ソウル発--消費者向けの製品開発という面からいうと、この国には希有な特質がある。それは「のぞき見」の文化だ。
高層ビルが林立する韓国の首都ソウルは、全国民4800万人のうち1300万人が暮らす人口過密地帯だ。ソウル市民は常に、隣人や周りの通勤客の持ち物に目を光らせている。IT製品の開発者にとって、韓国はいわば天然のフォーカスグループだ。人々の買換サイクルは短く、市内は新製品であふれている。
「携帯電話を忘れて外出しようものなら、内臓か手足でも残してきた気分になる」と、Qualcomm Internet Services KoreaのバイスプレジデントMoon Suh Parkはいう。「手つかずの市場があるとすれば、幼稚園か小学一年生くらいのものだろう」(Park)
韓国がデジタル革命の最前線に食い込むことができたのは、国民の技術受容性の高さに加えて、中央政府の積極政策、輸出志向の国内産業、そしてブロードバンドの普及によるところが大きい。多くの国がその運命をPC産業に託すなか、韓国は家電産業をてこに技術大国にのし上がろうとしている。
Samsungは一介の部品供給業者、委託生産会社から、家電市場のブランド企業に姿を変えた。ライバルのLG Electronicsと、Hyundaiのエレクトロニクス部門から独立したPantechもそのあとに続こうとしている。
韓国の技術革命はビジネスの世界だけでなく、政治腐敗や企業汚職、教師の体罰といった幅広い社会問題にも大きな影響を与えた。アジアには言論統制の歴史を持つ国が少なくないが、韓国の大手ブログサービス「Cyworld」の人気からも分かる通り、インターネット上では自由なコミュニケーションや発言の機会が着実に増えている(Cyworldの会員数は韓国人口のおよそ8分の1に及ぶ)。
新技術の普及をさらに後押ししたのが、全国に敷設されたブロードバンドインフラだ。韓国では高速インターネット接続が人口の約71%に普及している。こうした先進的な環境のおかげで、韓国ではオンラインゲームをはじめ、冷蔵庫やオーブンなどの家電製品をネットワークに接続した未来的なデジタルホームなど、さまざまな事象が発展することになった。
韓国のKT Telecomは世界最大のWi-Fiネットワークを構築しており、公共アクセスポイント(いわゆる「ホットスポット」)の数は1万3000に及ぶ。同社のアシスタントバイスプレジデントWon-Sic Hahnによれば、年内にはこの数を2倍に増やす計画だという。
過去と現代が共存する昌慶宮の風景。背後に高層ビル群が見える。(写真:Michael Kanellos) |
「(韓国にとって)ワイヤレスは、かつての米国にとっての宇宙探査計画のようなものだ」とフリーのアナリストJohn Yunkerは指摘する。「誰もがこの計画を支持している--政府も、そして産業界も」
韓国が先端技術分野とブランド家電市場で頭角を現すようになったきっかけは、皮肉にも、韓国を襲った近代史上最悪の危機--アジア金融危機だった。1997年の危機は韓国経済を混乱の渦に叩き込み、株式市場は75%も下落し、失業率は6.8%に上昇した。
土曜の朝のソウル。街中をスモッグが覆う。(写真:Michael Kanellos) |
さらに悪いことに、韓国のコンピュータ/家電メーカー各社は、時給1ドルで労働力を供給できる中国に製造拠点の座を奪われようとしていた。ロシアと日本もさらに手強い競争相手になっていた。
当時の状況はきわめて深刻で、今もこの話が出ると、多くの韓国人は顔をこわばらせ、恐ろしげな調子で語り出す。しかし、この限りなく勝ち目のない闘いは、幾多の政治的、経済的困難を乗り越えてきたこの国を奮い立たせることになった。
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