原発事故:一番のリスクはパニック状態に陥ること--専門家コメント

田中好伸 (編集部)2011年03月18日 17時07分

 英ニューキャッスル大学のMichael Reeks氏(機械・システム研究科教授)は東日本大震災による福島原発の炉心熔融(メルトダウン)の可能性について、「原子炉には多重の安全システムが組み込まれている。万が一、原子炉内の燃料が融けるようなことがあっても、放射性物質が環境中へ放出されることのないように原子炉は設計されている」と3月12日に米国原子力協会に向けて説明している。

 Reeks氏は続けて「炉心熔融の事態が生じても、もともとこれほど規模の大きい自然災害を想定して設計されていないので、放射性物質を中に封じ込めておくだけでも“成功”だと言える。原子力発電業界は今回の事故から学習し、将来的により安全な発電所を再設計するだろう」との見方を示している。

 福島原発については、英ポートスミス大学のJim Smith氏(地球環境科学研究科環境物理准教授)が3月15日の段階で「現時点で一番のリスクは、市民が原発事故に対してパニック状態に陥ることだ」とコメントしている。Smith氏は「放射線のリスクに集中することは重要だが、事故によるストレスやパニックが被曝と同程度、もしくはそれ以上に人々に悪影響を与えることが過去の経験から明らかになっている」と説明する。

「チェルノブイリ事故の後でさえ、発電所のすぐ周辺に住んでいた人たちを除くと、集団レベルでは健康に深刻な悪影響はあったが、個人へのリスクは極めて低いものだった。たとえチェルノブイリ事故と同規模の炉心熔融が起こっても、発電所のごく近辺を除く地域に住む人々への影響は小さいだろうと考えている」(Smith氏)

 これらのコメントは一般社団法人サイエンス・メディア・センター(SMC)に掲載されているレポートをまとめたものだ(現在ミラーサイトを展開中)。同団体は英国や豪州、ニュージーランド、カナダのSMCと連携して情報を発信している。3月18日には、豪州のSMCが収集した専門家のコメントを掲載している。

 1996~2002年の6年間英国の原子力産業界で働いていたという放射線物理学者のSteve Crossley氏は、福島原発の半径20kmまでの避難勧告について「原子力施設の緊急時の措置としては標準的対応」との見方を示している。「(3月16日午前の段階で)東京で観測されている放射線の量は全く気にする必要がない。健康には影響ない。東京の放射線レベルが上昇したとしても、世界には自然の放射線量がこれより高い地域がたくさんある」ともコメントしている。

 一方、豪州の放射線防護学会フェローのDon Higson氏は、「発電所の周辺に住んでいる20万人以上の避難は、予防対策として納得できる」としながらも、「市民を守るためにあらゆる手だてを尽くしているということを示したい政府による過剰な反応」とみる。

「政府が本当に避難の必要性を信じているかもしれませんが、いずれにせよ避難された方が早く家に帰られることを祈りましょう。避難した住民のみなさんはそれぞれたくさんの困難を抱えており、被曝について不必要な心配をさせられる場合ではありません」(Higson氏)

 Higson氏は福島第一原発の事故について「結果的に“原子力発電の安全性”を示したと理解されることになる」という見方も示している。「過去最悪な地震と津波により、40年ほど前に建てられた、この原子力発電所は大きな損傷を受けた。その結果、6つの原子炉の中の3つはもう使えないだろう」としながらも「それでも原子炉に損傷はないし、敷地外への放射性物質の放出も危険な水準に達しておらず、市民への大きなリスクはない」と説明している。

 またHigson氏は福島第一原発の問題については「(通常の電源供給がなくなった際に冷却システムに電源を供給するための)非常用ディーゼルが正常に起動したものの、津波によって浸水してしまった」ことだとしている。

「発電所は津波と地震に耐えうるように設計されているが、今回の津波は予想されていたものよりもはるかに大きいものだった。この停電が、原子炉の燃料コアの冷却に不具合を生じさせ、そして燃料の損傷(部分的な炉心熔融)の原因になったと考えられる」(Higson氏)

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