都において、青少年にとって安全・安心な携帯電話を推奨する制度を創設すべきである。
・不健全な行為を意図的に行った青少年の保護者に対し、指導・勧告等を行い、責任の自覚を促すべきである。- フィルタリングの実効性の向上
・青少年が使用する携帯電話について、保護者が容易にフィルタリングを解除できないよう手続きを厳格化すべきである。
・フィルタリングから除外されるべきサイトの水準について、実態に照らし、青少年が被害に遭わないものにするため、条例への規定や第三者認定機関への要請等を行うべきである。- 青少年や保護者に対する効果的な教育・啓発
・都において、青少年に対する教育・啓発水準の確保のため、指針等を策定すべきである。
東京都は2月24日、この答申を受けて、「東京都青少年の健全な育成に関する条例の一部を改正する条例」の議案を第三十号議案として2010年第1回定例都議会に提出した。
議案が可決されると、東京都が青少年に携帯電話の機種を推奨したり、何か違反した青少年の保護者に指導、勧告できるようになったりする。さらに、携帯電話へのフィルタリングが厳格化され、保護者でさえ特別な申請をしないと解除できないような仕組みも導入される。
一方、民間側も青少年育成に関して独自に取り組んできた。2008年4月に携帯電話向け事業者が中心となって、一般社団法人モバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)を設立した。EMAは青少年保護の一定の対応を講じている携帯電話向けコミュニティサイトを認定し、フィルタリングによるアクセス制限を解除している。
同時期に一般社団法人インターネットコンテンツ審査監視機構(I-ROI)も始動した。PCとモバイルの両方を対象とし、レイティング基準を用いてサイトを審査・認定している。
2009年4月にはモバイルコンテンツプロバイダによる業界団体「モバイル・コンテンツ・フォーラム」(MCF)が一般社団法人化した。モバイルコンテンツ関連産業の健全な発展を目指し活動してきた。
これらの団体は答申素案の意見募集期間中にパブリックコメントを提出したが、答申素案が承認された東京都青少年問題協議会第2回総会では特に触れられなかった。パブリックコメントが答申案にどの程度反映されているのか。あるいはされていないのかは明らかにされていない。
ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)「mixi」を提供するミクシィもこの答申案には懸念を表明していた。2月5日に開催された同社決算発表会で、代表取締役社長の笠原健治氏は「問題を感じている理由は3つある」と指摘した。
1つ目は、国が定めた「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律」(青少年インターネット環境整備法)の基本理念に沿っていないこと。この法律の基本理念が事業者を尊重していることは以下の記述を見ても明らかだ。
青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する施策の推進は、自由な表現活動の重要性及び多様な主体が世界に向け多様な表現活動を行うことができるインターネットの特性に配慮し、民間における自主的かつ主体的な取組が大きな役割を担い、国及び地方公共団体はこれを尊重することを旨として行われなければならない(青少年インターネット環境整備法の基本理念より)
民間の自主的な活動が大きな役割を担い、地方公共団体はそれを尊重すべきと明記されているが、今回の都の条例改正に際しては、ミクシィのような民間事業者は置き去りにされている。
すでにミクシィでは携帯電話事業者のフィルタリングサービスを活用したユーザー確認や青少年ユーザーの一部アクセス制限など自主的な取り組みを実施している。
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