デジタル家電にLinuxが採用されるケースが増えている。松下電器は7月1日、長年のライバルであったソニーなど8社と共同で、デジタル家電向けの組み込みLinuxに関する業界団体「CE Linuxフォーラム」を結成した。
なぜ松下電器はCE Linuxフォーラムを結成したのか。フォーラムではどのようなことを行っていくのだろうか。東京ビッグサイトで開催中の組込みシステム開発技術展において、松下電器産業 技監 コアソフト開発センター所長の南方郁夫氏がその答えを明らかにした。
南方氏はまず、現在デジタル家電が抱える問題点について説明する。ユビキタス社会に向けて家電にネットワーク機能が搭載される中で、問題となってきたのが開発コストの問題だ。家電に搭載されるアプリケーションが増大し、開発コストはどんどん大きくなっている。しかし、デジタルテレビやサーバ、携帯端末など、商品ごとに異なるプラットフォームを利用し、さらにそれぞれの独自のアプリケーションを開発しているのが現状だ。
松下電器産業 技監 コアソフト開発センター所長の南方郁夫氏 | |
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これでは、せっかく開発したアプリケーションを他の機器で再利用することができず、無駄が多くなってしまう。南方氏はパソコンやサーバのように、家電にも共通のプラットフォーム、アプリケーションが必要だと訴える。業界全体で共通のプラットフォームを利用することで、開発コストや開発期間を削減できるというのだ。そこで松下電器が注目したのがLinuxである。
南方氏はLinuxを採用するメリットとして、Linuxの機能が豊富なこと、Unixベースであるため開発者が多いこと、Linuxコミュニティによる質の高いソフトウェアがあることなどを挙げる。
OSは商品差別化の中心ではない
ただし、デジタル家電でLinuxを利用する際には、いくつか課題があると南方氏は指摘する。それは、リアルタイム性、メモリ消費量、消費電力、起動時間、信頼性の問題だ。
松下電器はこれらの問題を解決するため、2年ほど前からソニーと共同でLinuxの改良を進めていた。「OSは商品差別化の中心ではない。ここを共通化し、アプリケーションの部分で差別化を図る」(南方氏)。かつて宿敵とも言われた松下電器とソニーだが、2社が協力することでOSの開発コストを下げ、競争力を高める方針だ。
たとえば、メモリの消費量が多くなると、それだけ多くのメモリを搭載する必要があり、価格に直接反映される。サーバと異なり、携帯電話などでは1万円高くなるだけで大きく競争力を落としてしまう。松下電器では、カーネルを起動する際にROMからRAMにコピーして実行するのではなく、ROM上で直接実行するXIP(Execute in Place)を採用することで、この問題を解消した。XIPの採用により、起動時間の短縮化も図れたという。
また、現状のLinuxでは常に一定の電力が消費されているが、これをプログラムが動いていないときにはプロセッサを停止させたり、周波数や電圧を動作によってこまめに調節することで、バッテリーの駆動時間を強化した。現状のLinuxを利用した場合、携帯電話のバッテリー駆動時間は50時間程度だが、機能強化されたLinuxを利用することで駆動時間は200時間にまで延びたという。
ただし、ライバルである2社の間には、腹の探りあいもあったようだ。「技術協力は完全にカーネルに絞られていた」と南方氏は言う。しかしカーネルの部分の改良だけでは限界があり、周囲のライブラリなどでの協調も必要になっていた。それが今回CE Linuxフォーラムを立ち上げたひとつの要因になっていたようだ。
フォーラムがコードの開発を行うわけではない
松下電器がソニーなど8社と共同で結成したCE Linuxフォーラムでは、デジタル家電が求める仕様を検討・定義し、デジタル家電でのCE Linuxの適用を促進していく。現在はRequirementワーキンググループを発足し、松下電器とソニーが今まで共同開発してきた成果を基本として、要求の抽出を行っているという。今後はそこで得られた要求を分類し、分野ごとに技術検討を行うためのワーキンググループを結成するという。2004年には仕様書のバージョン1.0を公開する予定とのことだ。
南方氏はCE Linuxフォーラムについて、「フォーラムで行うのは仕様検討が中心で、フォーラムがコードの開発を行うわけではない」と説明する。実際の仕様書やコードの開発については、フォーラムの外ですでに開発されたものを集めたり、Linuxコミュニティの協力を仰ぐ考えだという。
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