IBMは、Blue Gene/Lスーパーコンピュータに世間の関心を向ける一方で、ライバルのCrayやNECに対してさらに直接的に競争できるよう、古い技術に新たな工夫を加える準備をひそかに進めている。
高性能コンピューティングの顧客は何十年にもわたって、「ベクトル型」のプロセッサを搭載したマシンを使用してきた。「ベクトル型」プロセッサは特定の数学演算に優れており、メモリから大量のデータを迅速に取得できるという特徴がある。しかし圧倒的大多数のビジネス用コンピュータは--そして今日のスーパーコンピュータの大半も--汎用コンピューティングに適した「スカラ型」の設計を採用している。
IBMは今、新しいPower5プロセッサの特徴を活かして、ベクトル型とスカラ型の間の溝を橋渡ししようと計画している。Virtual Vector Architecture(ViVA)と呼ばれる技術を使えば、p5-570のようなPower5ベースのスカラ型サーバで16基あるプロセッサコアを1台のベクトル型プロセッサのように機能させることができる。
「16ウェイサーバを、1台のベクトル型マシンとして稼動できる」とPower5の設計者Ravi Arimilliは述べている。
このようなシステムでは浮動小数点ユニットと呼ばれる演算エンジンが32基並列搭載されることになる。米国の各国立研究所のような最重要顧客からの需要が十分多ければ、IBMはさらに大規模なシステム構築に必要なソフトウェアツールを作成すると、Arimilliは述べた。
IBMは同社のViVA計画について沈黙を守ろうと努めている。同社の関係者はその詳細に関するコメントを差し控えた。また先ごろ開かれた広報イベントでは、Blue Gene/Lというスカラ型マシンの話題しか提供されなかった。このBlue Gene/Lは、スーパーコンピュータのスピードテストで世界最速記録を達成した、とIBMは主張している。
高性能コンピューティング市場を支配するHewlett-Packard(HP)とIBMは、現在スカラ型マシンしか販売していないが、CrayのX1やNECのSX-8などのベクトル型マシンもまだ販売されている。そしてNECのベクトル型システム、地球シミュレータは、IBMやSilicon Graphics(SGI)などの挑戦をよそに、最速スーパーコンピュータ上位500リストのトップに君臨し続けている。
IBMの計画はCrayの注意を引いたようだ。「IBMのViVAプロセッサが、本当のベクトル型プロセッサと激しく競合するものになるとは懸念していないが、これは確かに非常に良いアイディアだと思う」とX1のチーフアーキテクト、Steve Scottは述べている。「それでも複数のスカラ型プロセッサをまとめてベクトル型プロセッサとして機能させる方法では、真のベクトル型プロセッサほどの効率を達成することはできない」(Scott)
しかしViVA計画は前進し続けている。ViVA-2という第2世代プロセッサでは、Crayマシンで処理可能な全てのタスクを扱えるようになると、National Energy Research Scientific Computing Center(NERSC)のゼネラルマネージャ、Bill Kramerは述べている。NERSCの研究者らはIBMにViVAの追加を要求し、Blue Planetというプログラムを通じて開発に協力している。
「ViVA-2は、簡単にいうと、CPUのごく近くに演算アクセラレータを配置したものだ」とKramerは説明している。NERSCでは2007年にPower6+とViVA-2を搭載するマシン、LCS-2を導入する計画だが、このマシンでは1秒間に50兆回の演算が可能だという。
ハイエンドコンピューティング分野での現在のトレンドは、何十〜何千台ものスカラ型コンピュータを接続して1つの巨大クラスタにするというものだ。ただし、このアプローチは一部のタスクには適しているものの、ベクトル型マシンのほうが依然優れている分野もあると、IDCのアナリストChris Willardは述べている。
「ベクトル型マシンには、プログラミングが簡単だという利点がある」とWillardはいう。またベクトル型マシンは、行列計算--「技術コンピューティングの多くでは基本的な演算だ」--が含まれる数学演算に優れている。
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