消費者を味方に付ける「コミュニティメディア」の条件とは - (page 2)

インタビュー:島田昇(編集部)、文:松島拡2007年04月18日 20時25分

 村上氏は入社当時、グルメサイト業界の現状について、こう分析していた。

 「グルメは、口コミという主観的評価が大きな力を持つため、CGMの特性に最も適合するジャンルの一つです。にもかかわらず、当時のグルメサイトは、広告主との兼ね合いからレビューの信頼性を低下させてしまっていたり、普段の生活圏で利用できる情報が少なかったりと、ユーザーにとって真に役立つものではありませんでした。だから、たとえ後発でも、ユーザーの要望に応えるサービスさえ提供できれば、十分にチャンスがあると思ったんです」

 そうした点を踏まえ、両氏はまず、「いかに多くのユーザーを呼び込むのか」という点に全力を注ぐ。「人に役立つサービスを提供できれば、儲けは自然とついてくる」という創業者の槙野光昭氏から続く“価格.comスピリッツ”を、「食べログ.com」も継承していたわけだ。

 「サイトを開始するには、まずはコンテンツが集まらないと話になりません。だからまず、レビュアーにとって居心地のいいサイト作りを優先し、店を探したいユーザー向けの機能を提供するのは後回しにしました」(村上氏)

 機能改善掲示板に書き込まれるユーザーからの要望への対応と、サービスのバージョンアップの速度を最大限に上げることで、まずはユーザーの関心をつなぎ止めることに集中。また、メディアとしての中立性を確保するため、店側からの書き込み削除依頼には基本的に応じない一方で、レビュアーに対しても、より細かな評価理由の提示を求めた。

 そうした方針が、ユーザーの信頼獲得につながったことは、他サイトのレビュアーたちが続々と「食べログ.com」に活動拠点を移してきたことからも明らかだ。コンテンツが充実してきた頃合いを見計らい、今度は店を探したいユーザーのための機能強化に注力する。「食べログ.com」の急激な成長は、そうした基本戦略が奏功した結果なのである。

 提供するサービスについても、既存のグルメサイトに欠けていて、なおかつユーザーの要望が多いものに着目した。

 「私は技術畑の人間ですが、どちらかといえば、技術を追い求めるよりも、いかにユーザーに便利なサービスを提供するかに主眼を置いていました。そこでまず、文字情報だけで店の雰囲気やメニューをイメージしづらい点など、既存のグルメサイトのサービスの不足点を洗い上げました」(宮島氏)

 その上で、具体的なサービスとして、1レストランにつき30枚まで写真を掲載できる機能や、グーグルマップのAPIを利用し、地図から店を探せる機能などを設置した。さらに、レビュアーの書き込みをこれまでのレビュー本数、ユーザーの参照回数などのメタデータによって採点する複雑なロジックを導入することで、「『食べログ.com』で3.8点以上の店なら絶対満足できる」というレベルまでこぎ着けた。

 ただ、グルメサイト全般ということであれば、「ぐるナビ」の背中はまだ遠く、グルメ分野を取り扱う大手ポータルサイトの存在や、すでに巨大なコミュニティを形成している「mixi」などがこの分野を大きくテコ入れしてくるという局面も想定できる。課題が多いのも実情だろう。今後もこれまでの急成長を維持し、最大手のグルメサイトの座を奪うことはできるのか──。

 「今年6月までに、裏側のシステムすべてを書き換える予定です。また、店側が情報発信できるプラットフォームを作り、レビュアーとのコミュニケーションを図れる場を提供したいと思っています。もし、店が“『食べログ.com』ユーザーしか知らない裏メニュー”のようなものを出してくれるようになれば、ウチしか提供できない新しいサービスになります。 クーポンで1000円引き、という従来のサービスと比べ、店側のメリットも大きいはずです」(宮島氏)

 4月2日からはペンタックスの協賛で、モニターカメラを配布したレビュアーの特集ページを設置するという新たな取り組みも開始した。少しずつ店舗や企業の存在も意識し始めた一方で、これまでのように、消費者側に重心を置いた新サービスを間断なく投入するという基本姿勢に変わりはない。

 「今後も、ある程度不完全な形であっても、ユーザーの求めるサービスを次々にリリースします。ユーザーからの要望は途絶えることがありませんから、『食べログ.com』はいつまでも完成しない、“永遠のβ版サイト”であり続けるでしょう」(村上氏)

 グルメサイト最大手を目指した道のりで何よりも重要なことは、競合サイトの動向や企業側の要望の左右されずに、消費者の声を受け入れ続けることのできる“信頼のできるグルメコミュニティ”であり続けられることなのだろう。

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