補償金問題で揺れた「ダビング10」の開始が7月4日に決定、それに至った実情が著作権団体の関係者によって語られた。6月24日に開かれた、文化の重要性と私的録音録画補償金制度の必要性を訴える、著作権関連の89団体が共同で主催するイベント「CULTURE FIRST」で、緊急記者会見が行われた。
会見では、はじめに実演家著作隣接権センター(CPRA)運営委員の椎名和夫氏が、ダビング10開始に至るまでの経緯を説明した。著作権団体はダビング10開始の条件として、デジタル録音録画機器への課金を一歩も譲らない姿勢を見せていたが、6月19日に開かれた総務省の「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」でこれまでの主張を一転、受け入れる姿勢を示した。
「背景はどうであれ、これ以上突っ張り続けていても生産性はないと判断した。周りの迷惑を顧みず立場を貫いても誰もほめてくれない。今回の譲歩で、我々とメーカー側双方の“消費者重視”の考えを見比べてほしい」と話し、著作権団体側が今回示した譲歩の姿勢は“大人の対応”であったことを強調した。
しかし「譲歩は本旨ではない。我々としてはあくまで期日の提案をしたにすぎない」と、今回の結論が補償金問題の解決にはつながっていない点を改めて主張。6月20日の記者会見上で、渡海文部科学大臣がHDDレコーダーへ補償金を課金するとした“文化庁案”について「撤回したわけではない」と発言したことに対して「安堵した」と語り、今後の議論の方向性についてはメーカー側の出方次第であることを表明した。
著作権団体側は、6月に2度にわたり、補償金制度に対するメーカー側の見解を求め、電子技術産業協会(JEITA)に公開質問状を送付した。しかし、いずれも正式回答が得られていないという。
6月16日に送付した2回目の質問状は、文化庁案について「補償金を縮小するという意向が見られない」とするJEITAの主張に対し、「補償金制度によらずとも権利者の不利益を生じさせずに済むと思われる適法配信について、無許諾での私的複製が許される範囲から外すことが提案されており、この限りにおいては少なくとも補償金制度の相対的な縮小に値する」と指摘。JEITAがいかなる方向で縮小を求めているかを具体的に示すよう回答を求めた。このように、これまでの委員会の席上でJEITAが発言した内容の矛盾点などを挙げ、それに対する詳細な見解を7項目にわたって求める内容としている。
椎名氏は「JEITAからは2回の質問状において、いずれも『文化審議会で回答する』と返信があったが、今のところ直接の回答はない。次回開かれる小委員会ではぜひともJEITAの気持ちを聞いてみたい。補償金制度の見直しについてはこれまで2年にわたり続けてきたが、JEITAがこれ以上引き伸ばし続けるのなら、我々もいつまでもお人よしで待っているわけにはいかない」と、煮え切らない態度のJEITAへのいら立ちの感情をあらわにした。
会見には、日本音楽著作権協会(JASRAC)常務理事の菅原瑞夫氏も同席。菅原氏は「私的録音録画の問題は、メーカー側はもともと『コピーワンス』で対応しようとしていたところ、不具合があり、『ダビング10』を検討することになった。そもそもなぜこのように補償金の問題が議論されることになったのかを考えてほしい。不十分な制度自体そのものに問題があったのではないか?」と指摘した。
補償金に反発するメーカー側の「DRMによりコンテンツのコピーは管理されているので、課金は必要ない」とする主張に対しては、「ユーザーのコピーが完全に管理されるようになれば、私的複製の自由がなくなる。また、ユーザーが利用したコンテンツが把握され、プライバシー侵害にもつながる」(菅原氏)と分析する。
また補償金制度が撤廃されれば、現在の著作権サイクルでメーカーだけが一方的に利益を得られる、不平等な“フリーライド”につながることも懸念される。「知財立国を掲げる日本で、上場し、優れた機材を輸出するメーカーが単に『自分だけが利益を得ればいい』という考えでいいのか。そうなれば最終的に創造のサイクルが壊れ、社会が文化的に貧しいものになっていく。今回の結論が文化的損失につながればメーカーの責任は重大だ」と菅原氏は厳しく言及し、「次回の小委員会で文化庁案に対し、イエスかノーかをJEITAは明言してほしい」と語った。
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