WEBにおけるコミュニケーションには、何よりもストーリーが必要です。この場合のストーリーとは、相手の感情を動かすエピソードや仕組みを指します。
ソニーのビデオカメラ・ハンディカムの特設サイト「Cam with me」には、アクセスした人間が思わず参加して、心が動かされてしまうストーリーがありました。
それは、子供が赤ちゃんから大人に成長する過程をハンディカムで録画し、思い出を残す疑似体験ができるサイトです。
子供は女の子。赤ん坊のハイハイしてくるシーンから始まり、徐々に大きくなっていきます。RECのボタンを押せば、ビデオカメラが登場し、何げない日常の1コマを録画します。
娘は小学生から中学・高校生になっていき、最後は花嫁姿で背中を向けて去っていくというもの。各年代で録画されたシーンは、最後に編集され「エンディングムービー」として再生されます。
音楽とともにそれを見ると、何げない日常の積み重ねが思い出になり、ジーンとくる仕組みです。
録画チャンスが50回あるので、録画した箇所や回数によって「エンディングムービー」の内容も変わります。自分でやってみるとわかると思いますが、ついつい撮り残したシーンをもう一度確認したくなります。
このサイトは「泣ける!」ということで話題になり、ブログなどの口コミで一気に広まりました。
もちろん「子供の成長」という、人の心の琴線に触れやすいテーマであることは間違いありません。
しかし、ビデオカメラの世界では今までも同じテーマでの広告は数多くあった筈です。では、「Cam with me」は何が違ったのでしょう?
それは、サイトを見ている人間が、主人公として参加できるストーリーを作っているからです。子供が成長していくシーンのどこでRECボタンを押すのかを決めるのも自分、録画をストップするのも自分。
まさに、自分がビデオカメラを回している感覚を味わえるのです。そしてビデオカメラを回すという行為があるからこそ、自分が女の子の親になった気分になり、感情移入ができるのです。
単に、子供の成長が時系列で流れるだけの映像であれば、話題にはならなかったでしょう。このサイトが秀逸なのは、見ている人間が主人公になれるストーリーを組み立てたという点と、アクションを起こさせる仕組みを作った点。
これこそがまさにインタラクティブなコミュニケーションなのです。
もちろん「これを見てハンディカムを買おうとは思わない」「子育てのリアリティがない」「なぜ男の子版がないのか?」など、ネガティブな意見が書かれているブログもありますが、それもまた、口コミを広げていく要因になっています。
このように、優れたコミュニケーションには必ずストーリーがあります。あなたの会社のWEBコミュニケーションには、インタラクティブなストーリーがありますか?
◇ライタプロフィール
川上徹也(かわかみてつや)
広告代理店で営業局、クリエイティブ局を経て独立。フリーランスのコピーライターとして様々な企業の広告制作に携わる。また、広告の仕事と並行して、舞台脚本、ドラマシナリオ、ゲームソフト企画シナリオ、数多くのストーリーを創作する仕事にかかわる。近著に「仕事はストーリーで動かそう」(クロスメディア・ パブリッシング)。
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