これは、反逆の立場にあった者が王座に近づこうとしているのに、世間は意外に喜ばなかったというお話である。
Nikeはかつて権威に挑む人々すべてを擁護していたブランドだ。そのNikeが運動競技のサポーター役を引き受けるだけでは飽き足らず、「Just do it」の精神に理解がない国のマントをまとってしまったようである。
この話は涙で始まり、涙に終わるだろう。
美男子の110mハードルの選手、劉翔氏が突如、北京五輪の予選で棄権したことを受け、多くの中国人が涙に暮れた。
この光景は少し奇妙だった。劉選手は、レースの直前に荒々しい様子で鉄のドアを蹴っているのが目撃されたとの情報もある。そんな劉選手はレーストラックに立ったものの、足首がレースに耐えられないと急に宣言した。劉選手は苦痛の表情で足を引きずっていた。
そのすぐ後に、Nike内部の人間と名乗る者が、劉選手の突然の退場に同社が加担していると非難する投稿を、Yahooの掲示板に載せた。
Nikeは劉選手が勝てないと判断し、同選手に出場しないように言ったことを、この投稿は示唆している。Nikeにとっては、期待はずれのレース結果が出る方が、衝撃的な棄権を発表するよりも、投資に対する悪影響が大きかった、というのが理由だ。
実は、ライブスポーツの意思決定に度を越した影響力を持っているとNikeが非難されるのは、今回が初めてではない。
1998年フランスワールドカップ決勝戦でブラジル代表のRonaldo選手が、薬物の影響もあったのか、妙なほどおとなしく、完全に朦朧としながらプレーしたことがあった。その時は、ブラジルチームのスポンサーであるNikeの影響で、Ronaldo選手はフィールドに立たされているのか否かについて、少なからぬコメンテーターが議論した。
さて、NikeはこのYahooの投稿にどう反応したのか。無視したのか、あるいは、劉選手が故障してない方の足で片足跳びをしているPRキャンペーンを立ち上げたのか。いや、答えは意外なものだった。
「われわれはただちに、該当する政府当局にこの噂を流しはじめた者の捜索を求めた」とNikeの広報担当Charlie Brooks氏は述べた。
しばしの間、驚く時間を読者の皆さんに与えよう。
話を続けてもよいだろうか。
Nikeは、固定観念を打ち破り、驚きでいっぱいなブランドであることを自社の誇りにしている。その同社が驚くほど民主的でない中国政府に対し、このならず者を排除し、おそらくは真実を暴いて欲しいとでも求めたのだろう。
Brooks氏はThe Guardianに対し、「この件は言論の自由に関する議論ではない。単純に、投稿した人物を特定するのを支援してもらうということだ」と述べている。
この発言は、Nikeの、人物の身元に関する心当たりの有無を示唆している。また、これはNikeがいつ騒ぎを起こし、いつ何事もなかったかのように振舞うべきかを判断する理性を一時的に失っていることを示しているのかもしれない。
年老いた女性がハンドバッグを小さなティーンエイジャーに盗まれたのに、大きくてがっしりとした警察官に対して、犯人の「男」を見つけてくれと頼むような振る舞いから、Nikeは何を得ることができるのか?Nikeのこのたびの行動によって、問題は注目されるばかりだ。寝ているブログを起こさなければ、このちっぽけな陰謀説は真偽が定かでないまま、そっと忘れられたかもしれないのに。
もちろん、これがまったくの陰謀説でなかったとか、あるいは、この小さな噂が驚くほど大きな話に信憑性を与えてしまう恐れがあるのであれば、別の話だろう、。
この話は、ほんとうにNikeらしくないと感じる。考えてみてほしい。Michael Jordan選手、Tiger Woods選手、Spike Leeさんや、往年のElvis Presleyさんの曲のリミックスのおかげで、多くの人々が称賛するブランドが、中国の「政府当局」と一緒に作業をしていることを。
同社は、最初に米Yahooの最高経営責任者(CEO)のJerry Yang氏に対し、このナンセンスなブロガーがどのようにウェブ上で行動しているかを調べてほしいといったのだろうか(この件に関する中国でのウェブ上の議論はすでに編集されている)。
そして、「政府当局」はこの話を投稿した人物に何をするのだろうか。
もしかして、スウェットショップでの奉仕労働だろうか。
この記事は海外CNET Networks発のニュースをシーネットネットワークスジャパン編集部が日本向けに編集したものです。海外CNET Networksの記事へ
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