カリフォルニア州バークレー発--インダストリアルデザインをよく見ると、自然界のさまざまな生き物が隠れている。熱帯を泳ぐハコフグをヒントに開発されたMercedes-Benz、巻き貝を模倣したPC用ファン、蟻塚の構造を持つビルなど、たくさん見つかる。
しかし、これらは遊び心から生まれたものではない。「バイオミミクリー」。科学者は、自然からインスピレーションを得て創り出されたデザインをこのように呼ぶ。バイオミミクリーはまだ一般に広く知られてはいないが、企業や大学の研究開発部門において現在急速に成長している分野である。この背景には、バイオミミクリーが廃棄物の削減と持続可能性の向上を実現し、地球のエネルギー問題の解決を導くと信じる人々の存在がある。
2006年10月25日、カリフォルニア州立大学バークレー校でJanine Benyus氏の講演が開催された。バイオミミクリーに関する著書を持つBenyus氏は、この研究分野を、地球温暖化が生むさまざまな悪影響の特効薬だと考えている。サイエンスライターである同氏は、非営利機関Biomimicry Instituteを運営して、新しい製品や調査の可能性について企業向けコンサルティングを提供している。
Benyus氏はこの講演の中で、「生物のデザインに学ぶバイオミミクリーの世界は、今まさに萌芽のときを迎えている」と語った。「その理由の1つとして、人類以外が生み出すアイデアに耳を傾ける準備が、私たちにできたことがある」
例えば最近、洗剤メーカーのSeventh GenerationがBenyus氏を訪れ、自然界の洗浄作用について意見を求めたという。そこでは、ドイツの科学者Wilhelm Barthlott氏が発見した「Lotus Effect(蓮の葉効果)」が1つの回答となった。Barthlott氏の研究では、蓮の葉の微細な凹凸によって球状になった雨水が汚れとともに流れ落ち、葉の表面が清潔で乾燥した状態に保たれることが発見されている。この微細構造は、汚れの落ちやすい塗料や繊維の開発にヒントを与えることになった。
「洗剤メーカーとの話し合いでいつも苦労するのは、洗剤がいかに自然からかけ離れているかという事実を伝えることだ」とBenyus氏は語る。Benyus氏の最終的なアドバイスは、アイデアを見つけ出すことに固執せず、新しい視点で世界を見てはどうか、というものだった。
「自然界に対する私たちの捉え方がどう変わるか。ここにバイオミミクリーの本質がある」(Barthlott氏)
自然界がそうであるように、バイオミミクリーがもたらすアイデアには限りがなさそうだ。例えば、光合成の働きを応用した太陽電池、ヤモリの足にヒントを得た粘着力のある素材、スナガニの動きを模倣した捜索救助用掘削ロボットなどがある。2005年、DaimlerChryslerはハコフグから着想を得たコンセプトカーを発表した。箱型の車体はきわめて空気抵抗が低いため低燃費を実現できる。
マサチューセッツ工科大学、カリフォルニア州立大学バークレー校、ニューメキシコ大学に所属する多数の研究者たちも、バイオミミクリーのコンセプトを活用することに積極的だ。例えば、カリフォルニア州立大学バークレー校では、Ciber(Center for Interdisciplinary Bioinspiration in Education and Research)の創立をBenyus氏の講演以前に発表している。
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