いまから10年以上も前に、マイクロチップ回路の美しさを写真でとらえようとしていたMichael Davidsonは、トランジスタと配線のなかにある予想外のものを見つけた。それはウォーリーの似顔絵だった。
「逆さまに描かれていたため、最初に見つけたときは顔に気付かなかった」と、フロリダに住むこの細胞生物学の研究者は言う。
この極めて小さな細工を最初に見つけたとき、Davidsonはそれが内部解析を試みるリバースエンジニアリング防止のためにチップに加えられた円形のパターンではないかと考えた。しかし、もう一度調べたところ、あの見つけるのが大変な、子ども向けの本のキャラクターであることが分かった。
「それがある種の『イタズラ書き』であることに気付いた。そこで全体を調べ始めたところ、そのチップからダフィダックなどの各種キャラクターが見つかった」(Davidson)
これをきっかけに、Davidsonはマイクロチップ回路のなかに隠さた図柄を写真に撮り始めた。同氏が「Silicon Zoo」(半導体のジャングル)と呼ぶこのコレクションは、微少な自動車、恐竜、トリ、マンガのキャラクタ、結婚案内のデザインなど、現在100種類を超える写真が含まれている。
ウォーリーを見つけたことで、Davidsonや、そのほかの人々は、Hewlett-Packard(HP)のワークステーションやDigital EquipmentのVaxミニコンピュータを熱心に分解し始め、次々にキャラクターを見つけ出した。そして、Davidsonがこれらの写真をオンラインで公開すると、チップデザイナーたちが新しいサンプルを送ってきた。その多くは、答えを明らかにせず、Davidsonに作品を見つけさせようと挑戦するものだった。現在、同氏の手元には珍しい微少画像の描かれたチップが300種類以上もある。
ウォーリーの図柄の幅は、人毛の半径よりわずかに大きい程度だ。だが、作画意図や、高度なチップ製造技術によって進化し続ける微細化技術により、図柄の大きさにはかなりの幅がある。そして、これらを見つ出す難易度はその大きさに比例している。
「大小さまざまで、干し草の山の中から針を探すように難しいときもあれば、車を探すように簡単なときもある」(Davidson)
Davidsonはフロリダ州立大学で細胞生物学を研究しているが、顕微鏡メーカーのニコンやオリンパスと契約して、顕微鏡検査の教育用ウェブサイトも構築している。同氏は、ビールからビタミンCまで、あらゆる顕微鏡写真も所有している。
ICチップに描かれた図柄には、独特の美しさがある。たとえば、Davidsonにとって最も印象的だった画像の1つは、北欧の神話に出てくるトールという雷神で、これは約1ミリと比較的大きい正方形のイメージで、HP製チップの端に描かれていた。この絵は、「沈み加工」と呼ばれるチップのレイヤ間を接続する微少線を使い、点描で描かれている。
しかしDavidsonによると、このように奇抜な芸術作品が原因で、大問題が発生するケースもあるという。
「これが間違いなく禁止行為であることは多くのチップデザイナーから聞いている。これで職を失った設計者もいる」(Davidson)
現在、チップには大規模で厳しい検査が実施されており、企業の上層部に気付かれずにイタズラ書きを忍び込ませることは不可能だ。「チップにドッグバートを忍び込ませても必ず見つかる」(Davidson)
長い歴史をもつチップアート
チップアートには30年を超える歴史がある。Silicon Zooにある初期の有名な作品としては、1960年代後半から1970年代前半にかけて、Texas Instruments(TI)製チップに描かれた、帆船、アポロの月面着陸船、テレビシリーズ「Star Trek」のU.S.S. Enterprise号がある。
Davidsonの見解では、HPのエンジニアが最も多くのシリコンアート作品を生み出したという。
「彼らはだれが最も複雑な作品を製作できるかを競い合っていた」(Davidson)
反対に、Intelのマイクロチップからはほとんど作品が見つからない。「唯一見つかったのが、デュアルポートRAMコントローラに描かれたシェパードだ」と同氏は言う。
視覚面と技術面のごろ合わせで、このシェパードは2つの頭(2系統)を持った羊(RAM)を監視している。つまりこれは、2系統の通信チャネルを持つRAMを管理するチップを表している。
ただし、なかには芸術的でないものも混じっている。あるチップには、ありとあらゆる無意味な法的警告文が無数に書かれていた。また、DECが製造したVaxチップには、同チップの機能を探り出そうとするリバースエンジニアリングを想定し、「そう、盗用するなら最高の製品から盗みたまえ」という、「鉄のカーテン」の反対側に向けたロシア語のメッセージがあった。
通常、これらの作品はチップの本来の処理には影響しないが、例外もいくつかある。その1つが、HPのメモリコントローラチップに描かれたチーターだ。この動物の斑点を描く小さな金属の点が問題を引き起こした。
「この小さな斑点がはがれて回線がショートし、製造上の問題を引き起こしたが、これは許容できないことだ」(Davidson)
ほかにも、ダフィダックのイメージがチップの検証プロセスで問題を引き起こしたことがあった。Davidsonによると、このような問題を回避するため、一部のイメージには小さいアースが付いており、チップのほかの部分に電気的な問題を起こさないようになっているという。
チップアートを描くエンジニアはいまだに存在するが、その作品を見つけだすことはますます難しくなっている。電子パッケージ内部にチップを搭載するための新しい方法では、チップを裏表逆にする必要があることも多いが、こうすると回路が目に見えなくなり、パッケージを分解することがきわめて難しくなる。
「正方形のチップに切り出される前のウエハを手に入れなければ、それがあることはわからない。いったん切り出されてしまえば、それを再現することはほとんど不可能だ」(Davidson)
この記事は海外CNET Networks発のニュースを編集部が日本向けに編集したものです。海外CNET Networksの記事へ
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