アップルを待ち受ける「成長の限界」 - (page 6)

文:Adrien Lamothe 翻訳校正:坂和敏(編集部)2006年05月02日 19時54分

 Appleは自社の立場を改善するために、少なくともiPodに関しては、具体的な行動を起こしている。年内には米国で販売される自動車の約半分のカーステレオにiPodを接続できるようになる。より多くの顧客に到達するために、小型モールなどにごく小規模な直営店を開く計画もある。金融関係者はAppleの利益率が下がることを心配するかもしれないが、Appleはコンピュータの価格を下げてもやっていけるだけの利幅を確保している。価格が下がれば、直営店を訪れる客は増えるだろう。問題は、Appleの新しいビジネスモデルの評価だ。この戦略は持続可能なものなのだろうか。

 最近のAppleのブランディング/小売戦略は、「Nike効果」を狙ったもののように思われる。長年、Nikeでは貧困地域の10代の若者が同社の高額スニーカーの主要な購買層となっている。この地域の顧客はNikeの運動靴に1足当たり最高200ドルを支払う。Appleはこの効果をiPodで再現することに成功したが、この戦略はコンピュータにも適用できるのだろうか。最近の動きとしてひとつ興味深いのは、iPodとメディアサーバを統合したいと考えるユーザーが増え、Mac Miniの売り上げが目に見えて伸びていることである。

 AppleはIBM/ソニー/東芝/Lenovoの挑戦に対して、どんな手を打つことができるのだろうか。まず、Cellが思っていたほど強力なプロセッサではない可能性がある。ありえない話ではない。コンピュータ業界では誇大広告は日常茶飯事であり、約束通りの機能を提供できなかった技術の例はいくらでもあるからだ。しかし、Cellが評判通りのものだった場合は、Appleは別のマイクロプロセッサ技術に目を向けなければならない。Unixの大きな利点のひとつは、異なるハードウェアアーキテクチャに容易に移植できることだ。Cellに対抗するためには、Appleは再度Mac OS Xを移行させなければならないかもしれない。

 Cellと似た技術に取り組んでいる企業はいくつかある。たとえば、Sun Microsystemsは8コアのマイクロプロセッサ「Niagara」(開発コード名)を開発している。NiagaraはCellに対抗できるプロセッサに成長するかもしれない。新興企業の中にも、高性能なマイクロプロセッサの開発に取り組んでいるところはある。Appleはこうした企業のひとつをパートナーに選ぶ必要があるかもしれない。そうなったとしても、Core Duoベースのシステムを放棄する必要はない。2つの製品ラインを提供すれば、ライトユーザーとヘビーユーザーの両方を満足させることができるからだ。ソニーとLenovoは、少なくともCell市場の見通しがはっきりするまでは、このやり方を採用するだろう。IBMがCellをAppleに供給する可能性もある。業界関係者の間では最近、IntelやAMDといった企業がIBMのCellアーキテクチャをコピーするのではないかという憶測も飛び交っている。このようなアプローチが実行可能かどうかは、法廷の判断を待たなければならないだろう。

 Mac OS XをApple以外のメーカーのハードウェアで動かせるようにするべきだという意見もある。これは興味深い戦略だ。この戦略の最大の利点はAppleの市場が飛躍的に拡大することである。マイナス点は利幅が大幅に縮小されること、星の数ほどもあるサードパーティ製ハードウェアをサポートしなければならないこと、同じOSを提供する低コストベンダーと競わなければならなくなることだ。そうなった場合、Appleの唯一の差別化要因はコンピュータの物理的なデザインとなる(「スノッブ効果」が機能する場所では有効な戦略だ)。Appleは1980年代半ばにもMac OSの移植を迫られ、これを拒否したことがある。今、同社はふたたび同じ立場に立たされている。最善策は何か。現在の戦略がうまくいかないなら、Mac OS Xを移植する意味はある。繰り返すが、Mac OS Xの大きな利点はそれを支えるUnixアーキテクチャにある。このアーキテクチャは別のプラットフォームに容易に移植できるので、サードパーティ製ハードウェアへの移植は難しいことではない。

 IBMにも課題とリスクはある。まず、発熱はこれからも問題となるかもしれない。Cellのプライマリコアは4GHzのPower 5だ。IBMは先進的な温度管理と物理的な強度の向上によって、この問題は解決されたと主張している。市場投入のタイミングやパートナーとの関係も重要だ。Linuxに対する訴訟も終わっていない。IBMはこの戦いに勝利したように見えるが、今後ソフトウェア特許をめぐって、さらに熾烈な戦いが生じる可能性もある(もっとも、特許訴訟はIBMに有利なものとなるだろう)。地政学的な問題がLenovoとのパートナーシップに暗雲を投じる可能性もある。このような潜在的なリスクはあるものの、概して言えば、IBMは他社がうらやむ立場にあると言っていいだろう。

 ソニーもいくつかの課題に直面している。PlayStation 3の製造コストは1台当たり800ドルとも、900ドルとも言われている。しかし、予定されている小売価格は約500ドルだ。このような戦略はゲーム機市場ではめずらしくない。メーカーはゲーム機本体を赤字覚悟の価格で売り、その後ゲームと関連製品の売り上げで損失を埋め、採算を取る。ソニーは先頃、PlayStation 3の発売を11月に延期することを発表した。この延期は、ソニーが採用しようとしているBlu-ray Discの著作権問題によるものだと考えられている。いずれにしても、年内にはCellを採用したデスクトップPCが登場するだろう。Cellがデビューを飾る場所として、IBMが白羽の矢を立てたのはブレードサーバであるようだ。

 コンピュータ業界にとって、2006年は非常に興味深い年となるだろう。デジタルエンターテインメントとメディアシステムの分野で、ソニーとAppleが衝突することは必至だ。今のところ、主導権はAppleが握っているが、ソニーは長期計画に乗りだそうとしている。業界のありようを根底から覆すような革新的なハードウェアとオープンソースソフトウェアが登場する可能性もある。Appleやその他の企業は、こうした未来の課題にどう対処するのだろうか。これは見物だ。いずれにせよ、消費者が利益を得ることは間違いない。

(この記事は米国時間2006年3月23日にO'Reilly Networkで公開されたものです−原文へ

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