水面下で影響力を増すファイル共有アプリケーション

川崎 裕一 (ネットイヤーグループ/Jnutella.org)2003年06月18日 10時00分

 1999年にNapsterが登場して以来、違法なファイル交換を取り締まるためにコピープロテクションや法的規制、摘発、訴訟など、ファイル共有アプリケーションの発展を妨げるさまざまな取り組みが行われてきた。新聞報道など日本の大手マスコミの取り上げ方を見ても、ここ1年くらいで「ファイル交換」や「P2P」などのキーワードが登場する回数はすっかり減り、ファイル共有ネットワークの存在感は薄くなってしまった。

 しかし、こうした「表」の世界での報道に対して、インターネットの世界で進行している現実は大きく異なる。米国ではファイル共有ネットワークを使って収益モデルを作り出す企業が登場。日本でも匿名性と暗号化という高度な機能を持った次世代のファイル共有アプリケーションが登場し、利用者数もファイル交換の量も増加し続けている。

 大手マスコミでは報道されない、ファイル共有アプリケーションを取り巻く米国と日本の状況についてまとめた。

一向に衰える気配を見せないファイル共有アプリケーション

 ファイル共有アプリケーションネットワークの同時接続ユーザー数を追跡しているSlyckによれば、2003年6月2日現在、FastTrackというネットワークのユーザー数は411万人に達するという。他を見てもiMeshは138万2000人、eDonkeyは72万人、Overnetは18万3000人、DirectConnectは16万1000人、Pioletは13万6000人、Gnutellaは10万3000人、FileNavigatorは3万2000人、Filetopia は3000人のユーザーを獲得している。

 首位を走るFastTrackネットワークを利用するファイル共有アプリケーションであるKazaa Media Desktopは、CNETが運営するソフトウェアのダウンロードサイト「Download.com」で、2億3000万回以上のダウンロードを記録し、それまで累積ダウンロードで首位であったICQを抜き去った。

 これらのファイル共有アプリケーションで交換されているファイルのほとんどは違法なファイルだと見られている。

着実に収入モデルを構築するKazaa

 しかし、もう一方で注目すべきなのが、Kazaaを運営するSharman NetworksはKazaaというサービスを継続していくための資金を稼ぐ方策を着実に積み重ねているということだ。ここで重要となる企業がAltnetである。

 AltnetはSharman NetworksとBrilliant Digital Entertainmentの合弁企業。Altnetが行っている主要な業務は、Kazaa上でキーワードターゲット広告を提供することだ。キーワードターゲット広告は、従来のバナー型広告とは異なり、テキストベースの広告サービスで、ユーザが検索したキーワードにあわせて、通常の検索結果の周りに広告を表示することでユーザーが関心を寄せやすいものになっている。OvertureのスポンサードサーチやGoogleのアドワーズとほぼ同様の商品だ。

 また、Kazaaではコンテンツ企業の認可を受けたプロモーションファイルや有料ファイルを配信しており、これらは1カ月で2000万ダウンロードされている。

 このようにして得られた広告収入やプロモーション収入が、AltnetとSharman Networkの契約に応じて配分されるため、Kazaaはソフトウェアのバージョンアップを繰り返すことができ、持続可能なサービスとなっている。

 一部のメディアで言われているようにファイル共有アプリケーションを提供している企業ではビジネスモデルが描けていないというのは過った理解と言える。

日本発の革命的ファイル交換アプリケーションWinny

 ここまで米国の状況を見てきたが、日本では今まで紹介したものとは違う次世代のファイル共有アプリケーションが急速に広まりつつある。それがWinnyだ。

 Winnyが革新的なのは、利用者同士が匿名でファイルを共有できる点だ。Winny以前に人気のあったWinMXというアプリケーションでは中継に利用するサーバーやファイル交換の相手に自分のIPアドレスが分かる仕組みになっていたため、利用者の身元を追跡することが可能だった。実際2001年11月に京都府警がWinMXを使ってAdobe Photoshopなどの商用ソフトを他人がダウンロードでいるように公開していた男性2名を逮捕したことを皮切りに、日本国内で多くの逮捕者を出している。

 Winnyの場合は、通信経路とファイル自体が暗号化されるため、誰がどんなファイルを持っていて、何をダウンロードしているかが誰にも分からない。この点が、違法なファイル共有を前提にしているユーザーに指示され大きく人気を集めるようになった。

 Winnyは2002年5月に、2ちゃんねるの掲示板で開発を表明した「47」という人物(掲示板に書き込んだのが47人目だったのでそういう呼び名がついた)が、1カ月という短期間でソフトを公開し、瞬く間に広まった。新聞などの大手メディアやビジネス誌が正面から紹介することは少ないが、ネットユーザー向けに書かれた多くの書籍や、ウェブサイトがWinnyの利用法を紹介している。筆者が動向を観察してきた印象では昨年後半から急速に利用者数や流通するファイルの量が増加している。開発者の47氏によればWinnyを使ってインターネットに接続しているマシンは少なくとも10万台以上。世界でも8番目に大きなファイル共有ネットワークということになる。

 Winnyが急速に広まったもう1つの理由は、従来のファイル共有アプリケーションと比べて人気のあるファイルを簡単に手に入れられる点にある。

 例えばWinMXの場合、自分が欲しいファイルを手に入れるには、実際にそのファイルを持っている人のマシンに接続してダウンロードする仕組みになっていた。これだと、人気のあるファイルを持っている人のところにアクセスが集中するので、サイズの大きいファイルをダウンロードするのにすごく時間がかかったり、途中でダウンロード要求を拒否されて手に入らなかったりという問題があった。

 Winnyでは、各利用者のマシンに他の人のファイルが暗号化されてキャッシュされていくので、特定のマシンにアクセスが集中することもなく、短時間で人気のあるファイルを手に入れられるようになった。この結果、PhotoShopのような高額のビジネスソフトや、日本でまだ公開されていない劇場映画の海賊版ムービーファイルなどが広がりやすい土壌が出来上がり、ますます多くの利用者をひきつけるという循環が生まれている。

 ではWinnyは今後どうなるのだろうか。1つの方向として考えられるのが、KazaaとAltnetのケースのように合法的な広告収入のモデルを確立し、ブロードバンド時代の新しい広告メディアとして世界的なプラットフォームに成長することだ。違法なファイル共有や開発者が47氏しかいないことなど、持続可能なシステムに成長するためにはさまざまな課題はあるものの、ネットコミュニティ上だけでここまで成長してきた状況を考えると、その可能性は計り知れない。

川崎 裕一 ネットイヤーグループ テクニカルストラテジスト / Jnutella.org ファウンダー

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