慶應義塾大学SFC研究所 プラットフォームデザイン・ラボが4月13日、電子書籍ビジネスの未来について議論するシンポジウムを開催した。登壇者だけでなく会場からもさまざまな論点が出され、電子書籍市場を育てるために検討すべき課題が明らかになった。
パネリストとして登壇したのは、慶應義塾大学メディアコミュニケーション研究所講師の河内孝氏、民主党・衆議院議員の岸本周平氏、自民党・参議院議員の世耕弘成氏、ジャーナリストの津田大介氏、慶應義塾大学メディア・デザイン研究科教授の中村伊知哉氏、弁護士の福井健策氏、ディスカヴァー・トゥエンティワン(ディスカヴァー21)取締役社長の干場弓子氏。
会場で最も大きな議論になったのは、電子書籍市場のプラットフォームを誰が握るのか、という点だ。国内で現在、急速に電子書籍への注目が集まっている背景には、AmazonやAppleがKindleやiPadなどの新たな電子書籍リーダをベースに、電子書籍の配信を一手に握ってしまうのではないかという懸念がある。また、Googleが著作者の許諾を得ないまま書籍をスキャンしてウェブ上で検索できるようにしようとした「ブック検索」の試みも、海外の大手企業に覇権を取られるという危機感を業界関係者に抱かせた。
自民党の世耕氏は政策的な立場から、「日本独自のプラットフォームは絶対に必要」と語る。「日本の産業として、プラットフォームや端末が(海外に)勝ってほしい。そして電子書籍がコンテンツ産業の振興につながってほしい」(世耕氏)。その布石として、麻生内閣時代に国立国会図書館に対し、1968年までの書籍や資料をデジタルデータ化するための補正予算をつけたと明らかにした。
「電子書籍をめぐる議論は、世界的にビジネスベースで進んでいる。しかし日本は図書館をベースとしてもいいのではないか。書籍データにDRMをかけつつみんなが共有できるようにするのが、日本型プラットフォームのあり方ではないか」(世耕氏)
図書館については、ベストセラーなどが数多く貸し出され、書籍の販売に影響を与えているという指摘もある。民主党の岸本氏は「図書館はもともと高くて普通の人では買えないような本や、売れていない本を置いて貸し出していた。しかしそれが今では、ベストセラーを数十冊仕入れて貸し出すようになってしまった」と指摘。ただし、一般の人が図書館で数カ月待ってでもベストセラーを図書館で借りる背景には、再販売価格維持制度(再販制度)により本の価格が下がらないことにも原因があると指摘し、再販制度がなくなることで「借りるために長く待つくらいなら3割引の本を買う、ということもあるのではないか」(岸本氏)とした。
また、電子書籍を配信する図書館が書店の経営を圧迫しないようにするための方策として、弁護士の福井氏は「在庫切れになるなどして、すでに市販されていない書籍のみを図書館が扱うのであれば、すみ分けはしやすいのではないか」と提言した。
慶應義塾大学の中村氏は「プラットフォームを作るのが日本企業や日本人である必要はない。ただ、国内に作ってほしいと思う。そのために、日本でビジネスをする魅力を高めるための税制が必要ではないか」と指摘した。また、ディスカヴァー21の干場氏も「Kindleで、ユーザーが購入した書籍データをAmazonが消してしまうということがあった。文化的資源がそれでいいのか。国家戦略として、日本語のものは日本で管理できるようなプラットフォームを作るべきではないか」と訴えた。
干場氏が代表を務めるディスカヴァー21は、国内出版社では珍しく、取次を通さずに書籍を直接書店に販売するというビジネスモデルを採っている。1985年創業と、比較的歴史も浅いため、「800冊ほどある既刊本のうち、電子化にふさわしいのは200冊くらい。過去の書籍の著作権処理もスムーズにでき、実験的なことにも小回りがきく」(干場氏)という。
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