そんなElliot社が、サムスンの世代交代に関わる件で動きを起こしたのが2015年前半のこと。同年6月初旬には「物言う投資家のElliottがサムスンの李一族に宣戦布告」云々という見出しがついた記事がBloombergに出ていた。
サムスン財閥の2代目にあたる李健煕(イ・ゴンヒ、サムスン電子会長)は2014年5月に倒れていまも入院している。これをきっかけに、李一族は3代目への事業継承・世代交代に向けた動きを進めてきた。この事業継承をめぐる一連の動きの中でこれまでに最も注目を集めていたのが、2015年6月からしばらく続いていた同グループの第一毛織(Cheil Industries)とサムスン物産(Samsung C&T)との合併をめぐる騒動だ。
第一毛織は李一族とグループ企業が株式の過半数を保有し、よく「同グループの事実上の持ち株会社」と書かれている企業(製造業以外にゴルフ場やテーマパークの運営も手がけている)。そして、サムスン物産(英語名のSamsung C&Tなどから推測すると建設業と貿易業の会社らしい)のほうはサムスン電子の株式4.1%を保有する有力株主。この2社の合併を通じて、3代目の李副会長はグループの中核企業であるサムスン電子に対する支配力を確保しようとした。それに対して、Elliott社はC&T社の株式を取得すると、「(C&T社株主にとって)もっといい条件でないと合併は認められない」とし、いわゆる委任状争奪戦を始めた。
この合併をめぐる戦いは結局李一族側が勝利したが、C&T社株主総会での投票結果は合併賛成が69.5%に対して反対が30.5%(合併には3分の2の賛成が必要)と、李一族にとっては文字通り「薄氷を踏むような勝利」だったようだ。
そしてこの時にいわゆるキャスティング・ボートを握る存在として注目を集めていたのが、上記の引用中に出てくる国民年金公団(National Pension Service、NPS)。下記のWSJ記事によると、このNPSは「450兆ウォン(約44兆円)を運用する世界で4番目に大きな公的年金」だそうだ。
C&T社の投票結果を踏まえた下記のWSJ記事中には、主要株主の株式保有利率を示したグラフがあり、NPSが10.1%、サムスンSDI(バッテリなどを手がけるグループ企業)が7.4%、Elliot社が7.1%などとなっている。もしNPSが反対票を投じていたら両社の合併は実現していなかった。そんな可能性を示唆する数字といえよう。
なお、今回の聴聞会実施に先立って、11月下旬には韓国の検察当局がこのNPSとサムスン電子を同時に家宅捜索していた。また6日の聴聞会にはNPSの幹部も(呼び出されて)出席していた。サムスンとNPSとがワンセットで扱われていることがここからも伝わってくる。
第一毛織とサムスン物産との合併を巡る戦いでは期待した成果をあげられなかったElliot社だが、その後もサムスングループ=李一族に対する挑戦は諦めていなかったようで、10月初めには同グループに対してガバナンス(企業統治)に関する改革を要求、そして11月末にはサムスン側から一定の譲歩を引き出してもいたようだ。
Elliot社の最大の狙いとされるサムスン電子の分社化(持ち株会社と事業会社への分割)、事業会社の米株式市場への上場という要求に対する答えが出るのはしばらく先とあるが、この一件をめぐるサムスン=李一族とElliot社との今後のせめぎ合いに、大統領疑惑に絡む何らかの出来事が影響を及ぼすことがあるのかないのか。今後の展開に注目していきたい。
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