自然災害や公衆衛生上の脅威が発生した場合に人道支援を行うことを目的とした、Google.orgの技術プロジェクト「Innovative Support to Emergencies, Diseases and Disaster(InSTEDD)」が、米国時間1月17日に立ち上げられる見込みだ。
非営利組織として運営されるInSTEDDが掲げる野心的な目標は、世界中のコミュニティを支援し、人々がウェブや通信技術を使って鳥インフルエンザなどの伝染病の大流行やハリケーン「カトリーナ」などの災害を把握したり他者に警告したりできるようにすることだ。ソーシャルソフトウェアの「Twitter」や「Facebook」などの技術が、救助の申し出を調整したり、人命救助を支援したりするために使用されると、InSTEDDのプレジデントで最高執行責任者(CEO)のEric Rasmussen氏は説明する。
米国国防長官事務所のアドバイザーを務めた経験もあるRasmussen氏は、TwitterとFacebookに言及し、「机の引き出しから緊急用の電話を引っ張り出して、というような話ではない。われわれは、人道支援の要請に対応する必要がある場合に、それに合わせて用途を変えられるような、ユビキタスなフリーソフトウェアを使うことを検討しているのだ」と語った。
Googleは、同社の慈善団体Google.orgを通じて、このプロジェクトに500万ドルを出資している。InSTEDDはまた、Rockefeller Foundationからも100万ドルの寄付を受けたほか、ベンチャーキャピタリストでGoogleにも出資しているJohn Doerr氏がかかわる基金からも数十万ドルの寄付を受けている。
InSTEDDの発案者は、Google.orgのエグゼクティブディレクターで、伝染病学者のLarry Brilliant氏だ。同氏は、およそ2年前の2006年にこのアイデアを思い付き、「Technology, Entertainment and Design(TED)」会議からTED賞を贈られた。TED賞の受賞者は、助成金を与えられるとともに、同会議のメンバーの協力により、世界を変えるような人道プロジェクトの「願い事」をかなえてもらえる。
受賞セレモニーのスピーチで、Brilliant氏は次のように述べている。「私がInSTEDD(TEDに引っかけた名称でもある)で構想しているのは、個人が必要とされる役割を果たし、技術や医療のスキル、組織運営のスキルなどを供出して、人道支援コミュニティが(公衆衛生上の脅威や災害の早期発見を)達成するのを支援することだ。そして、ゆくゆくは彼らが世界をより安全な場所に変えられるよう支援することだ」
Google.orgの支援を得て、InSTEDDプロジェクトは、2007年5月に非営利組織となった。しかし、正式に活動を開始したのは、Rasmussen氏が加わり、職員の雇用と支援団体への働きかけを開始した同年10月になってからだった。2008年の現在、9名の職員を抱えるInSTEDDは、1月17日にウェブサイトを立ち上げ、オープンソースソフトウェアの初期バージョンを公開して、ダウンロードとテストができるようにする予定だ。
そうしたアプリケーションの1つが、いわゆるTwitterボットフレームワークで、「Google Earth」のレイヤにリンクできる居場所検知機能によりWebサービスと電話の橋渡しをするだろう、とRasmussen氏は説明する。これにより、たとえばRasmussen氏は、ラオスで治療を受けられずにいる患者に関するメッセージを、携帯電話のショートメッセージサービス(SMS)を使って、携帯電話のアンテナ表示が1本しかないような場所からでも送信できるだろう。このメッセージは、Rasmussen氏のメッセージを購読しているUNICEFの救援隊員やカリフォルニア州パロアルトのInSTEDD本部の職員などに一斉に配信され、Google Earthの地図上にRasmussen氏の居場所とメッセージが表示されることになる。
「災害対策本部でSMSメッセージをGoogle Earthに送ることが可能だ。すると、色分けされた点が、私の名前や日付とともに表示される。そのすぐ下にはボタンがあり、返信をクリックして、必要な物資は今いる場所から2マイル(約3.2km)北にある(などというメモを支援ワーカーが送信できる)。アンテナが1本しか立っていない状態の携帯電話でも、双方向のやり取りがたちまちできるようになるだろう」とRasmussen氏は述べ、「私たちはこれを実現したのだ」と付け加えた。
このアプリケーションを利用すると、SMSを使って近くにいる友人を探すことも可能になる、とRasmussen氏は説明する。
InSTEDDのウェブサイトは、1月17日の公開時にブログと支援ワーカーの名簿も掲載する予定で、さまざまなスキルを持ったプロたちが登録し、定期的に自分の居場所を更新することができるようになる。これにより、災害が起きたときに、必要な人の居場所を簡単に探し出せるだろう。
Rasmussen氏によると、InSTEDDは各国と協力して、それぞれの現場でソフトウェアを利用する人たちに合わせてソフトウェアを開発するという。あるプロジェクトでは、東南アジアの5カ国がかかわっている。「われわれは最終的に、これをフリーのオープンソースソフトウェアとしてリリースするつもりだ」と、Rasmussen氏は語る。
InSTEDDが取り組んでいるもう1つのアプリケーションは、Facebookに手を加えたものだ。これを利用すると、災害時に支援ワーカーが近くにいるすべての連絡相手の場所を確認できるほか、人道支援コミュニティの「友だちの友だち」全員に連絡を取ることもできる。
「われわれが学んだのは、ソーシャルネットワーキングでは、レイヤを1つにしておけば(役に立つリソースを探す上で)頼りになるが、レイヤを2つにするとうまくいかない、ということだ」とRasmussen氏は説明した。
Rasmussen氏は付け加えて、「人道分野におけるソーシャルネットワーキングは、これから皆がよく目にするようなものになるだろう」と述べた。
この記事は海外CNET Networks発のニュースをシーネットネットワークスジャパン編集部が日本向けに編集したものです。海外CNET Networksの記事へ
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