違法ファイル交換の横行するPtoPネットワークに対して厳しい目が向けられるなか、「身分をあかさずに音楽ファイルなどを共有したい」と考えるユーザーは今、難しい選択を迫られている。
KaZaAなど人気の高いPtoPネットワークでは、音楽ファイルなどのファイル交換がオンライン上で行われている。専門家は、「完全な匿名を希望する利用者は、PtoPの利便性とユーザビリティにおいて、大きな犠牲を払わなければならない」と警告する。
音楽業界の委託を受けて、PtoPネットワークを調査している米MediaDefenderプレジデントのRandy Saafは、「そもそも身分を隠蔽するようなシステムは存在しない」と語る。「コンテンツを共有する場合、リソースを他人に開放するリスクを負うことになる。大規模な公共ネットワークで利用者を匿名化するのは困難だ」(Saaf)
PtoPに吹きつける逆風も、ウェブ利用者が身分を隠そうとする原因になっている。米レコード協会(RIAA)は最近、著作権侵害行為を犯した個人を告訴する考えを明らかにしており、さらには米Verizon CommunicationsにKaZaAユーザーの身分開示を求めた裁判所命令を勝ち取っている。すでに、RIAAは4人の大学生を告訴しており、大学によっては不法なファイル交換を行った学生を処罰する事態になっている。
しかし、米Groksterのプレジデント、Wayne Rossoは、「RIAAの脅しは、今のところ影響はない」、と語る。「実際のところ、誰も気にかけちゃいない。Groksterのダウンロード数は増加しているし、トラフィックにも変化がない。大体、6000万人もいるユーザーを訴えるなんて、現実味がなさすぎる」(Rosso)
PtoPのファイル交換システムで身分を隠せない理由は簡単だ。PtoPネットワークは効率性を考慮して開発されたもので、匿名性を狙ったものではないからだ。IPアドレスで所在の明らかなパソコン同士をつないでファイルをやり取りするというPtoPの仕組みは、単なるファイル交換においては非情なまでに効率的だ。しかし、共有フォルダのコンテンツをブロードキャスト配信するとなると、身分開示による被害を受けやすく、ひいては裁判の対象になりかねない。
さらに、PtoPネットワークで使用するIPアドレスは、同じ番号は存在しない。またファイル転送はPtoP、つまりルーターなどの中継機を介さずに直接やりとりされる。このため、PtoPネットワークでは、IPアドレスを辿ることでISP、企業、大学などの利用場所を突き止めることができるのだ。
通常、著作権保有者はデジタルミレニアム著作権法(DMCA)に基づき、該当するIPアドレスが属するネットワークの企業や大学に召喚状を送付し、著作権侵害の疑いがある人物の身分開示を要求することができる。身元が判明した場合、著作権保有者は訴訟手続きまたは停止命令送付のいずれかを選択できるようになっている。
これまで、ウェブ閲覧や電子メールでプライバシーを保護するツールが出されていたものの、その大半は消費者から相手にされなかった。しかし、RIAAが個人を告訴する意向を示していることから、PtoPネットワークで匿名化を実現するツールが復活する可能性がある。
個人のプライバシーを完全に保護するソフトウェアが幅広く普及するとしたら、匿名技術への関心が急激に高まり、ネットの本質を大きく変えるかもしれない。
すでに一部の企業は、ファイル交換者に対する訴訟や刑事訴追を視野に入れたソフトウェアを提供し始めている。例えば、Blubsterと名付けられたPtoPサービスでは、「ユーザーが匿名のプライベートアカウントを利用できるネットワーク」をうたったソフトウェア最新版を先週発表している。
ただし、利用者が望み通り「PtoPネットワークで、痛手を被らずに匿名を名乗る」ことは難しそうだ。例えばBlubsterは、ファイル交換サービスへの接続に使用したIPアドレスそのものは隠さないので、調査をすれば身元が判明することになる。
RIAA広報担当者のJonathan Lamyは、PtoPネットワーク上で著作権侵害行為を調査する手段については言及を避けたものの、「Blubsterのようなサービスは、提供する会社が刑事責任を負うだけでなく、これを利用したユーザーも、民事責任に加えて刑事責任を問われることになる」と語っている。
身分を隠したいファイル交換者にとっては、八方塞がりに見えるが、方法が全くないわけではない。
専門家は、ファイルダウンロード時に合法的に匿名を名乗る方法として、「802.11 Wi-Fiの無償アクセスポイントを利用すること」を挙げている。このアクセスポイントではパスワードや加入手続きが不要なため、身分を明かすことなく無線ネットワークにアクセスできる。この結果、利用者の割り出しが困難になる仕組みだ。
無線アクセスポイントの数は増加の一途を辿っており、無線LANの標準規格である802.11は、より高速な802.11gがIEEE(米国電気電子学会)で標準として正式承認され、注目度がかなり高まっている。
Saafは「このような無償アクセスポイントを利用する方法は、確かに匿名化には有効だ」としたものの、「わざわざ自宅を出て、無線LANアクセスを提供している店舗にノートパソコンを持ち込なければならない。そんな面倒な手段は定着しないだろう」と付け加えている。
さらにSaafは、Wi-Fiを介したファイル交換活用が普及しすぎた場合、ワイヤレス事業者は著作権所持者から非難を浴びる可能性があると予測している。
ユーザーのIPアドレスを匿名化するファイル交換システムの1つに、Freenetがある。Freenetはファイルの提供者とダウンロード利用者双方の身元をわからないようにすることで、従来型PtoPネットワークからの脱却を図った。Freenetは、ほぼ検知不可能な暗号化手法を用いるため、利用者は自分のハードディスクに何のファイルを保存したかということすら分からない可能性がある。
Freenetの創立者のIan Clarkeによると、RIAAが個人をターゲットとした訴訟を起こしていることで、Freenetに対する関心が高まったという。「RIAAが訴訟に関する発表をして以来、Freenetのウェブトラフィック量が3倍に増加した。また、先週受け取った寄付金は2カ月前と比べて格段に多い」(Clarke)。
Freenetの短所は、検索が困難であることと、提供するコンテンツが比較的少ないことだ。Saafは、Freenetが競合ネットワークよりも魅力的なテクノロジーだと認めているが、実際の利用者が少ないことも指摘している。「Freenetの問題は現時点ではあまり使い勝手が良くないということだ。Freenetを利用している人は知り合いにいない」(Saaf)
また、RIAAのMatt Oppenheimは、Freenetの匿名性が音楽業界に与える影響は少ないと見ている。
プライバシー保護サイトの米Anonymizer.comの創立者兼社長であるLance Cottrellは、同社が個人情報匿名化サービス(年間利用料30ドル)を拡張しない理由の1つとして、PtoPネットワークが音楽業界から提訴される恐れがあることを挙げた。Cottrellは、「こちらが正しいか間違っているかにかかわらず、財源が豊かなRIAAの手にかかれば、商売はあがったりだ。勝訴か敗訴かの問題ではなく、訴訟を生き延びられるかが重要なのだ」と語っている。同社では、匿名のウェブ閲覧とダイアルアップ接続サービスのみ提供している。
1995年のMcIntyre対Ohio Elections Commission(オハイオ選挙委員会)事件で連邦最高裁判所が下した判決などによると、連邦法では特に政治演説で匿名言論の自由が保障されている。しかし裁判所は、ISP宛てのデジタルミレニアム著作権法(DMCA)の召喚状や、John Doe訴訟(当事者が氏名不明の訴訟)などを通じて、個人情報の公開を要請できることも認めている。
先週のAimster訴訟では、連邦控訴裁判所は「ファイル交換ネットワークはユーザーの違法行為を隠蔽しており、著作権法に抵触している可能性がある」と判断した。第7回巡回控訴裁判を担当した高名な経済学者兼法学者のRichard Posner判事は、次のように述べている。「Aimsterは暗号を提供することで、証拠検出を妨害した。Aimsterは、自らが加えた傷に対する責任を負わなければならない」
大手の著作権保持者が個人情報を保護するインターネットサービスを標的にし始めた場合、ちっぽけなISPは、一連の訴訟攻撃に持ちこたえられないかもしれない。プライバシー技術企業の米Zero-Knowledge Systemsは2001年10月、主力の匿名ネットワークのFreedomを閉鎖している。
電子プライバシー情報センター(EPIC)のセンター長、Marc Rotenbergは、RIAAのこれまでの訴訟を鑑みて、最悪の事態を予想している。「PtoPなどの技術は著作権保護の取り組みにとって邪魔な存在だ。RIAAのレーダー画面に匿名者が現れる限り、RIAAの弁護士は、憲法の解釈が何であろうと正面攻撃を仕掛けてくるだろう」(Rotenberg)
※CNET Japan編集部注
米国では普及していないが日本で開発されたPtoPファイル共有ソフトWinnyでは利用者同士が匿名でファイル交換が可能。Winnyでは通信経路とファイル自体が暗号化されるため、誰がどんなファイルを持っていて、何をダウンロードしているかが誰にも分からない。
この記事は海外CNET Networks発のニュースをCNET Japanが日本向けに編集したものです。
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