10月4日に東京・帝国ホテルにて行われた国際シンポジウム「朝日地球会議2016」において、「AI×ビッグデータ×IoTが変える社会」と題したパネル討論が開催された。
人工知能(AI)が人間を超えるシンギュラリティ(技術的特異点)が、約20年後に来るとも言われている昨今、加速度的に進化する技術を使ってどんな社会を構築していけばいいのか、またAIやIoT(Internet of Things)が産業や社会に与えるインパクトを考えるという内容。登壇したのは東京大学大学院工学系研究科 特任准教授の松尾豊氏、オックスフォード大学工学部准教授 工学博士のマイケル・オズボーン氏、NTTデータ経営研究所 情報未来研究センター長 横浜国立大学大学院客員教授の萩原一平氏。コーディネーターは、朝日新聞編集委員の堀篭俊材氏が務めた。
オズボーン氏は、野村総合研究所と共同で、「日本の労働人口の49%はAIやロボットで代替可能になる」という報告書を2015年に発表し話題となった。実際にAIの進化によって仕事が奪われるといった懸念の声もある。そんなAIの進化をどのようにとらえているかが冒頭で語られた。
オズボーン氏はAIの機械学習でさまざまな発展が見られることに触れつつ、「人間は意思決定にたけているため、AIが仕事を奪う存在になりえるかと言われると、そんなことはない」という。もっともある裁判の判決において、食事や休憩を取ったあとに甘い判決が出され、時間が経過すると厳しい判決を出すという傾向のデータがあることに触れ「人間は判断力にたけてはいない。AIは判断を強固なものにする存在」と、とらえているという。
また、先の報告書のことにも触れ「代替するだけではなく、新しい仕事を生み出す。プラスの効果もある」と主張。データサイエンティストなどの新しい職種が生み出されていくほか、仕事の置き換えによって、より楽しめる仕事に専念できる状況もできてくるのではないかと語った。
松尾氏は、現在のAIがブームと呼べるほど話題を振りまいている現状について「期待感が先行しすぎている」と率直な心境をのべた。その一方で、ディープラーニングについては潜在的な可能性を秘めている技術だという。これによってできるようになることとして、大まかに「認識ができる」「作業が上達する」「言語の意味が理解できるようになる」ことを挙げた。特に、近年は急激に画像認識の精度が人間を超えるレベルにまで向上していることに触れ、この画像認識がベースとなり、作業の習熟によって上達することが可能になることや、言葉や文章を理解してイメージするといった発展にもつながっていくという。そしてこのことをそしてこれを「生物の目ができるということに近しい」と表現した。
「目があることによって、初めてまわりで何が起こっているかを上手に理解できるようになる。そして認識できるようになり、動きながら上達したり、いろんな概念をとらえるようになると、言葉の意味も理解できるようになる。生物は目ができたことによって大きく進化した。それと同じようなことがAI、ロボットで起きる」と説明する。
AIの認識が進化し“目を持った機械”が生まれるようになると、例えば医療現場におけるレントゲン写真などの診断をはじめ防犯目的の監視も対応できるようになる。店舗どで常連にあわせたサービスを提供したり、表情を読み取ってサービスを変えるといったことまで可能。また作業の上達といった領域まで発展すると、自動運転をはじめ介護や調理なども対応できるようになる。言葉の意味理解が進むとクリエイティブなこともできるようになるという。
松尾氏は、日本の課題のひとつになっている労働力不足を挙げ、そのなかの肉体労働について「認識能力が必要であるがゆえ、人間がやらざるを得ないからやっていること。だが、次第にロボットなどの機械が担うといったことが、技術的に可能となってくる」という。さらに産業の観点から見たときに、データを扱うといった情報分野においてグーグルやFacebookといった米国大手企業と真っ向勝負をしていくのは難しいという見方を示す。その一方で、“物を動かす”という領域である自動車や産業用ロボット、医療機器などは、もともと世界的に日本企業のシェアが高い。認識や作業の上達という能力を取り入れた製品を展開することによって、国内の労働力不足の解消とともに、世界のマーケットを獲得できるのではとの見方も示した。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス