ベンチャー企業成長における人材・組織・ガバナンス戦略を斬る - (page 2)

M&Aとアライアンス、使い分けのポイント

荒巻:自律成長とM&Aのほかに、選択肢としては企業間の「アライアンス(提携)」も考えられるでしょう。特にハイテク系企業の場合、アライアンスをすれば株価が上がるが、買収を示唆すると株価が下がる--という傾向が顕著です。買収に対する過度な期待が、株式市場にはなくなってきたように思います。みなさんの会社では、M&Aとアライアンスを適応する分野をどう区別していますか。

堀:世界中の会社が目指しているのは、「プライマリなビジネスで顧客を集め、その人たちとビジネスをし続けて成功する」ということではないでしょうか。例えば鉄道会社なら、線路を引いて電車を走らせ、電車賃をもらうことでビジネスをしますよね。それだけで終わらず、中には線路沿いに街を作って人を住まわせることにより顧客を囲いこみ、スーパーやアミューズメント施設の提供などでセカンダリビジネスを行うところもあります。

 例えばこれをモバイル市場で考えた場合、弊社の場合、既に約1000万人もの顧客がいますから、「集客」ということに関してはどこかの会社を買収する必要はなく、提携で十分です。ただし、集まってきた人たちの囲い込みをする--あたかも街を作るような--仕掛けについて、既に求心力の高いものを持っている会社があれば、できるだけ提携ではなく「コア」として取り込みたいと考えます。

加藤:M&Aや自律成長に関してはどの企業も悩んでいるし、正解というものもないでしょうね。私が携わる会社のボードミーティングでも必ずといっていいくらい、M&Aの議論が交わされますよ。

 自分の経験からお話しさせてもらうと、私は「アセットディール」と「マネジメントディール」は分けるべきものだと考えます。アセットディールは、その会社がコアビジネスを行うにあたり、人的/技術的資産を早く手に入れないと競争に乗り遅れる危険がある際に推奨するパターン。その場合はアセットの内容を見て、安く買ってしまえばいいじゃないかと。基本的に相手側のマネジメントは気にかけず、自分たちの会社へ100%組み込むということです。

 マネジメントディールは、自分たちが将来実現したいビジョンに対し必要な領域のビジネスになるだろうことが予想されるが、現段階では提携でもいいと判断されるパターン。ビジネス領域そのものがまったく違う場合もあるので、買収側の企業もマネジメントリソースがないことが多い。仮に買収先のマネジメントがおぼつかない場合、相手側の経営者が辞めてしまえば非常に苦労することが目に見えていますから、相手側のマネジメント面を見極めることに注力します。しかしその場合、ほとんどは互いに一過言持っていることが多く、文化を融合させにくいという話になりがちです。結果的には買収にはならず、提携もしくは資本参加のようなパターンに終わる例が多い気がしています。

 従って、自社にとっての将来の成長点を買うようなマネジメント・ディールにおいては、いたずらに先方マネジメントおよび従業員を自社文化に統合しようとするのはあまり得策とは言えません。最低限事業の目指すべき方向性とビジョンが共有できるのであれば良しとしないと、M&Aという所定の目論見は達成されないと考えるべきでしょう。

M&Aにおいて留意すべきこととは

荒巻:では実際にM&Aを進めている経験から、「ここには気を付けた方がいい」という教訓があればぜひ教えてください。

堀:M&Aへと具体的に動きだすと、冷静さを失いがちですよね。これで連結売上も増える!グループ戦略も進めることができる!--というふうに。例えばブランド物のバッグを何百万円も出して買うという話を聞きますが、それはバッグ本来の価値に、その人の思い入れやマスコミが創り上げたブランドのバリューがプラスされ、オーバーバリューになっているケースも多いのではないでしょうか。

 家や車など、家族で使う大きなものを買う場合、事前に性能や価格などを一生懸命調べ、フェアバリューだと感じる物を買うでしょう。「買いたい」「いままでやれなかったことを実現したい」という気持ちの方が勝り、肝心な価値の見極めをないがしろにするM&Aにならないよう、注意が必要だと思います。

藤田:確かに派手さや話題性が先に立ち、買収案件を前にすると冷静さを失うことはありますね。また、買収後に買収元の経営者が離脱するのが前提となった案件は注意が必要だと思います。売るのが最大の目的の会社を買収すると、元の経営者がいなくなった後にノウハウがなくて苦労するケースが多々ありますから。

加藤:アセットディールの場合、経営者によく見られるのは、自社採用は非常に厳しい基準で採用しているにもかかわらず、買収先の人材を雇用するにあたってはポンと巨額をつぎこむケース。本当にそこまでの価値があるのかを見極めなければなりません。特に技術者を買うケースにおいては、M&Aの交渉プロセスにおいて見極められるのが先方マネジメント陣だけのことが多いので、交渉プロセスにおける技術者のインタビューやできない場合の瑕疵担保責任による技術者退職あるいは所定の能力に満たない場合の返済条項を入れ込むなどの工夫が必要でしょうね。

荒巻:ヘッドハンティングをやっている私が近頃よく頼まれるのが、企業の買収に当たって「企業を丸ごと買う/経営陣をヘッドハントする」場合のメリット・デメリット比較です。企業を買うのは大概の場合面倒ごとも背負い込むことになるので、経営陣とコミュニケーションをとれる状態であるのならば、人材だけをヘッドハントするという手段もあると言えるでしょう。

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