デジタル変革の処方箋

「デジタル変革」はバズワードで終わっていないか--変革をやり抜くための処方箋

村澤 典知(インテグレート)2016年09月26日 11時00分

 コンサルティング会社やシンクタンクの調査レポート、ITサービス会社のセミナーなど、どこにいっても、「デジタル変革(デジタルトランスフォーメ―ション)」という言葉を目にする機会が増えてきた。経営・ITの流行語大賞のようなものがあったら、「デジタル変革」は2016年の有力候補の1つだろう。

 しかしながら、その言葉をフックに語られている内容は、オンライン販売を強化する、アプリを開発する、MA(マーケティングオートメーション)やDMP(データマネジメントプラットフォーム)のツールを導入するなど、単発的な施策やツール導入の範囲に留まっている場合が多く、「変革」というにはやや大げさな感が否めない。

 「変革」とは、少なくとも、ツールを導入することではない。ダイエットで言えば、歩数計や体重計を手に入れたところで何も変わらない。日常の食生活や運動習慣、健康に対する認識なども根本的に見直されることで大きな変化が起こる。その意味では、デジタル変革は、個別の施策の追加ではなく、その背後にある業務プロセスや評価方法、意思決定の仕組み、価値観などを持続的、かつ大規模に変えることで初めて実現することができる。

手垢のついてきた、「変革」というフレーズ

 しかしながら、この「変革」は最近になって広まった言葉ではない。坂本龍馬の明治維新の時代とまでは言わないが、少なくとも、20世紀最高の経営者と言われている元GEのジャック・ウェルチ会長が「ナンバーワン、ナンバーツー戦略(シェアNo.1, 2の事業のみを残し、それ以外は撤退・売却する)」を掲げ、大規模なリストラを実行した1980年代頃から、日本企業のビジネスパーソンの間で「変革」は市民権を獲得している。

 そこから、IBMのガートナー、日産自動車のゴーン、アップルのスティーブ・ジョブズなど、スーパー経営者の成功物語と相まって、「変革」がいたるところで叫ばれるようになった。また、変革とほぼ同じような意味で、「改革」という言葉も使われている。業務改革、営業改革、物流改革、人事改革など、「改善」とは異なった、従来の延長戦ではない変化という意味で使われているようだが、あまりにも頻繁に使われるため、現場スタッフに、「変革」や「改革」の実現に必須の危機意識を醸成させることが難しくなってきている。

デジタル変革は必要か

 では、そもそも「デジタル変革」は必要なのか?Adtech(アドテク)やFintech(フィンテック)のような、新しいソリュ―ションやツールに注目を集めるための、マーケティング上のキャッチフレーズなのではないか?と思っている方も多いだろう。結論から言ってしまえば、「デジタル変革」は必要な概念だ。2000年代初頭のIT革命の勃興期とは異なり、今やすべての業種・企業にとってデジタル化は勝ち残っていく上で十分条件ではなく、必要条件になりつつある。

 また、多くの企業が、オンライン販売やアプリ開発、MAやDMPツールの導入のような単発でのデジタル施策を展開している昨今、デジタル化を競争優位性まで高めていくためには、これまで自社が培ってきた強みや資産を顧客視点で解釈した上で、何を提供してどのようにマネタイズするか、それを実現するために社内外の各組織はどのように連携・協業するか、その連携・協業を成功させるためには、どのような意思決定や評価基準、マインドが必要になるかなど、一歩も二歩も踏み込んだ包括的なデジタル化が必要とされている。

 例えば、世界最大の重電メーカーであるGEは、機器の販売と保守サービスを軸とした従来のビジネスモデルから、産業用機器から集めたビッグデータを分析して、機器が生み出す成果(アウトカム)を最大化する「デジタルサービス」をビジネスの主軸にした。航空機のエンジンで言えば、従来は故障を修理するサービスだったが、今ではセンサデータから航空機の飛行パターンを分析し、航空会社に対して「燃費効率を改善する飛行プラン」を提供している。

 このようなマネタイズの変更に合わせて、各事業部門に横串を刺す形でデジタル部門を編成し、デジタルサービス化を推進している。また、このデジタル化に合わせて、シリコンバレー企業が決まって実践する「リーンスタートアップ」や「デザイン思考」の方法論を30万人の全社員に学ばせ、組織文化も全面的に刷新した。

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