ケータイとネットが生み出す「スマートモブズ(賢い群衆)」って何だ?

川崎 裕一 (ネットイヤーグループ/Jnutella.org)2003年08月29日 20時41分

 『バーチャル・リアリティ』、『バーチャル・コミュニティ』などの著作で有名なハワード・ラインゴールドが、最新の著作『スマートモブズ』日本語訳の翻訳出版を記念して、8月27日に六本木アカデミーヒルズにて講演を行った。

 スマートモブズとはネットワークでつながった新しいタイプの群衆のことだ。ラインゴールドによれば「人々は、ケータイやインターネット上でテキストをやり取りし、何か1つものを作り上げようと協力する活動が目立ってきている。この協調活動こそがスマートモブズ(Smart Mobs;賢い群衆)である」という。ネットワークは人々に協調する力を与えた。その力を使いこなすのが、スマートモブズというわけだ。

 スマートモブズが登場してきた背景を振り返ってみよう。デジタルメディアの歴史は、ユーザによるイノベーションの歴史でもある。ラインゴールドはMacintoshの登場を指して「1980年代、マイクロプロセッサーとCRTディスプレイがユーザによって組み合わされPCが誕生した。それまで大型汎用機器を作っていたIBMや富士通といった大企業からは、PCは生まれなかった」と指摘する。

 1990年代のインターネットの発展もユーザ主導のものだったが、現在進みつつあるモバイルやユビキタスなネットワーク環境も、ユーザ主導で進んでいるとラインゴールドは考えている。「電話、無線、インターネット、RFIDやSmartdustに代表される無線チップを用いることで、テクノロジーのユーザーは『モバイル&パーベイシブ』メディアを作ろうとしている。これは、自分たちが住む環境の中に様々なコンピューターパワーやリソースが存在している社会を示している」(ラインゴールド)

 モバイル&パーベイシブ・メディアの特徴は、人々の迅速な組織化だという。従来のデスクトップPC中心のインターネット環境と比較して、「モバイル&パーベイシブ・メディアでは、いつでもどこでも、常時接続環境でコミュニケーションを行えるインターネット端末であるケータイを使うことで、従来環境のユーザーが想像もできなかった全く新しい使い方が生まれている。その1つが組織化だ。人々がモバイルでネットワーク化されることにより、少人数でも大人数でも迅速に協調行動を取ることができる」とラインゴールドは述べている。

 「ユーザーは、いま協調行動を行うために様々なテクノロジーを持っている。その代表例がOSを共同して作り出すLinuxプロジェクトであり、ファイル共有のNapsterであり、コンピューターの処理能力を共有するSeti@homeやFolding@homeといったものである。また一方でモバイル環境を用いた、フラッシュモブ(Flash mob)に代表されるアドホックなユーザーのリアルな集団行動も生まれてきている」(ラインゴールド)

 フラッシュモブとは、ある場所に理由も無く集団で押しかけ、目的達成後に速やかに解散する群集行動を言う。たとえばホテルやデパートなどに集団で押しかけ、ある時間になると「わー」と叫んで一斉に解散する。この指示の多くは、電子メールを介して行われ、この指示書メールが不特定多数の人間にフォワードされたり、掲示板に張られたりすることでモブ(群集)が発生するというわけである。日本で一番近いイメージは2ちゃんねるを発端とした各種オフ会だろう。6月には映画『マトリックス・リローデッド』の登場人物の服装をして集まる「マトリックス・オフ」が渋谷を中心に各地で行われ話題を集めた。

 ラインゴールドが指摘するフラッシュモブの例は、マニラの政治デモ、韓国の大統領選、アメリカでのハワード・ディーンの選挙活動、ブラジル、シアトルのデモ等である。また、最近北米で発生した大規模な停電に関して、いち早く情報を伝えたのは、個人が積極的にテキストメッセージによって情報を集めた参加型ジャーナリズムであるテキストアメリカ.comだったが、これもフラッシュモブ現象だとラインゴールドは考えている。

 モバイル&パーベイシブ・メディア時代は、我々の情報収集や情報発信にどのような影響を与えるのだろうか。ラインゴールドが関心を持っているのは、人々が情報を能動的に受け入れるのか、それとも受動的に受け入れるのかということだ。

 今後、RFIDなどの無線通信機能を持つセンサーが環境の中に浸透し、増殖することで、人々は現実世界での行動とネットの世界でのそれとを、意図する/意図しないに関係なくリンクできるようになる。企業や政府は、これらの情報を使って人々を追跡し、消費活動を誘引したり、行動を管理しようとしたりする可能性がある。

 このような社会の変化に、人々はどう対応するのか。これまでの歴史と同じように、情報発信能力の獲得が積極的な情報発信と情報収集、ひいては積極的な行動につながっていくのか。それとも、企業や政府がコンピュータに仕込んだパーソナライゼーションなどのロジックに従ってものを買ったり行動したりするようになるのか。この点に関してラインゴールドは明言を避けた。

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