日本アイ・ビーエム(IBM)は12月7日、大手企業とスタートアップの協業やインキュベーションを支援するプログラム「IBM BlueHub(ブルーハブ)」のデモデイを開催した。同社が双方のハブとなり、質疑応答システム「IBM Watson」やクラウドプラットフォーム「IBM Bluemix」などのソリューションを提供するプログラムだ。
デモデイでは、自動運転などで注目を集める「クルマ」領域をテーマに、6つのチームがアイデアを発表。各アイデアの創出や開発には、東京海上日動、ゼンリンデータコム、ソフトバンク、LINE、アルパイン、Agoop、アプトポッド、Planetway、Arbletの9社が協力した。ただアイデアを出すだけでなく、その後の事業化も検討するという。
審査員には、日本IBMのほか、日産自動車や本田技術研究所、経済産業省、Samurai Incubate、Draper Nexusなどが名を連ねたほか、IT系メディア「TechCrunch Japan」編集長の西村賢氏や、「THE BRIDGE」編集長の平野武士氏も加わった。審査は「新規性」「有効性」「オープンイノベーションの実現度」「収益性」「成長性」「事業の魅力度」の6つを基準とした。
6つのアイデアの中から最優秀賞に輝いたのは、生体データから疾患の予兆を検知して交通事故を未然に防ぐ、エスディーテックのサービス「sdtech」。昨今は高齢者による交通事故が問題となっているが、同社によればタクシードライバーや運送ドライバーなど、“プロ”の運転手による事故も増えているという。
運転手の死亡事故の10%は体調変化に起因するという調査結果もあるが、現状はそれを検知できるタイミングが、事前の健康診断で早すぎたり、疾患が発症した直後で遅すぎたりすると指摘。運転中にいかに体調変化の予兆を検知できるかが重要だと説明する。
そこで同社がPlanetway、Arbletと開発したのがsdtechだ。ドライバーの腕に、無圧迫の血圧測定ができるArbletのセンサデバイスを装着。心拍に異常が検知されると、エスディーテックの技術で通知され、オペレーターがドライバーに休憩などを促す仕組み。エストニア政府でも導入されているPlanetwayのセキュリティ技術を採用しているという。
今後は、IBMの運行管理システムなどを活用して、運送業者向けに同サービスを提供し、トラック1台あたり月額1000円の利用料を徴収する予定。将来的には一般ドライバーにもサービスを普及させたいとしている。
続いて、残る5つのアイデアを紹介しよう。
キューユーが発表したのは、洗車やオイル交換などの“カーケア”を、時間が空いている人に頼むことができる「Cuculus(ククラス)」。ユーザーはアプリで評価などを見ながらカーケアを依頼したい相手を選び、空港やホテルなど指定した場所でクルマを渡す。あとはショッピングなどを楽しみ、戻ればカーケアを終えたクルマを受け取れるという。
ビジネスモデルは、たとえば依頼主が2000円の料金を支払った場合、カーケアをしたユーザーは仲介料など500円が引かれた1500円を受け取れるイメージ。2016年12月に事前登録を開始し、2017年4月から名古屋でベータ版を提供予定。現在、大手保険会社との提携を進めているほか、IBM Watsonの自然言語解析を活用したクルーとクライアント間のチャットを開発予定だという。
WINフロンティアが発表したのは、ストレス時代の新たなクルマの楽しみ方を提案する「Cocololoナビゲーション」。同社では、スマホカメラに指先を当てて、皮ふの色変化から心拍のゆらぎを検出し、ユーザーのストレスを可視化するアプリ「COCOLOLO」を提供している。
Cocololoナビゲーションは、COCOLOLOとIBM Watson、ゼンリンの「いつもNAVI」を組み合わせたサービス。位置情報と連動して、“癒しスポット”や“癒しルート”をナビがレコメンドしてくれるほか、癒しスポットに着いたらアプリでリラックス度を測ることができる。IBM Watsonによって、近くの似ている癒しスポットを案内してくれる機能も備えるという。同社では、SDKライセンスの提供や、いつもNAVI向けのデータ販売、広告やプロモーションによってマネタイズするとしている。
スイッチスマイルが発表した「OTOKU DRIVE」は、LINEを使って運転者に店舗のクーポン情報などを送れる、IBM BluemixとBeaconを活用したプラットフォーム。たとえば、運転者がクルマに乗って「Aショッピングモールに行きたい」とOTOKU DRIVEのLINEアカウントに送ると、目的地までの走行時間と途中の店舗で得られるクーポン情報などを教えてくれる。
運転中に急ブレーキや急ハンドルをしたことも連動する車載機で検知して警告メッセージを出すほか、目的地周辺の駐車場の情報なども教えてくれる。運転終了後には、運転内容によって店舗で使えるクーポンなどが得られるという。同社では、レンタカーやカーシェアなどクルマを使ってほしい企業と、商業施設や自治体などサービスを利用してほしい企業を、OTOKU DRIVEによってつなぐクロスマーケティングを実現したいとしている。同日よりパートナー企業を募集し、2017年3月にベータ版をリリース予定。
ハタプロが発表したのは、通信SIMを搭載した小型のパーソナルガイドロボット「ZUKKU(ズック)」。IBM Watsonを搭載しており、位置情報やユーザーの趣味嗜好などを元に、外出先でアシスタントになってくれる。たとえば、利用者が「お腹がすいた」と話すと 、近隣でお勧めのレストランなどを教えて予約までしてくれる。また、事故など緊急時にはボタン1つで自動で通報してくれるなど、見守り機能も搭載している。端末価格は1万円以下とのこと。
ソフトバンクとパートナー契約を結び、2017年中に大手流通などで展開する予定であるほか、カー用品店大手のオートバックスとのパートナーシップも決まったとしている。このほか、アルパインとはシステムの共同開発などを検討中。また、東京海上日動とは地方創生での連携、ゼンリンデータコムとはデータ連携などについて協業検討中だという。
ZERO TO ONEが発表した「nori-na(ノリーナ)」は、ドライバーと同乗したい人をマッチングするライドシェアサービスで10月から提供している。ターゲットは、スポーツ観戦や音楽フェスに参加する人などで、IBM Watsonによって趣味嗜好の合う人同士の最適なマッチングを実現するという。
アプリを起動すると、サッカーの試合などのイベントが表示される。そのイベントを選ぶと、同じくその試合に行きたいユーザーの情報が表示されるため、顔写真や車種、走行ルートや過去のレビューなどから、相乗りしたい相手を選び承認されるとマッチングが成立する。ユーザー同士はチャット機能によって、現在地のやりとりなどができるという。
同社では、目的地が明確で、かつガソリン代や高速料金を“割り勘”にする場合のライドシェアは違法にはならないと説明。これに対し、審査員の経産省は、場合によっては「グレーゾーン解消制度」が適用できるため、必要であれば相談してほしいとコメントした。
なお、同日は審査員特別賞も設けられ、TechCrunch賞にはライドシェアの「nori-na」が、日産賞には事故を未然に防ぐ「sdtech」とガイドロボット「ZUKKU」が、Samurai Incubate賞にはカーケアを依頼できる「Cuculus」が選ばれた。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」