コンテンツは“技術の力”で回り出す--東京コンテンツマーケット2006

 ブロードバンドが普及しつつある今、アニメやゲームといったコンテンツは、どのような形でユーザーに提供されていくのだろうか。また、コンテンツプロバイダーはどのようにビジネスを行うのか。

 アニメ、ゲーム、キャラクターなどのコンテンツベンチャー育成を目的として、中小企業基盤整備機構が10月27日、28日に開催した「東京コンテンツマーケット2006」。その中で、ハード、ソフト、ネットワークそしてエンターテインメントに造詣の深い4名によるシンポジウム「近未来技術がコンテンツ流通を変える」が行われた。

 パネラーはHDDレコーダー開発の第一人者である東芝デジタルメディアネットワーク デジタルAV事業部 DAV商品企画担当 グループ長の片岡秀夫氏、NTT 第三部門 プロデューサーの伊能(いよく)美和子氏、そしてPtoP技術をビジネスに応用することを目指すドリームポート 代表取締役 副社長の加藤弘幸氏。モデレーターは「日経エンタテイメント!」編集長の品田英雄氏が務めた。

東芝デジタルメディアネットワーク デジタルAV事業部 DAV商品企画担当 グループ長の片岡秀夫氏 東芝デジタルメディアネットワーク デジタルAV事業部 DAV商品企画担当 グループ長の片岡秀夫氏

 まずは片岡氏から次世代DVDであるHD DVDを搭載したHDDレコーダー「RD-A1」のプレゼンが行われた。片岡氏は2001年に世界初のHDD&DVDレコーダー「RD-2000」を世に送り出したが、RD-A1はHD DVDを搭載した民生用HD HDDレコーダーとしては第1号機となる。

 片岡氏はネットを経由して、ユーザーに人気番組の紹介をしたところ、番組の視聴率が上がったという事例を紹介した。

 RD-A1にはEPG(電子番組表)だけでなく、ネットと連動した番組推薦機能がある。全国のRDユーザーが予約している番組の人気度を集計する「予約ランキング」や過去の自分の予約履歴を元に番組を推薦する「あなたのおすすめ」、そして自分と好みが似ている人の予約履歴をもとに番組を推薦する「みんなからのおすすめ」だ。特定のテーマの番組だけを録画するユーザーに番組の推薦機能を告知をしたところ、番組の視聴率が20%以上増加する現象が起きたという。

NTT 第三部門 プロデューサーの伊能(いよく)美和子氏 NTT 第三部門 プロデューサーの伊能(いよく)美和子氏

 一方、伊能氏は、ネットワーク上でのコンテンツ配信の難しさと、それを解決するための技術について説明した。

 映像コンテンツの9割はテレビ放送用に作られているが、使用している音楽などを含め、二次利用についてのルールは考えられていなかった。そのため、コンテンツのDVD化やネットワーク配信をしようとすると、ゼロから権利関係を解決していかなければならず、極めて煩雑な作業が必要になるのだという。

 しかし、番組中で使用したBGMについて、波形サンプリングから曲目を自動特定するといった技術を利用することで、権利者団体への利用申請を支援し、コンテンツの二次利用が促進できると説明する。

 また、伊能氏は「今後、地方テレビ局の生き残りが大変な時代になる」として、「キー局による流通ではなく、ネットを使ってニーズのあるところに配信することで、使われずに放置されているコンテンツをお金にできないか」と、テレビコンテンツをネット配信するというビジネスの可能性もついて語った。

 そのほか、NTTでは音声データを劣化なく完全な形で圧縮・復元する「MPEG4-ALS」というロスレス・オーディオ圧縮符号化技術によって、高品質な音楽配信を実現することを目指す研究も進めているという。「これまでのネットは、いわば道路だけの高速道路。サービスエリアやパーキングエリア、インターチェンジを整備し、自転車などが入ってこないように環境を整えていきたい」(伊能氏)。

ドリームポート 代表取締役 副社長の加藤弘幸氏 ドリームポート 代表取締役 副社長の加藤弘幸氏

 Winny開発者である金子勇氏の弁護団長が取締役に、そして金子氏が開発顧問として参加している京都のベンチャー企業、ドリームポートの加藤氏はWinnyのPtoP技術を活用したコンテンツ配信システム「SkeedCast」のビジネス展開を紹介した。

 現在はほとんどの動画サイトがダウンロードではなくストリーミングで配信されていることを取り上げ、「ストリーミングでないと(コピーされるので)コンテンツホルダーのOKが出ない。しかしストリーミングだと画質が悪くて有料化できない」という悪循環に陥っていると述べる。同社が開発したSkeedCastでは、「不正コピーを防ぎながら高画質の動画を配信でき、さまざまなコンテンツの流通を促進できるだろう」と述べた。

 また加藤氏は、日本フェンシング協会からSkeedCastの利用に関するオファーがあったことを紹介。「フェンシングは熱心な競技者やファンが着いているが、テレビで試合を放映するだけのマーケットはない。SkeedCastを使えば、テレビと同じような品質で試合を全国に配信できる」(加藤氏)。ニッチコンテンツのビジネス化を考えた時、ネットでのコンテンツ配信が重要になるという。

日経エンタテイメント!編集長の品田英雄氏 日経エンタテイメント!編集長の品田英雄氏

 コンテンツを安全に流通する技術の可能性が提示される一方、クリエイターの環境についての変化についても語られた。ブロードバンド環境が整い、アニメーション作成のソフトも安価に手に入るようになってきたため、個人のクリエイターもプロ同様の作品を世に出せるようになってきている。

 品田氏はこうした状況をとらえて「これまではプロが感動を商品にしてきた。これからは自分が参加して面白いものを作る方向に変わってきている」と指摘している。シンポジウムの終わりに品田氏は会場に向けて、コンテンツの流通にはまだまだ課題が多いが、「新しい技術が出てくるのは面白い、日本のエンターテインメントを活性化していってほしい」(品田氏)と語っている。

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