電話、テレビ、インターネット---これらはもはや生活に欠かせない情報インフラといえるだろう。ソフトバンクグループはADSL接続サービスのYahoo! BB、IP電話のBBフォン、そして3月から商用サービスを開始した放送事業のBBケーブルTVをまとめて提供することで、この3大情報インフラを押さえようとしている。
BBケーブルTVは、Yahoo! BBのADSL回線を利用した会員向け多チャンネル放送サービスだ。回線につながれたセットトップ・ボックス(STB)をテレビに接続させ、リモコンで操作する点に特徴がある。初期費用9800円に月額2500円という低価格帯、そしてケーブルテレビのように24時間放送されるチャンネルのほか、見たいときにコンテンツを購入して視聴するビデオ・オンデマンド(VOD)サービスの2種類を用意することで、加入を促していく考えだ。
このBBケーブルTVの事業企画を担当するのがBBケーブルTVを運営するビー・ビー・ケーブル取締役の楜澤(くるみさわ)悟氏である。楜澤氏はかつてソフトバンクがNews Corporationと共に立ち上げた衛星放送事業JSkyB(現在はスカイパーフェクTV!に合併)にも携わっており、ソフトバンクグループの放送事業戦略の中枢を担う人物である。日本初のADSLを利用した放送事業に収益性はあるのか、また、光ファイバーの普及が広がり始める中、ADSLを利用したサービスに限界はないのか、楜澤氏に話を聞いた。
---サービスを開始してから1カ月が経ちましたが、現状はいかがですか。
まず放送コンテンツについては、現在のチャンネル数はポータルも含めて6チャンネルとなっています。近いうちに基本チャンネルを19チャンネル、オプションの有料チャンネルを3チャンネルにまで拡大していく予定です。VODコンテンツは、現在250本ほどとなっています。
---加入者数について聞かせてください。どの程度で損益分岐点に達しますか。
現在はまだサービスを始めたばかりですが、Yahoo! BBユーザーの10%を目標にしています。損益分岐点は50万件の加入があれば十分というところです。インフラに関してはYahoo! BBが1千数百億円を投資していますが、ビー・ビー・ケーブルの投資規模は数十億円程度です。当社が設備投資したものとしては放送センターとSTB、それらを統合するシステム全体の開発くらいですから、損益分岐点に達するのはそう遠くはありません。
--- BBケーブルTVの構想はいつ頃からあったのでしょう。
Yahoo! BBを開始したときには、すでに追加サービスとしての構想がありました。ブロードバンドを利用したコンテンツとして特に動画コンテンツが注目されていますが、今までの動画コンテンツはほとんどテレビ向けに作られてきたものです。そこで、ユーザーが今まで一番慣れ親しんできたテレビを出口とするのがよいのではないかと考えたのです。
---ソフトバンクは過去にJSkyBという事業を立ち上げ、衛星放送に力を入れていましたね。
ええ。私や当社代表取締役の橋本太郎も含めて、JSkyBにいた人間がビー・ビー・ケーブルには何人もいます。BBケーブルTVは全く持って新しいことを始めたわけではなく、過去のビジネスの延長上にあるのです。ソフトバンクグループが進めるブロードバンド戦略の上で、私たちが経験してきた放送事業を発展させて花開かせようという、ある意味本命の事業なのです。
---BBケーブルTVの成功の鍵を握るものは何でしょう。
コンテンツですね。コンテンツプロバイダに我々のサービスを理解していただき、いかに良いコンテンツを提供してもらうかだと思っています。日本には良いコンテンツが数多く埋もれています。ビデオ化されていない、店頭にはなかなか置いていないといったものもたくさんあります。それらをどんどんBBケーブルTVで出してもらえるようにしたいですね。
コンテンツプロバイダとの契約形態については、VODコンテンツの場合当社とコンテンツプロバイダで売上げを数十%ずつ分け合う形をとっています。それ以外のチャンネル放送の場合はケーブルテレビと同じビジネスモデルで、ユーザー1人当たりいくらという契約です。現在20〜30社と契約を結んでいます。
---日本におけるVODの市場規模はどのくらいになるのでしょうか。
有料放送市場はまだまだ発展途上ですので、なんとも言えません。ソフトバンクは常に、それまで日本になかった市場を切り開いてきた企業です。自分たちがどれだけ成長できたかが、振り返れば市場の大きさになっています。
よくライバルとしてケーブルテレビやスカイパーフェクTV!が引き合いに出されるのですが、ライバルを挙げるほど有料放送市場は育っていません。日本で有料放送を利用している世帯はまだ全体の15%ほどで、米国に比べると非常に小さい数字です。すでにある市場を争うのではなく、お互いに切磋琢磨して市場を拡大していこうと考えています。ただ、レンタルビデオの市場が何千億円規模だということを考えれば、かなり大きな市場になる可能性は秘めていると思います。
---VODの利用料金は1本当たり200円から500円ということで、レンタルビデオとあまり変わらないようですが、レンタルで十分ではないですか。また、「好きなときいつでも見られる」という利点は、「いつでも見られると思うと、逆にいつまでも見ない」ということになりませんか。
BBケーブルTVのポータル画面。 各番組の宣伝が行われている | |
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レンタルで十分という人もいると思います。しかし、忙しくて店が開いている時間に行けないという人や、近所にレンタルビデオ店がないという人もいます。それに、ビデオを借りに行くときは楽しくても、返しに行くのは面倒なものです。
いつまでも見ないまま、ということはあるかもしれません。それでも、見たいときにすぐ見られるという利便性がありますし、チャンネルポータルサイトでプロモーションができる点が強みだと思っています。
---回線の安定性を疑問視する声もあります。
BBケーブルTVでは、サービスに加入していただく前にユーザーの過去1カ月間の回線状況を分析し、安定した帯域が出るかどうかを確認します。60〜70%の人は問題なく利用できますが、回線状況が良くない場合は入会を断る場合もあります。
ADSL市場はまだまだ伸びると思います。2003年3月末のDSL加入者数は700万件強ですし、ダイヤルアップでインターネットに接続している家庭も多いです。そういったユーザーを掘り起こすまで、ADSLの伸びは続くでしょう。
FTTHが今後普及していく可能性はあると思います。しかし、FTTHを利用するには家庭内に回線を引き込む工事が必要です。それに比べADSLはすでにある電話線を利用すればいいだけです。
さらに言えば、100MbpsもあるFTTHが本当に必要でしょうか。すでにADSLでできないことはありません。テレビも見られるし、VODもできて、ネットも快適につながる。ADSLはまだまだ高速化します。現在は12Mbps程度ですが、近いうちに20Mbpsになりますし、今後もさらに進化します。それで十分ではないでしょうか。万が一FTTHが主流になるような事態があっても、その前にソフトバンク側でFTTHへの対応を進めるでしょう。
---しかし、もしFTTHが主流になれば、この事業への投資は無駄になるのではないですか。
いえ、STBにイーサネットがつながっているだけですから、Yahoo! BBのサーバを利用したシステムを使うのであれば回線はADSLでもFTTHでも問題はありません。
---他の通信事業者もコンテンツプロバイダと組んで事業展開を進めています。NTT東西はディズニーと手を組みましたが(関連記事)、その点はどうお考えですか。
ディズニーに関しては、BBケーブルTVでも「ディズニーチャンネル」を始める予定です。ISPがテレビ向けにコンテンツを流すのは、システム的にも、技術的にも簡単ではありません。急に真似をしようとしても難しいと思います。またNTTの場合、回線事業者とISPが別会社ですから、ここを調整するのは相当大変でしょう。その点私たちは同じグループ会社なので動きも早く、優位に立てると考えています。
---海外でのビジネスは考えていますか。
海外からも非常に注目されています。例えばフランスで行われたデジタルコンテンツの見本市MILIA 2003では、弊社代表取締役の橋本がBBケーブルTVについて基調講演を依頼されました。海外のメディアからはずいぶん取材も受けています。
ADSLでテレビ放送を全国的に行った例は世界中を見てもありません。他がやっていない経験を私たちは積んでいます。ただ、他の国でも日本と同じような形でサービスを行うのは、そんなに簡単ではないでしょう。将来的には、現地のパートナーと協力し、私たちの経験を生かすことで同じようなサービスを行うことはありうると思います。それは面白いと思いますね。
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