まず、簡単にiTMSの特徴をおさらいしておこう。iTMSはアップルが提供する楽曲管理ソフト「iTunes」を通じて、楽曲やオーディオブック(書籍を音読したものや、落語などがある)がオンラインで購入できるサービスだ。ポッドキャストと呼ばれるRSSを利用した番組もここから取得できる。
iTunes Music Storeのトップ画面。iTunesからアクセスする |
iTunesはMac版とWindows版が用意されているため、WindowsユーザーでもiTMSを利用できる。アップルのポータブルオーディオプレイヤー「iPod」と連携し、コンピュータにiPodを接続するだけで簡単に楽曲を転送できる機能を備えている。
音楽配信サービスはすでに多くの企業が提供しており、レコード会社直営の「bitmusic」(ソニー・ミュージックエンタテインメント)や、レコード会社が共同で設立したレーベルゲートの「Mora」のほか、最近ではエキサイトやUSEN、オリコンなも同サービスを手がけている。
既存の音楽配信サービスと比べて、iTMSは何が違うのか。大きな特徴として、
まず、iTMSはMacに対応した初めてのサービスだ。既存の音楽配信サービスはすべてWindowsのみの対応となっていた。
楽曲のラインアップ数は国内最大手のMoraでも約20万曲であることを考えると、iTMSの楽曲の多さが際だっている。ただしiTMSの場合は洋楽がほとんどで、邦楽のラインアップ数では他社にひけをとると言われている。
楽曲の価格は、欧米各国で提供しているiTMSに足並みを揃えた。アップルは楽曲の販売よりもiPodなどのハードウェアの売上によって収益を伸ばすビジネスモデルを採用し、楽曲自体は1曲99セントという低価格で販売している。これにより、後発の配信事業者ながらも米国で圧倒的な人気を集めた。日本でも同じモデルを適用してシェアを拡大する考えだ。
「たとえばソニーの場合、ソニー・ミュージックエンタテインメントは別会社となっているため単独で収益を上げる必要があり、赤字覚悟で楽曲を安く販売するといった思い切った戦略は打ちにくい。アップルだからこそできた戦略だ」と野村総合研究所(NRI) 情報・通信コンサルティング二部 副主任コンサルタントの北林謙氏は指摘する。
特徴の4つ目に挙げたCD-Rなどへのコピーについては、アップルが最もこだわった点だ。同社は日本版iTMSにおいても、世界共通のコピールールを適用することを譲らなかった。既存の音楽配信サービスでは、対応するポータブルオーディオプレイヤーへの転送回数には制限があり、CD-Rにもコピーできない場合が多かった。アップルは欧米で成功したコピールールを日本でも採用することでユーザーの利便性を高め、より受け入れられやすいサービスにした。もっとも、コピールールにこだわったのは、日本版iTMSだけ他国と異なるコピールールを採用するとシステムを大きく変更しなければならず、世界展開するメリットが削がれてしまうためではないかと指摘する関係者もいる。
逆に価格設定に関しては、アップルはいくらかレコード会社に対して譲歩したようだ。米国版iTMSが1曲99セントの統一価格になっているのに対して、日本版iTMSでは一部の新譜が1曲200円と、楽曲によって価格に差がある。また、アルバムの料金はレコード会社やアーティストによって異なっており、米国のように一律9.99ドルといった統一価格はない。それでも1曲150円または200円という価格設定は既存の音楽配信サービスに比べて安く、ユーザーには驚きをもって受け入れられた。
このようにiTMSは、既存の音楽配信サービスにはない特徴をもって日本市場に参入した。当初は2004年中にもサービスを開始すると言われていたiTMSだが、これらの条件面でレコード会社との合意をとりつけるために、かなりの準備期間を設けたようだ。
実際、アップルは2004年には国内のレコード会社と日本版iTMSのサービスに関して話し合いを始めていた。しかしアップルはレコード会社の反応を見ながらしばらくサービスの開始時期を探っていたようだ。関係者の話によれば、同社が本格的にレコード会社との交渉に入ったのは2005年の4月頃からだという。
ユーザーの反響は大きく、サービス開始から4日間で100万曲の楽曲がダウンロードされている(関連記事)。Moraの月間ダウンロード数が現在約45万曲であることを考えると、驚異的な数字と言っていい。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」