ガイドブックには載っていないけれど、地元民からの人気が高く、わざわざ遠方から買いに来る人もいる――そんな隠れた名店や商品は、どの地域にも1つはあるものだ。しかし、こうした店舗(小売事業者)は少人数で運営していたり、製造に時間をかけていたりすることも多く、なかなかECサービスを使って、他の地域にまで販路を拡大する余力がない店舗も少なくない。
アマゾンが2月1日に開始した「Amazonベンダーエクスプレス」は、こうした地方や小規模な店舗の課題を解決するかもしれない。同社が店舗から商品を買い取り、ECサイト「Amazon.co.jp」の商品の1つとして販売するサービスで、商品の保管から発送、さらには返品などのサポートを、24時間体制で請け負う。「Amazon プライム」会員向けの、お急ぎ便や当日お急ぎ便も対象になる。これにより、店舗は商品づくりに集中しながら、全国の消費者を相手に商売できるようになる。
これまでアマゾンでは、バイヤーを通して店舗と仕入先としての契約を結び、交渉によって価格などを決めて商品を卸していたため、店舗が販売を開始するまでには一定の期間を要していた。Amazonベンダーエクスプレスによって、店舗はバイヤーを介さずにオンラインのセルフサービスで仕入先として登録し、最短1日で卸取引が始められるようになる。またアマゾン側も、バイヤー経由では見つけることのできなかった、地方の隠れた人気商品などを取り扱えるようになる。
米国では2014年6月からサービスを提供しており、ドイツ、イギリスに続き、日本は4カ国目の展開国だ。同社シニア・テクニカルプログラムマネージャーの田丸知加氏は、米国の地方のとあるレストランのコックがお手製ジャムを販売したところ、州外からも注文が入るほどの人気商品になったというエピソードを紹介。ITやPCのスキルがなくても、アマゾンのプラットフォームを通じて、多くの人に商品を届けられるようになると強調する。
前述したとおり、Amazonベンダーエクスプレスは、アマゾンが商品の保管から発送、返品などのサポートを、一括で請け負うサービスだ。商品を売りたい店舗は、専用ページから、商品識別コードであるJANコードや銀行情報、商品画像などを登録してアカウントを作成する。
その後、現在販売している商品の定価とアマゾンでの販売希望価格、卸したい価格を入力する。アマゾンはビッグデータを活用して類似商品などから、仕入れ価格を算出。アマゾンの想定内の価格であれば、店舗が提示した価格が承諾される。想定した仕入れ価格よりも高ければ、その商品に合わせて低い仕入れ価格を提案。店舗が納得すれば価格が決まる。
初期登録の費用などはかからないが、Amazon.co.jpにおける新商品の場合、商品金額に応じて、Amazonのフルフィルメントセンター(倉庫)に1~3個のサンプルを無償で送る必要がある(価格が500~6000円であれば3個、6001~9000円であれば2個、9001円以上であれば1個)。サンプル数以上の注文が入れば、追加の納入依頼が発生する仕組みで、発送料はアマゾンの着払いとなっている。商品代金は、店舗が請求書を提出した3カ月後に卸売価格が支払われる。
当初、販売可能なカテゴリは、文房具・オフィス用品、楽器、ホーム、キッチン、AV&モバイル、カメラ、パソコン・周辺機器、大型家電、おもちゃ、スポーツグッズ、家庭用工具・修理用品、産業・研究開発用品、自動車部品、ペット、ベビー&マタニティ、ビューティー、ヘルスケア&パーソナルケア。
逆に販売できない商品は、書籍、CD、DVD、ビデオゲーム、ソフトウェアなどの商品、高圧ガス製品や原材料に危険物が含まれている商品、営業所管理者が必要な医療機器、お酒など。また、重量が30kg以上ある商品、最長の一辺の長さが95cmを超える大型商品、Amazonへの販売価格が500円以下もしくは5万円以上の商品も販売できない。
同社のライフ&レジャー事業本部 新規開発事業部 事業部長である中谷公三氏によれば、店舗による問い合わせは順調に増えており、すでにすべてのカテゴリで、Amazonベンダーエクスプレス経由の商品が販売されているそうだ。なお、通常商品と同じ扱いのため、ユーザーはその商品がAmazonベンダーエクスプレスで登録された商品かどうかは分からないようになっている。
「(アマゾンから)納入依頼がくるたびに倉庫に発送してもらうだけで済むので、これまでネット販売を想定されていなかったメーカーや小売事業者の方に、新たな機会を提供できる。アマゾンが販売からサポートまで手厚く支援するため、(店舗は)人出が足りなくても新しい商品を開発することにフォーカスできる。より多くの方に知っていただき、ご活用いただきたい」(中谷氏)。
ところで、アマゾンではすでに、店舗が自社の商品を販売できる「マーケットプレイス」を提供している。同社では、店舗の規模や業態、取り扱う商品の種類などによって、Amazonベンダーエクスプレスと使い分けてほしいとしている。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス