コミュニケーションはシックス・アパートの企業文化でもある。
関氏はマーケティングを例に出して次のように語る。「マーケティング全般にいえると思うんですが、メッセージを発信するときには、どういうふうに受け止められるか、なにをゴールとするか、といったことを重視すべきだと思います。だから“メッセージ能力”と呼ばずに“コミュニケーション能力”と呼んでいるわけで、受け取り手としてどう思うのか、受け取った側はどう返すのか、発信側がきちんと感じ取ることが必要になっています。一世代前なら一方的に宣伝を打って、レスはない、もしくはあっても非常に間接的。それに対していま我々も広報ブログがありますが、メッセージを出したらフィードバックがすぐに返ってくる。そういう意識の中で自分たちのメッセージを伝えていくのが我々の会社のDNAとしてあると思います」
このようなDNAを象徴する出来事が、2004年のMovable Type 3のリリース時に起きた。当時、米国法人は20人、日本法人は10人くらいの規模だった。Movable Type 2からMovable Type 3へのメジャーバージョンアップにあわせてソフトウェアのライセンスと価格を設定し、それを創業者のMena Trott氏がブログでアナウンスしたところ、トラックバックが1000以上つく騒ぎとなった。だが、Mena Trott氏はこれにすべて目を通し、最終的にフィードバックの内容を踏まえてライセンスと価格の内容を変更することを決定した。もちろん、そのアイデアはユーザーから広く募集した。これがシックス・アパートのDNAが生まれた瞬間ではないかと関氏は言う。
シックス・アパートの拠点は世界に3カ所、サンフランシスコ、パリ、東京にある。もちろん東京もサンフランシスコに並ぶ開発拠点だ。
米国法人と日本法人の大きな違いは日本の方が平均年齢が高いことだという。日本では新卒を採用していないため、社内では20代後半が一番若い層で、ボリュームゾーンなのは30歳から33歳くらいだ。米国はこれより若い。10代の社員がいたり、若いエンジニアになると20代前半がほとんどだったりするなど、ボリュームゾーンは20代後半だ。
「シックス・アパートにはある程度キャリアが固まっている人が多い感じがしますね。いまソフトウェアエンジニアをしている人は、次の職場でもソフトウェアエンジニアをするでしょう。日本の企業でエンジニアとして働いていると、いつかマネージャーをやらされることになりますよね。実際に多かったのは、『自分はコードを書いていたいのに人のマネージメントをしなければならない。そんなのは嫌だ』という声です。シックス・アパートに来ればコードを書き続けていられるので、年齢的には高めでもソフトウェアエンジニアとしてやっている人は多いですね。一線のプロであり続けたいという人が多いです」
冒頭にも紹介したとおり、シックス・アパートの来期の計画は主要3製品であるMovable Type、TypePad、Voxのメジャーバージョンアップだ。さきごろ売却したLive Journalのコア技術、例えば大規模なサーバ型サービスの運用、ノウハウなどを上記3製品に集約するほか、OpenIDやOpenSocialといったオープン規格を実装することで他社サービスとの連携も目指す。
シックス・アパートとオープンソース団体の関わりは深い。OpenIDは米国Six Apartが提唱企業となっており、OpenSocialの初期賛同者リストにもSix Apartは名を連ねていた。世界一多くのブログを作り出す手助けをしてきたSix Apartが、このようなオープン規格に協力することで何が生まれるのだろうか。
「ブログがある程度広まり、SNSもMySpaceやFacebookなど数え切れないほどのサービスが出てきている。そうなると、個々のサービスではなく、それぞれのサービス間をどうやって結びつけていくのか、サービスが複数ある状況を“1つのプラットフォーム”と捉えるようになってきた。このような考え方を“ソーシャルグラフ”と呼ぶが、そういったものにMovable TypeもTypePadもVoxもフィットしていくことになる」
ブログ、SNSを超えたソーシャルメディア同士が繋がっていく世界が近づいてきている。ソーシャルグラフを活用するための規格は、すでに具体的な仕様策定の段階に移ってきており、しかもそれらの議論はすべてオープンに行われている。そのため、他社との差別化やビジネスチャンスは実装の部分で生み出すしかない。2008年は実装するフェイズになると予想される。このようにブログやSNSを巡る環境が大きく変わりつつあるなか、どのような人材を求めているのか。
「ブログが出てきたときにいろいろな新しい考え方が出てきましたけど、いまは再び新しい発想が出てくる時期だと思う。そういったなかでブログというものがどう変われるのかを考えて製品を開発しているので、常に新しいアイデアを出したり、実際に何か作ってみたり、熱意を持った人たちにぜひ来ていただけたらなと思います」
関氏からこれまでの採用活動でもっとも熱意を感じた人の話を聞いた。「一人逸話として残っているのが、どのくらいMovable Typeが好きかと聞いたら、『Movable Typeをおかずにしてご飯が食べられます』と答えた人ですね。そういう人に支えられて会社も育ってきていると思います」
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