IntelのCEO、Craig Barrettは使命感に燃えている。
機関投資家からレイオフを迫られても、Barrettはマイクロプロセッサ業界のリーダーの座を守るべく、研究開発への投資を続けた。その忍耐は報われたようだ。IT経済が徐々に勢いを取り戻しつつあるなか、Intelの第3四半期は予想を上回る好調な成績で幕を閉じた。
Barrettは10月21日に行われたGartner主催の業界カンファレンスに出席し、コンピューティング、通信、デジタルコンテンツの融合が業界復活の促進剤になるだろうと力強く語った。
Barrettの演説は行動を呼びかけるものでもあった。数学や科学が軽んじられている教育制度の是正こそ、ハイテク経済、そして米国が取り組むべき重要な課題だというのがBarrettの考えだ。また、国内の技術者人口を増やす施策として、工学部を卒業したばかりの外国人学生にはグリーンカード(永住ビザ)を与えることも提唱している。
Barrettによれば、ほとんどの国がハイテクを今後数年におけるもっとも重要な経済の牽引役と考えているのに対し、米国、特にIntelが本社を置くカリフォルニア州はハイテク業界を二流市民のように扱っているという。
国外の売上が伸びていることもあり、Intelは海外事業をこれまで以上に重視するようになっている。
CNET News.comはBarrettにインタビューを行い、グローバル経済、今後の開発計画、そしてIT投資の必要性について話を聞いた。
---Microsoft Windowsの次期バージョン「Longhorn」に向けてIntelが用意している新技術について教えてください。
Longhornの特徴の1つはセキュリティの向上です。この新OSに合わせて当社が開発を進めている技術や、その先にある技術の一部についてはお話をしたことがあると思います。我々はMicrosoftと同期をとる形で、新しいテクノロジーをユーザーに届けていきたいと考えています。
---LonghornはIntelの売上をどの程度押し上げるものになるのでしょうか。
難しい質問ですね。Longhornの発売は早くても2年後です。その間に何が起こるかは分かりません。
---質問の形を変えましょう。IntelがLonghornと同時に新しいチップを発表した場合、その性能はムーアの法則に従うと、どの程度のものになるのでしょうか。
クロックやサイクルの向上といった通常の改善点に加えて、様々なテクノロジーが導入されることになるでしょう。ワイヤレスの分野や(別々のタスクを同時にこなす)Vanderpoolのような仮想化の分野で、テクノロジーの統合が行われることも考えられます。ハイパースレッド技術の延長で、マルチコア化が進められるのはまちがいないでしょう。マルチコア化はハイレベルからデスクトップへ、段階的に行われるはずです。
---こうした変化が3年以内に実現するのですか。
そうですね、2年から5年といったところでしょうか。
---それだけのCPUパワーがあれば音声認識も可能になりますか。
そもそも、音声認識に十分なパワーというものがありえるのかどうか。Intelが初のデジタル信号処理機を発表した20年前から、音声認識は常に話題をふりまいてきました。しかし、「次は、来年こそは」といわれながら今に至っています。音声認識の研究が前進していることは間違いありません。様々なメモ機能が実現されていますし、当社会長のAndy Groveもこの技術のユーザーです。いいところまではいっているのです。ムーアの法則では、プロセッサの処理能力は約18カ月ごとに2倍になるといわれています。この計算でいくと、4年後にはこの種のデジタル信号処理を現在の4倍のパワーで実行できるようになるでしょう。
---Microsoftと歩みを同じくするということですが、2005年、2006年に実現予定のシステムに対して、Intelから最低要件を提示しているのですか。
ご存じの通り、当社はMicrosoftなどの企業と開発ロードマップを共有しています。ですから、ご指摘のようなベンチマークは提示しています。我々のような企業は、数年先を見据えて開発を行わなければなりません。設計から製品の出荷までに3年かかることもあります。
---PCのプロセッサをパーティションで分けることを可能にするVanderpool技術は、エンドユーザーにどんな影響をもたらすのでしょうか。
まず、1台のPCに複数のソフトウェア環境を構築できるようになります。1つのプロセッサで複数のOSを同時に動かすことができれば、様々な使い方が可能になる。これは市場競争力のあるモデルになるでしょう。たとえば、同時に2つのOSを走らせることができれば、1つのOSですべてを行う必要はありません。つまり、1台のPCにMac OSとLonghornをインストールし、仕事にはLonghornを、個人的な作業にはMac OSを使うといったことも可能になります。もちろん、まずはSteve Jobsにこのアイデアを気に入ってもらう必要がありますが。さらに重要なのは復旧能力の高さでしょう。この技術には様々な側面があるのです。
---Intelにとって、今後は消費者市場とビジネス市場のどちらが主力市場になるのでしょうか。
テーマは融合ですから、どちらの市場も重要です。
---Intelの顧客の中でも、IT企業の冷え込みはもっとも厳しいとか。この市場の需要をどう喚起していくつもりですか。
世界が、つまり競争的な環境が、企業にアップグレードを迫ることになるでしょう。国外へのアウトソース、ホワイトカラー職の減少、賃金格差、グローバル競争といった問題にも良い面はあります。米国はこれまで、世界のどの国よりもITに投資をしてきました。そのおかげで、米国経済は世界最高の生産性を手に入れた。この地位を維持するためには、投資を続ける必要があります。人々はそのことに気づきつつあります。4年前の技術と現在の技術のどちらを使いたいかを聞いてみるといいでしょう。
---企業は今、予算の相当部分をセキュリティに割く必要に迫られています。他の分野への投資が減る恐れはありませんか。
そうは思いません。セキュリティ投資は税金のようなものです。セキュリティはインフラであり、強固なインフラはメリットをもたらします。そのメリットは投資コストを上回るのか?私は上回ると思います。今は浮かないニュースばかりを耳にしますが、この問題はいずれ解決されます。ハードウェアメーカーはよりよいハードウェアを、Microsoftはよりよいソフトウェアを開発し、ユーザーは身を守る知恵を身につけるでしょう。セキュリティの分野はまだ幼年期にあります。未知の脆弱性があるからといって歩みを止めるのは短絡的ではないでしょうか。世界は決して止まりません。もちろん、企業には歩みを止める権利がある。しかし、そうすれば取り残されるだけです。
---「セキュリティ税」があまりにも高くなる可能性はありませんか。
Intelの社内システムは非常に均一的です。ハッカーにとっては、格好の標的といっていいでしょう。今のところ、Intelにとってセキュリティ対策は耐え難い負担とまではなっていません。確かに「税金」の元をとるほどの投資効果は得られていませんが、だからといって新しいテクノロジーを導入するのを止めようとは思わない。この状況に満足しているわけではもちろんありませんが、我々はまだ勉強中なのです。
---「Trusted Computing」プラットフォームが定着するのはいつ頃になりそうですか。
大方の予想よりも先になると思います。おそらく5年から10年はかかるでしょう。
---Intelはムーアの法則にしたがって次々と高性能のプロセッサを送り出していますが、600MHzのマシンで十分だという人もいます。
コンピューティング、通信、デジタルコンテンツの融合という現実を見据えた上で、600MHzで十分だというならそれもいいでしょう。しかし、私なら迷わず3.2GHzのPCを選びます。もし大容量コンテンツ、データマイニング、マルチタスクを扱う必要が出てくれば(それでも足りないでしょう)。
---通信業界の状況をどう思いますか。Intelとは切っても切れない関係にある業界です。
通信企業はあいかわらず2つの問題に苦しめられているように思います。1つは、通信コストを抑えるためにオープンなシステムを構築しようとする動き、そしてもう1つは競争的な環境です。競争には2つの種類があります---規則や規制に関するものと、有線事業者・無線事業者・ケーブル事業者の闘いです。ここにVoIP事業者を含めることもできるでしょう。通信企業は顧客単価の減少に備えて、新たな成長モデルを模索しています。新サービスを投入することは1つの方法ですが、それと同時に続々と参入してくる競合企業から中核事業を守らなければなりません。しかも政府は、構築したインフラは競合企業と共有しなければならないといっている。つまり、企業はある意味で進退窮まった状態にあるのです。
---それがIntelのビジネスを部分的に失速させる原因になっていると。
米国においてはそういえるでしょう。しかし、中国とインドの通信市場は猛烈な勢いで拡大しています。今、通信企業を苦しめているのは1990年代後半の過剰設備と投資です。コンピュータ部門のあとで通信部門が改善されるという経験則があるのはそのためです。
---Sun Microsystemsは生き残ることができるでしょうか。
デスクトップ市場で(SunのCEOである)Scott (McNealy)と似た立場にあるのがAppleです。SunとAppleはどちらも先進的なソフトウェア企業であり、ハードウェアの売上とマージンに大きく依存した収益構造を持っています。また、どちらもプロプライエタリなハードウェアを有しています。問題は、持続可能で成功可能なビジネスモデルは何か、ということです。2%の市場シェアで満足し、残りの98%をほかの企業に譲ってのんびりと構えているのが、これまでのAppleのビジネスモデルです。
Scottも同じ考えなのかどうかは分かりません。Sunは10四半期連続で減収を続けています。Itaniumやオープンな製品群との競争は激しさを増し、ハイエンド市場でも大型コンピュータメーカーの攻勢にあっています。つまり、ScottはAppleのようにソースを公開しないプロプライエタリな企業になるのか、あるいは別の道を選ぶのかという決断を迫られているのです。Sunは現在、ごく一部の製品にIntel製プロセッサを搭載しています。顧客はコスト効率の高いシステムでSolarisを走らせたいと考えています。当社はAppleと同様に、Sunに対してもIntel製チップの搭載を働きかけてきました。私はどちらに対しても、同じ姿勢で接しているつもりです。
---Sunは今でも価値あるパートナーといえますか。今後、Sunとの関係が深まる可能性は?
この点について、私は偏った見方をしています。SPRACはプロセッサ市場の長期プレーヤーにはならない、というのが私の考えです。長期プレーヤーになるためには、(McNealyは)製品マージンを引き下げて(Sun製品の)価格性能比を高める必要があります。我々は大型コンピュータ市場での競争を通して、Sunを上回る価格性能比を実現する方法を見出しました。Sunが苦戦を強いられているのはそのためです。Scottは製品マージンを思いきって縮小するか、それに代わる何らかの手を打つ必要があります。もっとも、Sunにはキャッシュがふんだんにあるので、取締役会がScottを支持している限り、これまでのやり方を続けることは可能かもしれません。
---AppleがIntel製プロセッサを採用することはありえますか。
我々は努力を続けていますが、率直にいって、この試みは年々おもしろみのないものになっています。Appleの市場シェアが10%だった頃は魅力的なアイデアでしたが、2%となると・・・。Intelの売上高は四半期ごとに2%ほど上下することがありますが、Appleの影響はその中に収まる程度でしかないということです。もちろん、興味深い点もあるのですが。Steve (Jobs)はIntelのシェアを奪おうとしています。Mac OSをAppleマシンから切り離し、98%の市場に挑戦するという選択肢はないのかと疑問に思う人もあるかもしれませんが、Steveがそれを選ぶことはありません。
OS XのカーネルはIntelでも問題なく動きます。問題は、その上に乗るアプリケーション群です。この点については、Steveと話をしてもらった方がいいでしょう。我々は両社に対して、Intel製チップの搭載を働きかけていくだけです。
---Intelのマーケティング戦略のなかにはAppleと重なるものもありますね。Centrinoを軸とした消費者戦略はその1つです。
Centrinoについては、ユーザーがこの技術の革新性をフルに享受できるよう最大限に努力しています。幅広い製品と互換性を確保することもその1つです。市場はユーザー自身がプロトコルを意識する時代から、最良の接続が自動的に選択されるスマートシステムの時代に移行しつつあります。Centrinoもその方向へ向かうことになるでしょう。
---将来的にはそれが、Intelベースのシステムの特徴の1つになるのでしょうか。
Intelは無線の調整やユーザー経験の向上に関して様々な取り組みを進めています。無線LANの規格は802.11bに続いてa、g、xが誕生し、また新しい規格が生まれようとしています。ボタン1つで、複数の無線ネットワークから最適の接続を検出するような仕組みが必要です。課金システムを構築する必要もあるでしょう。いずれにしても、業界がこの方向に向かっていることは間違いありません。
---かれこれ3年連続で教育問題を訴えておられますが、教育長官のポストでも狙っているのですか。
教育は複雑な問題です。この世界は驚くほど硬直していて、相当の勢いがなければ、(教育制度を)ほんの少しでも動かすことはできません。世界が飢えていても、自分たちの幸福を神様がくれた権利と考えるのが米国民です。幸いなことに、この国の大学教育はまだ世界最高の水準にあります。これをベースにK-12(幼稚園〜高校)のシステムを再構築し、大学教育を支えていかなければなりません。
---米国のビジネス環境についても積極的な発言をされていますね。企業をとりまく状況を改善するためには何が必要でしょうか。ストックオプションでしょうか、それとも頭脳流出をくい止めることでしょうか。
K-12教育です。これは実に年季の入った問題なのです。また、国立科学財団(NSF)のような組織に資金を与え、物理科学研究、IQ研究、工学研究、研究系大学を支援する必要もあります。ブロードバンドやインフラについて語ることのできる政府も必要でしょう。
---ブッシュ政権にはブロードバンドと通信の融合を推し進める能力はないということですか。
ブッシュ大統領をやり玉に挙げるつもりはありません。クリントン政権も似たようなものでした。いつでもFCC(米連邦通信委員会)が規制をふりかざして介入してくるのです。FCCは最近、ブローバンド投資に関する新しい決定を発表しました。しかし回線を開放し、競争を喚起するためには、この決定の内容は見直す必要があるでしょう。必要なのは投資を抑制する政策ではなく、投資を促進する政策です。私は何も、通信規制インフラすべてを見直せといっているのではありません。少なくとも21世紀のインフラ、つまりブロードバンドへの投資を喚起するような政策が必要だといっているのです。ほかの国々はハイテク産業を未来への投資と見なしているのに、米国はハイテク産業をあって当然のものと考え、さらなる税金を課そうとしています。
---政治家の反応はいかがですか?
我々(ハイテク業界の人間)は、政治家に対して2つの優位性を持っていると思います。第1に、再選の不安を抱える政治家に較べると長いスパンで状況をとらえることができるということ、第2に、概して政治家よりも旅行に出かける機会が多いということです。私は年に約30カ国を訪れます。そのおかげで、世界で何が起きているのかを見て、対応することができる。Intelのメッセージは一貫しています。それは、教育システム、研究開発、インフラを改善し、決して(規制による)害を与えないというものです。政治家がこのメッセージに耳を傾けるかどうか、どんな優先順位を置くかどうかは分かりません。我々はただ、メッセージを発信していくだけです。
今日は、「米国民なら愛国心を持って米国経済を支えるべきだ」といわれるかと思いました。他社の例にもれず、Intelのビジネスも年々国際化しています。当社は今後も米国を代表する企業であり続けるでしょう。その一方で、事業は世界に広がり、世界中のリソースを利用するようになっていることも事実です。Intel、Microsoft、Hewlett-Packard、Dellのビジネスは、ますますこうした性質を帯びるようになっています。我々にとっては地球全体が市場なのです。もちろん、米国には愛国的な忠誠心を抱いていますから、できるかぎり大きな声で意見を述べていくつもりです。しかし耳を傾ける人がいないなら、我々は迷わず、自社にとって正しいと思うことをするでしょう。
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